表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十七章 横恋慕編
536/1178

第五百三十六話 愛こそすべて

「まあ、お帰りなさい。どうしましたの?」


帝都の屋敷に帰ってくると、リコが俺の顔を見るなり声を上げた。どうやら、相当疲れた顔をしていたようだ。あまり、心配をかけてはいけないので、何とか元気な様子を取り繕うが、リコの眼はごまかせなかったようだ。


「食事は後にして、先にお風呂にします?」


「いや、大丈夫だ。お腹はすいているんだ。食欲があるってことは、元気な証拠だ」


「そうですの……」


リコはわかったような、わからないような、複雑な表情を浮かべている。そんな俺たちの様子など関係ないとばかりに、子供たちが出迎えてくれる。この子たちの笑顔を見ていると、本当に癒される。少し元気をもらった俺は、着替えのために離れに向かう。後からマトカルとシディーが付いてくる。


「どうされたのです? 何か、本当に疲れておいでですが……」


「いや、大丈夫だ。美味いものを食って、ゆっくり寝れば回復するよ」


鎧を脱がせながらシディーが心配そうに話しかけてくる。鏡を見てみるが、普段とそう変わらない気がする。そんな俺にシディーが言葉を続ける。


「様子はいつも通りですけれど、何というか……気配が、気だるそうな雰囲気をまとっています。これは……何か、気色の悪いものでも、ご覧になりましたか?」


「さすがだな。そんなことまで、わかるのか……」


シディーの直観力には敵わない。俺はため息をつきながら、首を左右に振る。


「一体、何をご覧になったのです?」


「まあ、本当に気色の悪い話だからな。食事の前にする話じゃない。まあ、食事が終わって、子供たちが寝静まった後にでも、話すとしようか」


俺の言葉に、シディーは小首を傾けた。


ダイニングに戻ってくると、食事の用意ができていた。パン、サラダ、スープ、パスタ、肉料理……。いつもの我が家の食卓だ。そう言えばしばらく、刺身を食べていないことに気がついてリクエストしてみる。この世界でも刺身は食える。もっとも、食っているのは俺たち家族だけなのだが。この世界では生魚を食べるという習慣がほとんどなく、リコたちに刺身の美味さを理解してもらうのに、かなりの時間がかかった。だが、一度食べてもらって、その美味しさを実感してもらうと、彼女らはすぐに馴染んでくれたのだった。


醤油はないのだが、ペーリスとリコたちが色々試した結果、醤油らしきものはできあがっていて、それを使うことにしている。醤油をムラサキと言うように、我が家で使う醤油も紫色だ。最初見たときは、一瞬、毒でもあるんじゃないかと思ったが、食べてみると、マイルドな醤油風味で、なかなかの味わいなのだ。


「せっかくお刺身を作るのでしたら、天ぷらも揚げましょうか」


「おお、いいなリコ。リコの天ぷらも久しく食べていないな。是非、お願いするよ」


そんな会話を交わしながら、楽しい夕食の時間は過ぎていく。皆、笑顔なのが何ともうれしい。フェリスやラースの見事な食いっぷり……。エリルがお姉ちゃんらしく、弟や妹の世話を甲斐甲斐しくしている光景……。おしゃべりしながらも、とても上品な振る舞いで食事をしているリコやメイたち……。そんないつも見慣れた光景が、俺の心の疲れを和らげてくれた。


そんな食事がすみ、子供たちを風呂に入れながら、ゆっくりと湯船につかって体の疲れを取る。子供たちももう、大きくなってきているために、風呂に入れるのはかなり大変になってきている。今日はマトカルとメイと三人で子供たちを片っ端から洗っていく。ただ、最近はエリルとアリリアが手伝ってくれるので、俺はこうしてゆっくりと湯船につかることができている。そんな娘の成長に目を細めながら風呂から上がると、子供たちは部屋に戻っていく。その後を、メイとマトカルが付いて行く。今夜は、この二人が子供たちを寝かしつける担当なのだ。


さすがに疲れているだろうと察したリコが、代わりましょうかと提案するが、マトカルは大丈夫だと言って、部屋に向かってしまった。あんな気色の悪い話を聞いてなお、疲れの色を見せないのは、本当に感心する。ラマロン皇国で受けた厳しい軍人訓練はダテではないようだ。


