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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
リザの祭りと踊る初夏
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神に捧げる貢ぎ物のあれこれ

 珍しく早起きした私は、三対の猫苺亭へ向かった。

 出立前のパーシーさんに、幸運のお守りと渡し損ねていた私のビジネスチップを渡す。お返しに、可愛らしい色の小さな包みをいただいた。


「スミレの砂糖菓子です。サンプル用なんで少量ですけど」

「可愛いお菓子ですね。嬉しいな、ありがとうございます」

「こちらこそ。テアさんには本当にお世話になりました。帰りにはまた寄らせていただきます。いい結果を報告できるようにがんばりますね」


 何度もお礼を言いながら、パーシーさんは大公国へと旅立って行った。

 ダフネと少しおしゃべりをしたあと、リヌスのパン工房へ立ち寄る。朝の混雑が終わった頃合なので、お邪魔しても問題はないだろう。


「おはよう、リヌス。ロクラン起きてる?」

「おはよう。今日は早いな。上で荷物まとめてる」


 昨日約束したコーディアルを手渡すと、二階へ通される。客室のドアを三回ノックをすると、中から返事があった。


「おはよう。テアだけど今大丈夫?」


 小気味よい足音がしてドアが開く。


「早いね。どうぞ入って」


 休暇の間、色々と浄化されたり吐き出しりしたせいか、非常にスッキリした顔をしている。


「はい、昨日約束した飴と体調管理用のコーディアルとか諸々」


 昨日披露したタンポポコーヒーの飴は大好評だった。ロクランも気に入ってくれたようで、さっそく注文してくれた。

 どうやら深酔いしにくくなるようで、私の想定した以上に効果があったらしい。

 マリアアザミの吸収速度を上げたのと、少しの量でも効果があるように更に濃縮したからだろうか。自分の体で人体実験をし過ぎて、いまいち効果がわからなかったのだが、大酒飲みどもの感想を聞けてよかった。


「飴の部分も美味しかったよ。香ばしくて少しだけ苦味も隠れてて」

「糖蜜を使ったからね。タンポポコーヒー単独だと癖がなさすぎるから」


 穏やかに微笑みながら、素直に感心してくれる。


「花とベリーの二種類があるんだね。使い分け方を聞いていい?」


 瓶のラベルを見比べながら、ロクランは尋ねてきた。


「どっちも美味しいから普通に甘味料代わりに使っても問題ないかな。風邪の予感がしたら、フラワーコーディアルを温かいホットレモンや好きなティザンヌにたっぷり入れて飲んでね。喉がおかしいと思ったらベリーシロップをひと匙なめる楽になるよ」

「これは?」

「カモマイユシロップのカンディス。イラッときた日の寝る前に、お湯に溶かすか直接食べちゃって」


 カモマイユ以外にもオレンジの花とリリコイの花、それにリンデンの花も漬けたシロップだ。名付けて、とにかく寝て忘れろブレンド。


「あとはいつものハイペリカルバーム」

「助かるよ。でもこれ、多くないかな。いいの?」


 中型のキャニスターの他には、小さめのガラスジャーをいくつか。ロクランは定期的に購入してくれるので、おまけを奮発してみた。


「部隊のお友だちが欲しがってたって言ってたでしょ。おみやげ代わりに渡してあげて」


 ロクランの目元が柔らかく細められた。整った顔立ちなので、より優しそうな笑みに見える。


「ありがとう。テアのメディカルバームは効果が高いから奪い合いになっちゃうな」


 効果マシマシにしてあるからね。

 ヨハネスワートとカレンデュラ。それぞれ抽出した物を混合させると、双方の学名を合わせたハイペリカルに名前を変える。

 高濃度のアルコールで抽出すればハイペリカルタンチュメール、オイルであればハイペリカルオイルになる。

 手軽に作成するのであれば、基剤に両方のハーブを漬け込んでしまえばいい。それだけでも充分すぎるほど創傷治癒に効果があるが、私のレシピはもう少しだけ材料を増やしている。

