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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百四十九話 出向

「フム……なるほど。そなたがそう言うなら、余は何も言わん」


顎に手を当てながら俺を眺めているのは、陛下だった。俺は今、ヒーデータ帝国の宮城きゅうじょうに来ていた。陛下の両隣には、宰相閣下とヴァイラス公爵が控えている。その公爵の隣には、見目麗しい美女が控えていた。公爵の妻であるダイアナだ。


俺は陛下に、ワーロフ帝国のドルガ奪還に当たっては、現地調査をしたいと提案した。地図だけではどうしようもなかったのだ。僅か一日で築かれたという砦も気になっていた。直感的に、アガルタの精兵を伴ってドルガまで出張するよりは、まずは、信頼する者を連れて現地を見て、作戦の詳細を考えた方がいいと考えたのだ。人知を超えた都市と砦だ。やみくもに手を出すのは避けた方がいい。


陛下は俺の言葉に大きく頷いている。そして、宰相閣下と公爵に視線を向ける。二人とも同意を示すかのように恭しく頭を下げている。


「アガルタ王様」


美しい、凛とした声が聞こえた。これはダイアナだ。目がとても美しい。吸い寄せられそうだ。


「不躾ながらお尋ね申し上げます。お連れになるのは、どの御方でございますか?」


「まず、アガルタ軍総司令官のクノゲンを連れて行きます。それと……妻の一人である、マトカルを連れて行きます」


「御三方だけ……でしょうか?」


「何か?」


「もう一人、お連れになった方がよろしいかと存じます」


「その理由を承りましょうか」


「三人ですと、一人が反対意見を言っても、残りの二人に押し切られる危険性があるからでございます。それでなくとも、アガルタ王様とマトカル様はご夫婦……。四人ですと、同じ状況になった場合、残りの一人が仲裁に入るか、助けに入ることができるからでございます」


「……なるほど。では、もう一人、連れて行くことに致します」


「フレイラップには増援軍と共に、アガルタより数名の軍関係者を派遣すると言っておく」


「お言葉ながら陛下」


言葉を続けようとするダイアナを、ヴァイラス公爵がとどめている。


「公爵、よい。余も、ダイアナ殿の意見を聞きたい。のう、義弟殿?」


陛下が俺に賛同を求めてくる。俺も同じ気持ちだったので、ここは恭しく頷いておく。


「先ほど、陛下は元帥様に、アガルタより軍関係者を派遣すると言われましたが、それはおやめになった方がよろしいかと存じます」


「ほう、では、何と言えばよい?」


「閣下は援軍を求めておいでです。軍勢が来るものと考えておいででしょう。ですから、たとえ僅かでも、軍勢を差し向けると言われた方が、士気は上がるかと存じます」


「何と……帝国の増援軍では足りぬと申すのか?」


「恐れながら……。聞けば元帥閣下は十万の軍勢を希望されたとか。今回、派兵されるのは二万と聞き及びます。これでは、閣下の士気が落ちるのは必定。そうならないためにも、アガルタの精兵が援軍に来ると言われた方がよろしいかと存じます。練度の低い二万の烏合の衆より、百戦錬磨の一千の兵士の方が役に立つこと……元帥閣下も十分承知のはずでありましょうから」


彼女は美しい眼差しをスッと俺に向ける。


「アガルタ王様も、ある程度の兵士はお連れになった方がよろしいかと存じます。そうなさいませんと、突然一団を預けられて指揮を執れと言われる可能性がございます。思い通りに動かない軍勢……指揮官にとってこれほど扱いにくいものはございませんでしょうから……」


