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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十七章 横恋慕編
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第五百二十九話 戦力分析

【アガルタ軍】

総兵力数:約二万。

兵士は農民や市民を戦時に動員することはなく、全員が軍務に専従している。そのため、訓練はよく行き届いており、兵士一人一人のスキルは高い。これまで、タナ王国、バーリアル王国との戦いと、大きな戦いを経験しているため、兵士全員が百戦錬磨である。


軍構成:アガルタ王リノスの許、大きく分けて二つの軍団からなる。軍団長には、アガルタ王リノスの妃の一人であるマトカルと、クノゲンがその任に就いている。なお、アガルタ軍の総司令官は、クノゲンが就任している。主に、攻撃時の指揮はマトカルが執り、防御時の指揮はクノゲンが執る傾向があるが、二人の指揮能力は、アガルタ王リノスに勝るとも劣らぬ程に高い。


装備:結界石、黒鎧、長槍、魔法銃

兵士全員が結界石を装備しているため、物理的攻撃および魔法での攻撃は通じにくい。騎馬隊は槍を装備し、歩兵隊は長槍を装備している。併せて、歩兵の一部は魔力を溜めて攻撃する武器も携帯している。その威力は大きい。それは魔力のない者でも扱うことが可能。


特徴:軍勢の移動速度が極端に速い。結界によりほとんどの攻撃が無効化されてしまうため、兵士の損失が極端に少ない。世界最強の軍勢と言って過言ではない。


◆ ◆ ◆


ラッカーはアフロディーテにある屋敷の自室で、報告書を眺めながら、大きな溜息をつき、その大きな体躯を頑丈な椅子に預けた。我が国の軍人の分析力は群を抜いて優秀だと思う。一切の誇張も、脚色も、王たる自分に媚びへつらう姿勢は微塵もなく、ただ淡々と、冷静にアガルタの戦力を分析している。言わば、この相手の戦力を正確に見積もる能力こそが、ラッカー率いるサブクリナー王国の強みと言えた。


しかし、だ。アガルタ王リノスがこの世にある限り、ヴィエイユ様の心がこちらに向かうことはない。絶対にないと言ってよかった。よしんば、リノスがこの世から消えたとして、ヴィエイユ様が自分に振り向いてくれる可能性は未知数だ。だが、ラッカーには、根拠のない自信があった。必死で、誠心誠意、教皇聖下に尽くせば、必ず振り向いてくれるはずだ、と。


……寝ても覚めても、ヴィエイユへの思いがねばりついていた。


初めてその姿を見たときから、ラッカーの脳裏には常にヴィエイユがいた。少しでも近づくために、どんなに危険な戦いであっても、先頭を切って戦場を駆け抜け、クリミアーナに、ヴィエイユ様に敵対する者を倒してきた。その功績により、彼は教皇の近くに控えることが許された。そのため、ラッカーは、ヴィエイユの身辺を警備しながら、折に触れてその姿を盗み見ていた。もはや彼は、どうにかしなければ気が狂れるところまで、ヴィエイユの美貌に追い詰められていたのだった。


それほどまでに思いを寄せるヴィエイユ様……。だが、噂では、彼女はアガルタ王リノスに思いを寄せていると言われている。彼としては、それは決して受け入れられない、何としても否定したいところだった。だが、学会でのヴィエイユ様の振る舞いは、明らかにリノスに対して恋心を抱いていると思わせるものだった。口さがない者は、ヴィエイユ様はその美貌を以ってリノスを篭絡し、アガルタを支配下に置こうと考えているのだと言う。そんなことはして欲しくはない、それならば、自分がアガルタ王と戦い、勝利すればいいのだと思うものの、どうしても、彼は思い描いてしまうのだった。彼女があの男に抱かれる光景を。


真っ白い体を、乳を、尻を、リノスに差し出すヴィエイユ……。その少女のような無垢な体を、心ゆくまで賞味するリノス。やがて、ヴィエイユ様はリノスの逸物で貫かれる……。


そんなことはあろうはずがない。そう言い聞かせながら、彼は頭を振る。こんな苦しい思いに苛まれるのはやはり、あの男……アガルタ王がいるせいだ。あの男さえこの世から葬れば……。


ヴィエイユ様はやはり、自分が傍に居て、お守りしなければならない……。我こそが、ヴィエイユ様を守るべくこの世に生を受けたのだ……。思いが昂じて、ラッカーはそれが定めだと思い込むようになっていた。


