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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十八章 友好の花編
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第五百六十四話 その意図は……

「実は……少し増やしてみたのです」


リルレイン侍従長は、怒りと動揺が悟られないように、努めて平静を装いながら口を開いた。その様子を、使者の男は満足そうな表情を浮かべながら頷いている。


「ええ。あれは「友好の花」。あの花の数が増えれば増えるほど、我々クリミアーナ教国との友好が深まります。どんどん増やしてください」


……どの口がそんなことを言うのだ。侍従長は大声で叫びだしたい衝動を必死でこらえていた。


「しかし、あなた方も人が悪い」


リルレインに替わって、ファンタジック公爵が口を開く。彼の言葉が意外だったと言わんばかりに、使者の男は眼を見開いて、驚いた表情を浮かべる。


「何とご挨拶なお言葉でございましょう。あの友好の花は、我がクリミアーナ教国が秘蔵する花でございます。四季折々に花の色を変え、さらには、すばらしい香気を持ちます。教皇聖下にあらせられましても、あの花を特にお気に召しておられまして、いつもお傍に置いておいでなのです」


「ああ。確かに、あの花の香気は素晴らしいものだった。妻も大変に気に入っていた。今は、少々、迷惑だが」


公爵の言葉に、男は恭しく一礼する。


「だが、まさかあの花に、あれほどの繁殖力と生命力があるとは、思わなかった」


「ほほう、それは……」


「とぼけるな」


公爵のドスの効いた声が響き渡る。その隣で、リルレイン侍従長も、男を睨みつけている。


「貴様らの魂胆は見えている。あの花を我が国に植え付け、その驚異的な繁殖力と生命力、そしてあの濃い臭気をもってこの国を覆い、滅亡に導こうとしていたのだろう。だが、そうはいかぬ」


「いえ、我が国にはその意図はございません。確かに、友好の花は……」


「もうよい」


「……」


「我々は、あの花がこれ以上繁殖できぬように、完璧に手を打った。貴様らの企ては失敗したのだ」


「左様でございますか、それならば話は早ぅございます」


「何?」


いつしか、使者の表情から笑みが消えていた。彼はこれまでの甲高い声から一転して、落ち着いた声で語り始めた。


「あの花の繁殖を抑えたと承りましたが、差し支えなければ、どのようになされたのでしょう。お教え願えませんか?」


「……」


「すべての花を抜き、焼いてもまだ、花は咲き続けている。違いますか? ……どうやら図星のようですね」


男は満足そうな笑みを浮かべると、大きく頷いた。


「いかに完璧に対処したとしましても、あの花の消し方を知っているのは、我々のみでございます」


「我々の対応が不十分だというのか!」


「ええ、残念ながら。おそらく、時が経てば、花は再び爆発的に増えていくかと存じます」


「貴様らは一体、何のためにこのようなことをする! 一体何が望みだ?」


「お話が早くて恐れ入ります。我々の望みは、貴国との交易でございます」


「交易?」


「左様でございます。我がクリミアーナ教国は、領土も狭く、資源も少なくございます。我が国が生き残るためには、多くの国と交易を行い、必要なものを常に買い揃えていく必要がございます。交易を行う国が増えれば、それだけ、我が国の命が長らえられるのでございます」


「たかが交易を行うためだけに、クリミアーナはあんな恐ろしいものを我が国に寄こすのか」


「そうでもしませんと、貴国は我々の話に耳を傾けぬでしょう」


「よくそのようなことが言えるものだ!」


公爵の怒号が部屋の中に響き渡った。だが、使者の男はそんなことは意に介さないとばかりに、これまで通り落ち着いた声で、話を続ける。


「我が国は今、先の火山の噴火におきまして、甚大な被害を受けております。これは世界中で同じことが言えるかと存じます。このままでは、世界的に食糧危機に陥ることは目に見えております。そのために、我々は、短期間で育ち、しかも、強い生命力を持つ作物を開発しようと試みております。それが、貴国に差し上げました、友好の花でございます。この度は、貴国に対して大いなる迷惑となったかと存じます。しかし、そのお陰で、この花の効果と効率的な活用方法がよくわかりましてございます」