ダイニングでお酒を飲みながら寛いでいると、リコ、シディー、ソレイユの三人がパジャマ姿で現れた。三人とも、とてもいい香りがする。どうやら、今夜は三人一緒に風呂に入ったようだ。


「で、ラッカー様はどうなったのです?」


席に着くとすぐにシディーが口を開く。俺は酒の入ったコップをテーブルに置いて、ゆっくりと話し出す。


「今、ヤツはドルガの街に連行して、そこで軟禁されている」


「ヒヤマの砦はどうなったのです?」


「ちゃんと占領したさ。サブクリナー軍も抵抗することなく引き上げてくれたお蔭で、無血占領することができた。ルファナちゃんが、しっかりと警備を固めているはずだ」


「自国の王が捕らわれているのに、奪還する動きはなかったのですか?」


「なかった。大半の兵士がすでに船に乗り込んでいて、出港してしまっていたこともあるだろうが、残っていた兵士たちに、ラッカーの命は保証すると伝えたら、大人しく引き上げていったよ」


「アガルタ軍と戦っても勝ち目はないと、ちゃんと認識していたのですね。意外に、戦力分析が正確にできる軍勢だったのですね」


「そうだろうな。ただ、連行されていくラッカーを、草原に跪きながら見守っていたのは、ちょっとかわいそうだったな。ラッカーが通ると、皆、自分の名前を大声で叫ぶんだ。『国王様、サネナでございます!』、『国王様、レイ・ケリーでございます!』みたいな」


「王として、臣下から慕われているのですわね」


「そうなんだ、リコ。本来のラッカーは、有能な王だと思うんだ。ただ、ヴィエイユに恋してしまってから、かなり、おかしな男になってしまっている」


「おかしなこと?」


「そうなんだ……」


俺は、ラッカーが語った言葉をそのままリコたちに伝えた。さらに、ヤツが号泣した後、俺たちに語ったヴィエイユへの妄想も伝えた。


ラッカーは、一度、肌を重ねたならば、ヴィエイユを虜にする自信があるのだと言う。言葉は悪いが、最初はヴィエイユの体を思いの分だけ弄んで、その後、自分のものとする。そうなれば、あとはもう、自分から離れられなくなるのだ……そんなことを、ヤツは誰に言うともなく呟いていた。一見すると、フラディメ王国のメインティア王と似ているが、どういうわけか、彼の場合は、ラッカーほどの嫌悪さは感じない。見た目が、すっきりと上品だからだろうか……?


「それは、いけませんわ」


リコが呆れたような、さも、残念と言った表情で口を開いた。シディーもリコの言葉に、大きく頷いている。


「ラッカー様は、ヴィエイユさんを単なる欲望を満たすだけの存在としてでしか、見ていないのですわ。今のリノスのお話を聞く限りでは、ラッカー様にヴィエイユさんへの愛情は感じられませんわ」


「ああ、確かにそうだな」


「そのような、欲望を満たすだけの対象としてでしか見ていない御方を受け付けないヴィエイユさんの振る舞いは、理に適っていますわ。女性は誰だって、自分のことを大事にしてくれる方と一緒に時間を過ごしたいと思うものですわ」


確かにそうだと、俺は頷く。そう言えば、メインティア王は、この世のスケベ大明神と呼んで差し支えない程の好色だが、彼は女性に対して愛情がある。例え、無理やりベッドに引きずり込んだとしても、そのアフターケアは万全なのだろう。それを証拠に、彼が手をつけた女性から、メインティア王の恨み節を聞いたことがない。なるほど、愛の有無がその違いなのだろう。


「そうだな。リコの話でようやくヤツに感じていた嫌悪感の理由がわかった気がするよ。ヤツには、愛情ってやつを、噛んで含めるようにして教えてやらねばならんな」


「リノス様」


突然、ソレイユが口を開いた。彼女はいつも以上に色っぽい目つきをしながら、俺を眺めていた。


「今回のこの件、私にお任せいただけませんか?」


「何? 何か、策でもあるのか?」


「ウフフ……」


ソレイユは何やら嬉しそうな表情を浮かべている。それを見ながら俺は、一抹の不安を心に覚えるのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エロ嫁が何してくれるの!? たぶんエロいことに違いない! [一言] 小娘の危機回避能力は本物だったようだ そりゃ何でもすると言ったすぐにも否定するわな
[一言] 更新有り難う御座います。 ……愛の説教(物理)部屋行き?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