カフェでの出来事と副隊長の苦労
結果的に、グイメハムではなく北の詰所にほど近い街の、雰囲気の良いレストランへ連れて来てもらった。持つべきものは竜の友だ。ものの数十分間で移動できる。
「ご馳走さまでした。アミューズからデザートまで全部凝ってたね。可愛くて美味しかった」
カジュアルなランチコースなのにアミューズが何種類も出てきて、目にも楽しかった。味も文句なしだ。
「気に入ってくれたようで俺も嬉しい。よかった」
「こちらこそ。素敵なお店に連れてきてくれてありがとう」
感謝を伝えるとロクランは嬉しそうに微笑んだ。今日は朝から機嫌が良さそうに見える。休息って本当に大事よね。私はしみじみと思った。
この街は、グイメハムからは三十マイルほど離れた高地にある。初めて来た街なので、帰る前にしばらく散策をしたいと言ったら、ロクランが案内を買って出てくれた。親切。
「というか、時間はいいのかしら」
「問題ないよ。休暇は明日までだし、予定も入れてないから」
官舎まではここからは徒歩圏内らしく、ロクランはランチ前に一度帰宅して荷物を置いてきている。
「リオワースとは何時に待ち合わせる予定?」
「六時の鐘が聞こえたら、郵便局の広場に来るように言われた」
こちらでリオワースと一緒に夕食を取ることも考えたが、必然的に酒が入るので却下。大切な友人に飲酒飛行をさせるわけにはいかない。
安全第一。飲酒はグイメハムに帰ってから。
「どこへ行きたい?」
「本屋と鉱石屋と酒屋。あとは近くの森を見てみたいかな」
「すごく君らしいセレクトだね」
「どこに出会いが転がってるかわからないからね」
特に酒。
「少し歩くけど小さな森がある。そこでいい?」
「もちろん。さすが詳しいね。助かる」
やはりその土地に住んでる人のガイド付だと、効率よく巡ることができそうだ。寄り道をしがちで、何かと余計なものに気を取られる私のような人間には必要だろう。
「じゃあ行こうか。ここからだと鉱石屋が近いかな」
ロクランの先導で通りを進む。知らない街を歩くのは楽しい。目的のお店を見て回り、いくつか買い物をして休憩のためカフェに入った。
「あれ? 副隊長?」
テラス席へ案内された私たちに、奥にいた三人組の男性たちが声を上げる。ちらりとロクランを見上げたら、面倒くさそうな顔になっていた。
「戻ってきてたんですね! ていうか……」
連れがいることに気がついたのか、彼らはそこで言葉を切った。チラチラと私とロクランとに視線が往復する。ロクランはため息をついた。
「……テア、あいつら同僚なんだけど紹介してもいい?」
なにかを諦めた様子で、ロクランが小声で尋ねてくる。
「構わないよ。というか、問題でもあるの?」
「……いや、ないというかあるというかないというか」
どっちだよ。
ロクランはもう一度ため息をつくと、同僚の方々のテーブルへと私をエスコートした。
「テア、俺と同じ部隊に所属しているセルジュ、レフィ、マルセル。以上」
「副隊長、紹介が雑!」
笑いを含んだ抗議の声が上がるが、ロクランは無視した。
「俺の大切な友人のテア。グイメハムのコロルリアだ」
「初めまして、テアです」
基本的に、うっかりが多い粗忽者の私だが、初対面の方への笑顔の挨拶は及第点をいただけると思う。ニ時間くらいならいい感じの猫を被れる程度には大人のつもりだ。
それに友人と紹介されたからには、きちんとした人感を出さねば。
「初めまして。あなたが例の……」
「あのとんでもないメディカルバームの方でしたか!」
「間接的にものすごくお世話になっています。本当にありがとうございます」
多分、最後の方がロクランが言ってた「やたら傷だらけになる部下」の人だろう。確かに、紹介いただいたお三人の中では一番やんちゃそうだ。思わず微笑んでしまう。
「即効性があって痛くないし。香りのせいもあるんでしょうけど、塗る時になぜかホッとするんです」
「それに肌が綺麗になるし」
「そうそう。傷跡が残らない上に、つるつるすべすべになる」
「もっちりふわふわの肌にランクアップして驚きました」
「気に入っていただけたのなら私も嬉しいです」
なんか途中から聞き返したくなるお言葉が続いたようだけど、きっと気のせい。というか、性別関係なく美容は大事よね。うん、大事大事。
どちらにせよ、使用した感想を直接聞くことができる機会はありがたい。様々な意見をもらえれるのは嬉しいし、改良する箇所も発見できる。
希望をいくつか聞いたり、軽く質疑応答したあとのことだ。傷だらけになりがちなマルセルさんがこんなことを口にした。
「テアさんのメディカルバーム、一番恩恵を受けているのは間違いなく俺なんですけど、俺以外にも熱烈なファンが何人もいますよ」
ほほう。予想はしていたが怪我の多い職場のようだ。
「光栄ですわ」
「中でもうちの隊長が一番熱量があるんじゃないかな」
「まあ、隊長さんまで?」
思いのほか口コミが広がっているようだ。
「うちの隊長、作戦指揮を副隊長に丸投げして先頭に立って突入する人なんで、細々とした怪我が多いんですよ」
私は微笑みを固めたまま友人を見上げた。ロクランはどこか遠いところを見つめている。
これか、ストレス原因。
「大きな負傷はないんですよね、隊長。なんていうか野生の勘が異常に鋭くて。俺たちもそれに助けられることが多いんです」
危険を回避する能力は素晴らしいが、真っ先に特攻するのは軍事組織の指揮官としてはどうなのか。
「なので、軽傷をサクッと治療できるこのバームは隊長のお気に入りなんですよ」
部隊の備品として公式に取引した方がいい案件のような気がしてきた。どう考えてもロクラン本人以外に消費されている。
幸いにして、私は公的機関への会計登録は済んでいる。ある程度の実績もあるので、依頼があればすぐに直接取引ができる。
承認権限は隊長さんにあるだろうから、ロクランと相談してみよう。
その前にこちらの連絡先を渡しておいてもらおうかな。ビジネスチップはまだ何枚か持ってたはず。
そんなことを考えていると、マルセルさんはすごくいい笑顔でこう続けた。
「うるさいくらいに麗しの魔女殿には一度お会いしたいって言ってるから、今日お話できたことを隊長に自慢してやろうと思います」
話がとんでもない方向へ曲がって行った。
困った。
確かに私は稀有な才能を持つ一流の魔女ではあるが、特別麗しくはない。
「……マルセル」
ロクランが大きくため息をついた。
「色々と任務に支障がでるので、隊長への自慢話は控えてほしい」
なにがどう影響して任務に支障がでるんだ。怖い。
というか、掘り下げると面倒そうなので、この場で隊長さんについては触れないことにしよう。そうしよう。
穏やかに微笑みながら、ロクランは提案する。
「今日のことは一切話さないと協力してくれるなら、テアの新作バームを特別にわけてもいいが」
「マジですか! 了解です。隊長には一言も喋りません」
他のふたりが物欲しそうな顔を上司に向けている。ロクランは苦笑した。
「……おまえらも同じものが欲しいのなら協力してくれ」
「やった! もちろんです、ありがとうございます」
どうやら魔女謹製の特製メディカルバームは、副隊長の懐柔工作として利用されるようだ。
お役に立てて何よりでございます。