 ハイペリカルオイルに蜜蝋とシアバターを合わせて魔法炎を使って練り溶かし、タイムの蜂蜜といくつかの精油を入れて冷まし固めたものが、こちらの逸品です。


「訓練の時にやたら傷だらけになる部下がいるから、まずはそいつに渡してみようかな」

「お。きちんといい上司してるんだね、ロクラン。さすが副隊長」

「……いい上司というか……中間管理職……」


 触れてはいけない部分に(かす)ったようだ。

 私は何事もなかったようにキャニスターの蓋を開けた。


「香りはいつもどおり少なめだけど、夏仕様にしてみたよ」


 闇に落ちそうな顔になりかけたロクランも、鼻先に差し出されたキャニスターに気を取られたのか、条件反射のような動きで匂いを確かめた。


「……本当だ。清涼感があるね。俺、今回の香りが一番好きかもしれない」


 追加した精油はベルガモットとラヴィンツァラ。それと高魔力で臨界抽出した乳香もほんの少し。

 傷跡が残らないようにしつつ、心も穏やかにしてくれる作用があるものをブレンドした。たとえ小さな擦り傷でも、ケガをした時ってしばらく落ち込んじゃうからね。


「そろそろここを出る感じ? 北の詰所だとロクランの足で五、六時間くらいだよね」


 時刻は十時少し前。六月なので陽が落ちるのは夜中の十一時くらいとはいえ、早めに到着したいだろう。


「リオワースが送ってくれるんだ。暇だからって言ってたけど、彼は優しいよね」

「そっか。よかったね」


 それなら安心だ。リオワースならひとっ飛びだしね。

 また長距離トレイルランで山岳を縦走するのかと思っていたので、遭難の心配をしなくて済む。

 戦闘能力は高いし、単独の野外行動はもちろん野営にも慣れているロクランだが、世の中の不運を集めまくったような訳のわからない事故にたびたび巻き込まれている。

 考えてみると、絶妙のタイミングで不幸の当たりクジを引いてばかりいる気がするのよね。

 ロクランにはタリスマンより強力なガチのアミュレットを贈った方がいいのかもしれない。あの絶品クランペットが食べられなくなるのは困る。

 トリスカニッレの更に南にあるサイキリアという国に、古代グリモワールの写本を大量に納めた大図書館がある。アミュレット研究のために久々に行ってみるか。

 よし、南方へ行くぞ。私の夏は完全に決まった。


 私がそんな決意を固めていると、視線を感じた。斜め上を見上げるとロクランと目が合う。なにか言いたいことがあるようなので、発言を待つ。


「あのさ、テア。これから用事ってあったりするかな」

「ないよ」


 返事をすると、ロクランは安堵したようにひとつ息をついた。


「よかったらランチをご馳走させてほしい。君にはいつも助けられてばかりだから」


 クランペットの神に感謝の貢ぎ物をしてるだけだから気遣いは無用なのだが、奢りの誘いは断らない主義の私だ。喜んで応じる。


「さっきダフネに教えてもらったんだけど、今日のマリー・ルーではホワイトアスパラガスが食べられるんだって。楽しみだね」


 マリー・ルーは、グイメハムの数少ないお洒落な食事を楽しめる店で、気軽に入れるビストロだ。

 そろそろホワイトアスパラガスの季節も終わりそうだし、今週中には顔を出そうと思ってたので、丁度いい。


「いや、あの」


 私の考える本日のマリー・ルーにおけるホワイトアスパラガス料理の予想あれこれは、少し慌てた様子のロクランに止められた。


「マリー・ルーも素敵なビストロだけど、今日は別の店に行こうと思ってる」

「そうなんだ。ヤスペルさんとこの気まぐれ屋台かな。青空の下で一杯飲みながらハーリングの立ち食いもいいよね。ヤスペルさんのブローチェ・ハーリングは絶品だし、揚げたてのキベリングも最高だし」

「今朝まで浴びるほど飲んでたというのに、迎え酒上等みたいな提案をしてくる君のワイルドさも嫌いじゃないけど、それはそれで次の休暇の時に受けて立とうと思う」


 真顔で却下された。違うのか。

 他に外食できる場所ってあったかしら。

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