表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十六章 黒龍編 激闘編
502/1178

第五百二話   できた!

その頃、ドワーフ公国の公王専用工房では、張り詰めた緊張感に包まれていた。


その場にいる四人の息遣いが聞き取れるほどの静寂の中、三人の視線はドワーフ公王ただ一人に向けられていた。


眉間に深い皺を刻みながら、彼は一振りの剣を眺め続けている。外は雪が舞っているが、彼の体からは幾筋もの湯気が立ち上っていた。


時折、剣の角度を変えると、キラキラと剣が光を反射する。その光はすでに、異様な輝きを放っていた。


「父上……」


沈黙に耐えられず、息子であるガルトーが声をかける。その声に公王はピクリと体を震わせたかと思うと、その鋭い視線を彼に向けた。その視線に射竦められたのか、ガルトーは沈黙したまま、公王を凝視し続ける。


「いかが、で、しょう、か」


ガルトーの呼吸が荒い。必死で言葉を絞り出している。それもそのはずで、公王による剣の確認作業は、すでに四時間を超えているのだ。この二日間、飲まず食わずの不眠不休で作業してきた彼らにとって、体力は限界を迎えようとしていたのだ。


公王は剣を握りしめたまま、相変わらずガルトーを睨みつけていたが、やがて、ゆっくりと息を吐きだしながら、コクリと頷いた。


「……よいだろう」


「父上……」


ガルトーの言葉と共に、部屋の中に張り詰めていた緊張が緩んでいく。その声を聞いて、メイとシディーは、まるで崩れ落ちるかのようにその場にしゃがみこんだ。


「コンシディー、見事であった。そしてメイ殿……。そなたが導き出した理論は、完璧であった。褒めてとらす」


公王の言葉に、二人は無言で頭を下げた。


公王が手放しで他人を褒めるということは、なかったことだ。その彼をして、今回の出来栄えと理論立ては文句のつけどころのないものだった。通常であれば、コンシディーなどは涙を流して喜ぶほどのことなのだが、彼女は疲労困憊して、目の下には濃いクマが表れていた。それはメイも同様で、彼女も、公王から称賛された喜びより、無事に剣を作り上げることができたことへの安堵感が強かった。


そんな二人の様子を、公王はじっと眺めていたが、やがてその視線を息子のガルトーに向けた。


「最後の研磨……儂は正直、無理だと思っておった。じゃが、この出来栄え……。剣には一点の曇りもない。一心不乱に剣を磨き上げたそなたの腕……見事であった」


「ち……父上……」


ガルトーはがっくりと膝をつき、肩を震わせた。その様子を公王は、何度も頷きながら眺めている。


「これからも頼むぞ、ガルトー」


「ハッ……」


「コンシディーも、これから兄を助けてやってくれ」


公王の言葉に、シディーは無言で頷いた。


「さて、この剣を早く婿殿に届けるのじゃ」


公王は剣を大切に鞘に納め、それをメイの前に差し出した。彼女はそれを無言のまま両手で受け取り、恭しく頭を下げた。


「……父上」


「何じゃ」


シディーとメイが退出し、二人きりになったとき、ガルトーが不意に口を開いた。公王は二人が出ていった扉に視線を向け続けたままだ。


「あの剣で、本当に空間は斬れますか?」


「わからん……」


公王は弱々しく呟く。そんな彼にガルトーは不安そうな眼差しを向ける。


「じゃが、我々はすべてのことを完璧にやり切った。あれ以上のものはもうできまいて……」


彼の言葉に、ガルトーはゆっくりと頷いた。


◆ ◆ ◆


メイとシディーは、出来上がったばかりの剣を携えて、帝都の屋敷に通じる転移結界のある部屋へと急ぐ。二日間、ほったらかしにしている子供たちのことが心配だが、それよりもこの剣を、早く夫の許に届けることが先決だった。二人は無言のまま、足早に宮殿の廊下を歩いて行く。


