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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十七章 横恋慕編
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第五百三十二話 どういうこと!?

「アガルタ軍が動いたか! それを指揮するのはアガルタ王リノス本人か!」


ラッカーはそう叫びながら立ち上がった。彼にとって、待ちに待った報告だった。


アガルタ軍が都を出発したのは、およそ三日前のことだった。アガルタの都からこのヒヤマに至るまでは、最短で五日。早ければ明後日にはアガルタ軍と刃を交えることができる。もしかすると、あの軍勢のことだ、もう少し早く到着するかもしれない……。そう考えたラッカーは、全軍に準備を整えるよう命じた。


「全軍、緊張して待て」


彼の前に控えていた伝令は、スッと一礼すると、脱兎の如く部屋を飛び出していった。


アガルタ軍がヒヤマの西、およそ十㎞離れた山の麓に到着したという報告があったのは、それから三日後のことだった。ラッカーはすぐさま斥候を出し、アガルタの動きを確認した。すると、彼にもたらされたのは、意外な報告だった。


「……なに、アガルタは兵を散らしているというのか!?」


すぐさま招集した軍議の席上、ラッカーは頓狂な声を上げた。その言葉に、司令官の一人が反応した。


「はい、まずは地図をご覧ください」


そう言って男は机の上に地図を広げ、それを司令官たちがのぞき込む。


「アガルタ軍到着以来、八方に放った斥候らの情報を総合しますと、まず、ヒヤマの西側十㎞の草原に三千、南側十㎞の草原に三千、ドルガとの間にそれぞれ、二千、二千、一千の軍勢が配置されております。そして……西側のコパス山にいまだ後詰として五千の兵力を残しているものと思われます」


「すると、しめて一万三千の軍勢か……」


司令官の一人が、誰に言うともなく呟く。その言葉に、ラッカーは大きく頷く。


「敵は、なにゆえこうも各地にのんべんだらりんと、兵を散らしているのか?」


若い司令官の一人が口を開く。その言葉を受けて、総司令官のサネナが身を乗り出した。


「さて、そこだ。アガルタ軍の狙いは、戦線を拡大して我らを混乱させようとしているとしか、思えん!」


「……此度の戦は、そのようなことはどうでもよい」


ラッカーが低い声で呟く。その瞳には不気味な光が宿っていた。


「問題は、アガルタ王リノスがどこにいて、それをどう攻撃するかだ。アガルタ王の首を獲れば、この戦いは終わりだ」


「……すると、国王様が言われていた作戦とは、アガルタ王お一人を狙うということでしょうか?」


「その通りだ、サネナ」


「事は上手く運びましょうか?」


「どういう意味だ?」


「アガルタ王リノスを討ったとして、我らは無事にこのヒヤマから撤退できましょうか? おそらく、アガルタ軍には、クノゲン、ルファナという司令官が従軍しているでしょう。一万三千の兵力と言えば、アガルタ軍はおよそ七割の兵力をこちらに向けていることになります。下手をすると、妃の一人である、マトカル司令官も従軍している可能性すらございます。アガルタ王を討ったところで、これらの一騎当千の司令官たちが、必ず我らを追尾してくるでしょう。我らも、無事では済むますまい」


「サネナ、貴様、何が言いたいのだ?」


「アガルタ王一人を狙って攻撃するという国王様の作戦は、見事かと存じます。しかし、仮にアガルタ王を討った後のことを考えますと、我らは手痛い反撃にあう覚悟をせねばなりません。さて、どうしたものか……」


「アガルタ王の首を挙げしときは、おそらく、我が軍はアガルタの精鋭たちに囲まれているだろう。だが、安心するがいい。そのときは、余が先頭を走って、血路を開いて見せよう。貴様らも、絶体絶命の中、余が血路を開いて脱出した場面を何度も見ているはずだ。此度も、それをやって見せようというのだ。安心するがいい」


サネナはラッカーの言葉をじっと聞いていたが、やがて、ゆっくりと息を吐きだすと、何度も頷きながら口を開いた。


「そのお言葉を聞いて安心いたしました。国王様の勇猛ぶりは、我らは何度も拝見しておりますし、その強さは誰よりもよく知っております。国王様が先頭に立って血路を開いていただければ、兵士たちの多くは命を保てましょう。ご安心ください。そのときの殿は、私が勤めます」