「我が国を、実験台に使ったというのか……」


「有体に申し上げれば、そうなります。しかし、我々は貴国を亡ぼす意図は毛頭ございません。貴国を亡ぼすのであれば、何で私が使者として赴きましょう。国が亡びるまで傍観すれば、事は足りるのです」


使者の男は、わかったか、と言わんばかりに、二人の眼を交互に見つめる。


「本日、私がこちらに赴きましたのは、貴国に生えているナイエ草。あれを我々に売っていただきたい。そのお願いに上がった次第です」


公爵と侍従長は顔を見合わせた。ナイエ草は、この国の山の上に生えているコケのような草で、それを煎じて飲めば、疲労回復に効果があると言われている薬草だった。


「我々が開発しようとしている作物の種を作る際に、そのナイエ草を混ぜ合わせれば、さらに効率的なものが作れるという研究成果が出ております。しかし、残念ながら、ナイエ草が生えているのは、世界広しといえども貴国のみ。その貴国は、我々を含む諸外国とは長い間交易を断ってこられた。そんな貴国に、我々の話を聞いていただくためには、このような手段を取るしか方法がございませんでした。お許しください」


使者の男は、そう言って深々と頭を下げた。


「また、貴国に対しまして、我が国の枢機卿が無礼を働きましたことについても、深くお詫び申し上げます。我が国としましても、あのようなことを致すつもりは毛頭ございませんでした。無礼を働きました者は厳しく罰することといたします」


そこまで言うと、使者の男は沈黙する。そして、ファンタジック公爵とリルレイン侍従長を交互に見比べながら、再び柔和な笑みを浮かべた。


「我が国としては、貴国との友好を切に望んでおるのです。そうすることで、この世界を救いたいと考えているのです。その証としまして、今、貴国に生えている友好の花をすべて駆除してご覧に入れます。ええ。見返りなどは一切いただきません。すべて、我が国の費用でやらせていただきます」


「それならば……」


思わず口を開いたリルレイン侍従長を、ファンタジック公爵が押しとどめた。彼は侍従長に向かってゆっくりと頷くと、使者の男に向き直る。


「これは、我々が判断できることではない。大公様にご判断いただくこととする」


「ええ、よろしゅうございます。よいお返事を期待しております。我々は、貴国との交易を切に希望しておりますが、それは決して私利私欲のためではございません。そのこと、よろしく大公様にお伝えください」


「その前に、一つ、聞きたいことがある」


「はい、何なりと」


「あの友好の花を、どうやって葬り去るのだ」


「……」


「それを明かさねば、大公様は首を縦には振らぬ」


使者の男は、少し考える素振りを見せたが、やがて、ゆっくりと一礼をして、侯爵たちに視線を向け直した。


「ごもっともな仰せです。なに、簡単なことです。あの花をLV5の火魔法で焼き切るのです」


「LV5の火魔法……」


「はい。私どもには、火魔法を極めた者がおります。その者に、友好の花をすべて、葬り去らせます」


ファンタジック公爵とリルレイン侍従長には、その言葉に説得力を感じていた。世界でも数名しかいないというLV5の火魔法の使い手ならば、花の実も種も、根までも完全に焼き尽くすだろう。


「そのことも含めて、大公様に申し上げることとしよう」


「はい。何卒よろしくお取り計らいのほどを。よい返事を、期待しております」


そう言って男は一礼して、その場を後にしていった。


「公爵様……」


リルレインが、何とも言えぬ表情で公爵に視線を向けた。だが、彼はそんな侍従長を鋭い眼差しで睨みつけた。


「クリミアーナは確実に我が国を狙っている。花の駆除を口実に、無理難題を吹っかけてくるのは目に見えている」


「しかし……」


「ともあれ、これは、我が国の命運がかかっている。大公様に決断していただくほかあるまい」


公爵の言葉に、リルレイン侍従長はゆっくりと頭を下げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おーーい!アガルター!火魔法極めた人おるやろー!ヘールプ!
[良い点] まさに外道、宗教マフィア滅ぼすべき アフロを燃やすしかない しかし長期的な信用を放棄して値段交渉も済んでない刹那的な取引権を得るためだけとは到底思えないのでこれはまだ悪辣な罠が待っていそ…
[一言] 更新有り難う御座います。 ……何故か脳内で、肥大化した友好の花とリューオー君がバトルを? (お正月映画感)
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