帝都の屋敷に着き、ダイニングに通じる扉を開けると、そこでは夫・リノスと龍王が激しく罵りあっていた。


「何を言っていやがるんだ、このバカ龍が!」


「何だと貴様! 誰に向かって……!」


「お前だ、お前!」


リノスは龍王を指さしながら、さらに言葉を続ける。


「ウチのメイとシディーが作るんだ、絶対大丈夫に決まっているだろう! 何にも知らんお前が、勝手なことを言うな!」


「無理なものは無理だと言っておるのだ! 龍王たる我ができぬのだ、他の者に出来るはずがない!」


「アホかお前。お前は何にもできないだろうが!」


「何ィ? 我をここまで侮辱するとは! いいだろう! かかってくるがよい! 我の力……見せてくれる!」


龍王の体が銀色に光り始める。そのとき、アリリアの呆れたような声がダイニングに響き渡った。


「りゅーおーくん、乱暴はダメ」


龍王は一瞬、体を震わせたが、やがて体から光が失われていく。それを見たアリリアは、スッと、父・リノスに視線を向ける。


「おとうさんも、ケンカは、ダメ!」


アリリアはリノスと龍王を交互に見比べていたが、やがて、リノスのヒザの上からピョンと降りると、左手を腰に当て、右手で天井を指さしながら、口を開く。


「乱暴したり、ケンカしたりするなら、私は、遊んであげないからね?」


アリリアの言葉に、リノスは呆気にとられている。一方の龍王は、じっと視線をアリリアに向けていたが、やがて、落ち着いた声で口を開く。


「わかった。乱暴は、しない」


アリリアは満足そうに頷いている。その光景をシャリオとツネの兄妹は驚愕の表情で見守っていた。


「ご主人様……」


「何だ……って、メイ!?」


リノスが振り返ると、そこにはメイとシディーが立っていた。予定よりずいぶん早く戻って来ていたために、彼は驚きを隠すことができなかった。だが、メイの手に一振りの剣が握りしめられているのに気が付くと、ゆっくりと立ち上がって、彼女らの許に歩いて行く。


「でき……たのか?」


「はい、先ほど完成しました」


「ありがとうメイ。よくやってくれた」


リノスの言葉に、二人はゆっくりと頭を下げる。そして、メイはまるで宝物を渡すように、恭しく手に持っていた剣をリノスの前に差し出した。彼はそれを無言で受け取ると、しばらく剣をじっと眺めていたが、やがてゆっくりと剣を鞘から引き抜いた。


「リノス様」


「何だい、シディー」


「その剣には、魔力が通せます。魔力を通すと、空間が斬れるはずです」


「ほう……」


リノスは剣の鞘に魔力を込める。だが、剣には何の変化も見られない。彼はさらに剣に魔力を込めていく。


「……けっこう魔力を込めたんだけれどな」


一見すると、何も変わっていない気がする。その様子を見たメイが、ゆっくりと口を開く。


「申し訳ありません。どのくらい魔力を込めれば、どの程度の空間が斬れるのかは試していません。しかし、確実に、その剣に魔力を通せば、空間を斬ることはできるはずです」


メイの澄んだ瞳は、説得力があった。リノスはゆっくりと頷くと、剣を鞘にしまった。


「ありがとう。よくやってくれた。メイ、シディー。……二人とも、ずいぶん疲れているな。全く休んでいないんじゃないのか。少し、休め。何か食べるか?」


リノスの言葉に、二人は無言で首を振る。


「えっ? ええっ?」


気が付けば、リノスはシディーをお姫様抱っこしていた。みるみるシディーの顔が赤みを帯びていく。そんな彼女に笑みを浮かべながら、彼はシディーを伴って離れに消えていった。


しばらくすると、リノスは一人で戻ってきた。そして、メイに向き直ると、彼女に優しく声をかける。


「シディーは部屋で休ませた。メイも休め」


「はい。それでは、部屋で休ませていただきます」


ゆっくりお辞儀をして、彼女は一人でダイニングを後にした。そして、離れの扉を開けようとしたそのとき、彼女の体が宙に浮いた。


「ご……ご主人様?」


気が付けば、メイはリノスにお姫様抱っこをされていた。戸惑うメイに、リノスは笑顔で声をかける。


「ここから先は、俺の仕事だ。メイ、よくやってくれた。お礼にはならないかもしれないけれど、せめて、こうやって部屋まで運ばせてくれ」


そう言って彼はメイの額にキスをした。その瞬間、メイの体から力が抜けた。久しぶりに味わう心地いい感覚に、メイは思わず時が止まればいいと願うのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] コイツ、隙あらばイチャつくー いいぞもっとやれ。こっちゃあ、和気あいあいが好きなんだ。 [一言] そろそろアホ龍討伐が近いっスね。早く助けてあげてください。 コミック版、気が付けば二巻出…
[一言] 更新有り難う御座います。 ……こうして、りゅーおー君はスルーされるのだ……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