ラッカーはその必要はない、と言いたかったが、その言葉を思わず呑み込んだ。サネナの視線が、あまりにも鋭かったからだ。彼の言いたいことは、よくわかる。己の恋のためにサブクリナー王国軍を動かしている。こんなことをしていては、人心は離れるばかりだ。早く目を覚ましてくれ……。きっと、そう思っているに違いない。だが、その瞬間、彼の頭の中に浮かび上がるのは、あの、ヴィエイユの笑顔だった。あの天使のような笑顔……。小柄な割に豊満な体……。あの笑顔を、体を、何としても手に入れたい……。そのためには、アガルタ王リノスの首を何としても挙げねばならない……。ラッカーの眼に、不気味な光が再び宿る。


「何としてもアガルタ王リノスの居所を探せ。すべてはそれからだ」


彼の言葉に、司令官たちは無言で頭を下げた。


数時間後、ラッカーの許には、アガルタ軍の情報が次から次へともたらされていた。敵は歩兵が中心で、騎馬隊はごくわずかだった。ラッカーはてっきり、アガルタは騎馬隊を中心とした編成で来ると睨んでいた。すぐさま彼は、後詰として後方に陣を張っている部隊をよく調べるようにと指示を出した。


報告によれば、アガルタの歩兵は、全員が黒い鎧を装備し、槍を装備していた。その槍も、長槍とごく短い槍を装備する者の二通りあると言う。


「おそらく、短い槍を装備している者は、タナ王国のヴィル様の軍を葬った新兵器を装備しているだろう。それらは……。ヒヤマとドルガの間に配置された部隊が持っているようだな。おそらく、この部隊がヒヤマを攻撃するときの主力なのだろう。遠方から攻撃を仕掛けて、ある程度、我らの戦力を削いだところで、長槍隊が突っ込んでくる。そして、壁や堀を超え、城門が開いたところで、騎馬隊が突撃してくる……。およそ、アガルタの作戦はこんなところだろう。敵ながら見事な作戦だ」


そのとき、司令官の一人がラッカーの許に飛び込んできた。


「申し上げます! ただ今、我が先手隊の者が、コパス山を偵察しましたところ、アガルタ王リノスの姿を確認したとのことでございます!」


「見つけたか!」


ラッカーは目の前に広げられた地図に視線を向ける。


「アガルタ軍の配置は見事だが、己を守ることは頭になかったようだな。コパス山の前方に配置したのが長槍隊だけとは……。天は、主神様は我らに味方したぞ!」


ラッカーはスッと顔を上げると、まるで怒りにも似た大声を上げた。


「全軍出撃だ! アガルタ王リノスを討てっ。敵はアガルタ王ただ一人! 首を獲った者は望みの褒美を与える!」


ラッカー率いる軍勢は勢いよくヒヤマの砦を飛び出していった。


だが、彼が砦を出てしばらくすると、伝令の一人が大急ぎで彼の後を追いかけてきた。


「国王様、お待ちください! 国王様ぁ!」


忌々しそうな表情を浮かべながら、ラッカーは馬を止める。伝令は、ハアハアと苦しそうな息をしながら馬を降り、ラッカーの前に膝をついた。


「申し上げます!」


「どうしたのだ!」


「ヒヤマの東に展開している軍勢は、アガルタ王自身が指揮している軍勢であることがわかりました!」


「何っ! コパス山の一軍は囮だとそう申すのか!」


「国王様ぁ!」


激高するラッカーに、新たな伝令が現れ、彼の前で膝をつく。


「申し上げます! ヒヤマの正面に展開している軍勢……。そこに、アガルタ王リノスの姿を見つけました。本軍は、正面の軍勢です!」


「な、なに!? アガルタ王リノスが、三人もいると申すのか!」


ラッカーの怒号が、広い草原に響き渡った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バカな!質量のある残像だと!? [一言] 5嫁それぞれに1リノスの時代がやってくる!
[一言] 更新有り難う御座います。 リノスが細胞分裂!? ……まぁ、結界によるダミーなのでしょうが……。
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