第五百四十話 解放
ラッカーは程なくして、サブクリナー王国に帰国した。王都では数万の民衆が出迎えて、その帰還を祝った。その光景は、ラッカーの心に深く刻み込まれた。
大歓声の中、彼は居城へと通じる道を、馬に乗ってゆっくりと進む。そのすぐ後ろを、総司令官のサネナがピタリと付いている。
「ご覧ください、この民衆たちを。この国に住む者は皆、国王様をお慕い申し上げておるのです」
サネナのその言葉の裏には、ヴィエイユに執心せずに、国内の事柄にもっと目を向けよという諫言が隠れていることを、ラッカーは理解していた。それは痛いほどにわかっている。国内には問題が山積していて、すぐに対応せねばならない問題も多かった。特に、ルワザン島のレイス火山で起こった大噴火は、この国にも影響を与えていて、とりわけ農作物への影響が懸念されていたのだった。学者たちの話では、向こう数年間は不作になるだろうと言われているのだ。
だが、頭ではわかっていても、やはり、ヴィエイユ様のことを思うと、心が張り裂けそうになる。一瞬だけでも、一目だけでも会いたい……。いや、会えずとも、ヴィエイユ様がおわす、教皇神殿に行きたい。行けば、中に入りさえすれば、ヴィエイユ様と顔を合わせる可能性はある……。
ラッカーはふと、我に返る。目の前には、相変わらず声援を送る民衆たちがひしめいている。そんな彼らを前に、ヴィエイユ様のことを考えてしまった自分が情けなく、彼は思わず苦笑いを浮かべるのだった。
リジアがラッカーの許に到着したのは、それから、十日ほど経ってのことだった。
リジアがたった一人で居城に到着したと聞いて、ラッカーは驚きを隠さなかった。アガルタからサブクリナー王国まで、船で十日はかかる計算だ。しかも、彼女は一人で船を乗り継いでここまでやって来たのだと言う。サイリュースとはいえ、女性であることには変わりがない。女性が一人、船旅をして、全く遅れることなく、十日で到着したその行動力に、ラッカーはいたく感心したのだった。
到着して早々、目通りしたリジアは、居並ぶ家来たちの前で、堂々とこんなことを言ってのけた。
「この国に来るまでに、色々な国を見てまいりましたが、この、サブクリナー王国は、とても美しく、私はとても気に入りました。多くのことが学べそうな気が致します。非才なる身ですが、よろしくお引き回しのほどをお願い申し上げます。国王様の前でこのようなことを申し上げるのは不躾ですが……私は、この国で骨を埋めてもよいと思っております」
そのあまりにも正直な物言いに、眉を顰めるものも多くいた。だが、若い家来たちは、リジアの美貌に目を奪われる者も多く、これを好機として、彼女に積極的にアプローチをしようとする者も多く見られた。
ラッカーは、そうした動きを見るにつけ、まるでヴィエイユ様が家来たちに汚されるような気がして、我慢がならなくなった。程なくして彼は、リジアを後宮で学ばせると発表した。表向きは、皇后付きの女官として仕えさせるという名目だったが、彼の好色さを知る家来たちは、一人もその言葉を信じなかった。後宮には十人もの側室がいるが、その中に、リジアというサイリュースが一人加わったのだと、誰もがそう思ったのだった。
ラッカーは、リジアに手をつけないでおこうと心に決めていた。彼女はアガルタからの預かり者だ。そんな彼女に手をつけたとあっては、周囲の聞こえが悪い。彼女は後宮でしばらく行儀見習いをさせるのだ……。
しかし、事は彼の思い通りには進まなかった。後宮に住む彼の妻たちは、リジアを彼の寝所に召すことに反対するどころか、全員が賛成するありさまだった。彼女らからしてみれば、強い性欲と共に、キツイ体臭、そして、流れ出る彼の大汗にまみれながら過ごす夜は、苦痛以外の何物でもなかった。そのため、彼女らは結託して、リジアに王の寝室に向かうよう勧めたのだった。
武勇優れた王として、民衆の人気を集める彼だが、不幸なことに、家庭には恵まれていなかった。
夜、寝室に向かおうと廊下を歩くラッカーの目の前に、不意にリジアが現れた。彼女は白い衣装を纏っていて、それは、ヴィエイユがいつも着ている服のデザインに酷似していた。ラッカーは一瞬、ヴィエイユ様がおいでになったのかと錯覚したほどだ。すぐにそれはリジアだと気が付いたが、彼はもう、心の中に湧き上がる欲望を抑えることができなかった。
ラッカーは無言でリジアの手を取ると、そのままベッドルームに連れ込んだ。
リジアはすべてのことを承知していた。ラッカーに命じられてもいないのに、淡々と服を脱ぎはじめた。
ラッカーは見ていた。サイリュースは絶世の美女だという評価を得ているという。確かに、それだけの容貌姿態の持ち主だ。それだけではない、どの角度から見ても、ヴィエイユ様によく似ている。きっと、あのお方も、こんなふうに脱ぐのだろうと思わせるような振る舞いだった。リジアの体は、彼が肌を重ねたどの女性よりも、遥かに凌駕したものだった。ラッカーの鼓動が高くなっていく。
ラッカーは裸になった。
リジアはためらうことなく、彼の前に跪いた。すでに男を知っているのか、彼女はラッカーが命じる前に、彼が望むことを汲み取って動いていた。ラッカーはその察しの良さに驚きながら、彼女の動きをじっと見ていた。
……もしかすると、ヴィエイユ様も、アガルタ王に、こんなことを?
一糸まとわぬ姿で、アガルタ王の命令に唯々諾々として従うヴィエイユ様の姿が脳裏をかすめた。その瞬間、彼の心の中に、激しい嫉妬の炎が燃えあがった。
ラッカーはリジアをベッドに横たえた。
小さいが、形の良い乳房に唇をつけた。リジアの体が震えて、高いうめき声を立てた。しばらくすると、リジアは下半身を激しくくねらせた。上下左右に尻を振っている。うめき声が、叫び声にかわりつつある。
ラッカーは、時間をかけてリジアの体を賞味した。彼の舌が届かないところはなかった。リジアは忘我の境地にあるように、ずっと叫び続けている。
ラッカーはリジアをうつ伏せにした。盛り上がった尻だ。体の正中線が見事だった。金髪が躍っている。
ややあって、リジアの叫び声が途切れ途切れになった。どのくらい、彼女の声が響き渡っていただろうか。突然、ラッカーの獣のような咆哮が聞こえたかと思うと、部屋は静寂に包まれた。
ラッカーはリジアの体を抱きしめながら、この女性の体を自由にしているつもりで、実は彼女に自由にされているような夢路を辿っていた。リジアは、ほんの一呼吸か二呼吸するだけの休息をとると、以前にも増して、激しくラッカーにそれを求めた。
リジアとの肌の触れ合いの面積が広がり、何もかも彼女の肌に包み隠されてしまったように、ラッカーには感じられた。リジアの限りなき愛撫は休む暇なく続けられた。
リジアは、ラッカーの男としての能力を繰り返して呼び起こす法を知っていた。それは秘儀とも言えようか。身を捨てた奉仕と表現したらよいであろうか。ラッカーは女性という海の中に溺れ果てたような気持になった。
どれほどの時間が経っただろうか。飽きることのないリジアの体の感触をまるで呆けたように味わいながら、ラッカーは女性の体の偉大さを知った。選ばれた女性の体は、男をひれ伏させる力を持っている。男に君臨する、異様な神韻を秘めている……。
そんなことを思いながら、ラッカーはリジアの体を抱きしめたまま、深い眠りに落ちた。