「誰ぞある」


すぐに家来の一人が入室してきて、恭しく一礼する。その彼にラッカーは、重々しい口調で命令を下した。


「軍の主だった者たちを集めよ。軍議を開く」


家来は一瞬、キョトンとした表情を浮かべたが、やがて、再び一礼すると、部屋を後にしていった。


◆ ◆ ◆


「国王様……それは……」


約三十分後、サブクリナー王国軍の主だった幹部四人が、ラッカーの前に控えていた。彼らはラッカーの言葉に、返答することができないでいた。


「もう一度言う。アガルタに戦いを仕掛ける」


「……」


「アガルタ王、リノスの首を獲る」


「畏れながら」


発言したのは、サブクリナー王国軍の総司令官を勤める、サネナだった。ラッカーと共に常に軍勢の先頭を走って敵に突撃していく猛将だ。彼の顔には夥しい傷があり、その醜悪な面相は、一度見た者の記憶から決して消えることがない程だった。


サネナはさも残念、と言った表情を浮かべながら、静かに、まるで幼な子を諭すかのように口を開く。


「我々が本日、国王様に上奏しましたアガルタ軍の報告書は、ご覧になられなかったのでしょうか?」


「いや、読んだ。中立的な視点で書かれた、優れた報告書であった」


「で、あれば、なぜ……」


「アガルタ王、リノスは、何としても、この世から抹殺せねばならない」


「お気持ちはよくわかります。痛いほどよくわかります。しかし、アガルタ軍と事を構えて、我らサブクリナー王国軍が勝てる見込みは、万に一つもございません」


「刀槍や魔法の攻撃が通じぬ軍勢に、我らだけでは勝機はないか?」


「その通りでございます」


ラッカーは苦笑いを浮かべる。王であれ誰であれ、このサネナは正しいと思うことを臆せず述べる。そこには、王の命を守り、ひいては、サブクリナー王国を何としても守るのだという矜持を感じさせる。そんな彼をラッカーは頼もしく思いつつも、己の心底を察してくれぬことに少し、苛立ちを感じていた。


「畏れながら、アガルタのどこを攻撃なさいますので? よもや、アガルタの都を急襲する……などとお考えではありますまいな?」


「それは無理な話だ。アガルタの都に向かうのであれば、南からであればラマロン皇国、北からであればニザ公国、そして……大きく迂回して東から向かうのであればヒーデータ帝国を経由して行かねばなりますまい。つまりは、アガルタの都に向かうのであれば、必ずかの国の同盟国を通らねばなりません。我らの動きは丸見え……。おそらく、アガルタに入る前に、ラマロン、ニザ、ヒーデータのいずれかの軍勢と戦わねばならなくなります」


司令官の一人が口を開く。そんなことは言われなくともわかっていると、ラッカーは顔をしかめる。


「アガルタの地図を持て。いいから、持てと申すに!」


苛立ちを隠しきれないラッカーは、声を荒げながら部下に命じる。程なくして、彼の机の上に、アガルタの地図が広げられた。


「……見れば見るほどに、見事な防御態勢よ。東西南北、すべてに同盟国もしくは属国が控えていて、人ひとり、アガルタに入られぬ態勢を整えておる。だが……隙は必ずある。必ずな……」


ラッカーは、集まった司令官たちを見廻しながら、人差し指で地図を指さした。その先にある街の名前を見て、司令官たちは言葉を失った。


「ここじゃ。アガルタ王リノスをおびき出せるとすれば、ここしかない」


「こ……国王様……。アガルタ王をおびき寄せたとしても、我らに勝算は……」


「案ずるな、サネナ。策は、ある」


ラッカーの言葉に、サネナたち司令官は、思わず顔を見合わせた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴィエイユも拗らせてるけど、取り巻きのガチ勢の権力者が拗らせてると面倒くさいのがよく分かるねぇ・・・ 見た感じ、盲目ゆえに、アガルタが見せている隙に飛び込むあたり、本当余裕無いのね ・・・…
[一言] 更新有り難う御座います。 ……恋は盲目……。 そして、歴史の裏に女あり? 誤字?報告 一切の誇張も、着色も、>脚色(キャクショク) でしょうか?(報告送信済み)
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