「ハッハッハ! なるほど、言われる通りですね。わかりました。アガルタの精兵を連れて行きましょう」


「すまぬな、義弟殿」


「いえいえ。ダイアナ様は素晴らしい慧眼をお持ちです。俺も勉強になりました。……ヴァイラス様、あなたはいい奥様をお持ちになりましたね。大事になさってください」


俺の言葉に公爵は、戸惑いながら頭を下げた。


「陛下としては、願ったり叶ったりの展開になったのではないですか?」


俺は意地悪そうに尋ねる。その質問が予想外だったのか、陛下はキョトンとした表情を浮かべている。


「陛下としては、俺たちアガルタに軍勢を出させたかった。だが、立場上それは言いにくかったでしょう。だが、ダイアナ様のお蔭で、それが叶った……。違いますか?」


「フッ……フハハハハハ! そうじゃな。その通りじゃな」


そう言って陛下は、ダイアナに向き直る。


「この度のこと、感謝する。これからも我らを助けてくれ」


陛下の言葉に、ダイアナは恭しく頭を下げた。


◆ ◆ ◆


アガルタに帰った俺は、早速、クノゲンとマトカルを呼び、陛下とのやり取りを話した。


「兵士を連れて行くのは賛成だ。私もそれがいいと思っていたところだったのだ」


「何だマト、それならそうと言えばいいじゃないか」


「いや、一度リノス様が決定されたことだ。言うとしても、人のいないところで……」


「ベッドの中で言うつもりだったのか?」


「なっ……そっ……いや……」


マトカルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。どうやら図星だったようだ。何だか俺も恥ずかしくなってきた。そんな俺たちをクノゲンは笑顔で眺めている。


「オホン、ただ、兵士を連れて行くことは賛成だが、司令官をもう一人となると……誰を連れて行くべきだろうか」


「まあ、指揮能力で言えばラファイエンスだが、あの人はもう、引退してしまっているからな」


「そうですな。兵士の訓練が今のあのお方の生きがいになっておりますからな」


「と、なると……」


「ルファナちゃんを連れて行こうか」


「我が妻を……でしょうか?」


俺の提案にクノゲンが目を丸くして驚いている。


「彼女はかなり指揮能力が高いと俺は見た。こういう人知を越えて作られた城塞や砦を見る機会は滅多にない。今後も軍務を続けるのであれば、見ておくに越したことはないだろう」


「は……はあ……」


「それに、愛する夫が長い間留守にするというのは、彼女にとっても寂しいだろうし、クノゲン、お前自身にもいらぬ疑いがかけられてはたまらないだろう?」


「そ……それは……」


「俺がマトを連れて行くのは、そのためでもあるんだ」


俺はクノゲンにウインクをする。彼は笑顔で頷いている。


「それに、お前たちは新婚旅行をしていないだろう?」


「シンコンリョコウ?」


「まあ、何だ。せっかく結婚したんだ。夫婦としての思い出を増やすには、いい機会だろう」


俺はマトカルにも視線を向ける。


「マトも、二人っきりでどこかに行くっていうのはなかったんじゃないか?」


「別に……私は……」


「せっかくだ、俺たちも旅行をしながら何か、思い出を作ろう」


「う……う……」


マトカルは顔を真っ赤にして俯いている。アガルタの都からドルガまで約一週間の行程だ。サダキチに転移石を持たせれば、わずか数秒で転移することはできるので、何も無理をして行軍をする必要はないのだが、俺としては、どうせ軍勢を連れて行くのであれば、ヴィエイユの到着と合わせたいという思いがあったのだ。


「兵士たちの選抜は、クノゲンとマトに任せる。えり抜きの精鋭たちを連れて行くが、将来的に見込みのある者も選んでもらって構わない。規模は一千とする。兵たちには……出向と言っておけ」


「出向? 出兵……ではなく、か?」


「ああ。時と場合にはよるが、戦闘する気はないんだ」


「すまないリノス様、出兵と出向、何が違うのだ?」


「行った先で戦いをするのが出兵、ブラブラ行って帰ってくるのが出向だ」


「なっ……何と……」


「とはいえ、一応は遠征だ。単なる物見遊山にならないように、気をつけないといけないな」


俺の言葉に、クノゲンとマトカルは、戸惑いながらも、ゆっくりと頭を下げた。

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― 新着の感想 ―
明確に援軍をこうわけでもなく非公式な要請に基づく援軍でありしかも他国の国王自らが赴くと言っているのに皇帝でもない者が数かが少ないからもっと出せとか現地で不利益を被るとか言うのは非常に見下した発言で許さ…
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