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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百五十話  意図

ワーロフ帝国軍の陣で、四人の男女が黙ったまま視線を宙に泳がせていた。ゲシカナ将軍、シーワ副総司令官、ギギ司令官、トーイッツ司令官の四人……。彼らは視線を合わせることなく、それぞれがただ、それぞれがあらぬ方向に視線を泳がせていた。


「まあ、仕方がないだろう」


口を開いたのは、ゲシカナ将軍だ。彼は大きなため息をつきながら、周囲を見廻す。


「仕方がない、ではいけないでしょう」


不機嫌さを隠そうともせず発言しているのは、シーワだ。いつものような甲高い声ではない。低く、気だるそうな声だ。


「うう~ん。困りましたねぇ」


ため息をついているのは、ギギだ。四人は、ヒーデータ側からの回答を受けて急きょ、集まっていた。当初の十万の援軍要請は見送られ、代わりとして、二万の援軍とアガルタから一千の援軍を送るというのが、ヒーデータ本国からの回答だった。


「すみません……」


トーイッツ司令官が、申し訳なさそうに項垂れる。別に彼が悪いわけではないのだが、シーワとギギの姉妹が醸し出す雰囲気が、どうしても彼を臆病にしてしまっていた。そんな彼をジロリと睨みながらゲシカナ将軍は口を開く。


「まあ、これは戦いだ。仕方がない」


「将軍、我々は何もしていないのですよ? なのに、ドルガを突然奪われているのですよ。どう考えても不条理でしょう? そんな不条理なことに、どうして我が国の兵士の命が奪われなければいけないのです? 先だっての戦いで、我らは数千の犠牲者を出しているのですよ? こんなことで再び死なねばならない兵士たちが、可哀想です」


「しかし、ドルガは奪還せねばならない」


「……ヒーデータがまさか援軍を拒否するとは思わなかったですね。意外と、あの国もケチなところがあったのですね」


シーワはそう言いながら、再び視線を宙に泳がせた。


「ギギ」


「はぁい、副総司令官」


「周辺の国々に書状を出しなさい」


「書状?」


「援軍を要請するのです」


「はあ……」


「規模は三千以上。なるべく早くに急行して欲しいと書き添えなさい」


「承知しました。すぐに準備をして、早馬を飛ばしますぅ。トーイッツさん、お願いできますか? 近隣の……早馬で一日の距離にある国々全てに書状を遣わしてくださぁい。我が国と友好関係のない国でも問題ありませぇん。あ、差出人は、副総司令官の名前でお願いしますぅ。出来上がったら、持って来てください。添削してあげますから。すぐに準備にかかってくださぁい」


「はっ、はっ、はい」


彼はオドオドとしながら立ち上がり、その場を後にしていった。


「おい、シーワ。どうするつもりなのだ?」


「ヒーデータ軍十万が来ないのであれば、我々の兵力を投入せざるを得ないでしょう。しかし、兵数は多ければ多いほどよいのです。だから、兵数を揃える必要があるでしょう?」


「……そうだな」


ゲシカナ将軍は、シーワの言葉の意味がよく呑み込めないという表情を浮かべながらも、ゆっくりと頷いた。その様子を見ながらシーワは、不機嫌そうな表情を浮かべながら、腕を組むのだった。


それからしばらくして、ワーロフ軍の幕僚が一堂に集められ軍議が開かれた。そこで、ゲシカナ将軍は、ヒーデータからの援軍が当初よりもはるかに少ない規模となることと、それを見越して立てていた作戦を遂行するために、周辺国に援軍を求めることを伝えた。幕僚たちはその声に、恭しく頭を下げる。


「集めた軍勢は、誰が指揮するのだ?」


チャンが腕を組みながら呟く。


「私が指揮しましょう」


笑顔で言葉を返したのは、司令官の一人である、ガイミだ。若さと聡明さが溢れた彼の風貌を見たシーワは、ニコリと笑みを浮かべる。


「では、ガイミさん。お願いできますか?」


「承知しました」


「え? 大丈夫でぇじょうぶか?」


突然声を上げたのは、ワーカだった。彼はキョトンとした表情を浮かべながら、言葉を続ける。


「援軍の軍勢……。つまりは、周辺国から集まった軍勢で構成された部隊じゃねぇのかい? どのくらいの規模になるのかはわからねぇが……。一体どれだけの国に援軍要請を出したンだい? 30!? すべての国が応じるとは思えやせんが、少なく見積もっても数万の規模にはなりまさぁね。軍勢とはいえ、言ってみりゃ、寄せ集めの部隊だ。そんな部隊を指揮するのには、相当の能力が必要になると思うが、お前ぇさんは大丈夫かい?」


「……大丈夫です」


「……そうかい。寄せ集めたぁはいえ、派遣されてくる者の中にゃ、海千山千の者もいらぁね。百戦錬磨の指揮官もいるかもしれねぇ。そんな者たちを束ねていくなんてぇ芸当は、相当難度が高けぇと思ったンだが、お前ぇさんは、大丈夫なンだな?」


ワーカの言葉に、ガイミは押し黙る。


「ちょっと、ワーカさん」


低い、ドスの効いた声が聞こえた。シーワ副総司令官だ。彼女は口元には笑みを湛えながらも、一方で鋭い眼差しをワーカに向けている。その様子を彼はチラリと横目で見たが、やがて視線を外した。


「あなたのそのやり方は、若手を潰しますよ。前にも同じようなことがありましたよね? あなたのその物の言い方は、若手を萎縮させます。ここにはおいでになりませんが、ヒラス元帥閣下も、あなたの言い方は若手を潰すと言っておいででしたよ」


「ほう、そりゃ初耳でさぁ」


ワーカは苦笑いを浮かべながら、腕組みをする。その姿勢のまま彼は、ガイミに視線を向けた。


「すまなかったな。俺のものの言い方は、若手を潰すそうだ。まあ、勘弁してくんな。今回は、お前ぇのいい経験にもなるだろうよ。やってみるがいい。俺ぁ、賛成だよ」


彼の言葉に、ガイミは戸惑いの表情を浮かべながら頭を下げた。


◆ ◆ ◆


「よーし、出発するか」


アガルタの都では、一千の兵士を従えたリノスが出陣しようとしていた。彼は鎧に身を包み、ゆっくりとした足取りで兵士たちの許に歩いていく。その周囲には都の人々が見送りに来ており、王の姿を一目見ようと押すな押すなの騒ぎになっていた。


彼はそんな群衆に右手を挙げて応えながら、ひらりと愛馬に跨り、歩みを進めた。その後ろをクノゲンとルファナが従い、さらにその後ろをマトカルが進んでいく。


その様子を兵士たちともに見送る、一人の老人の姿があった。ラファイエンスだ。彼はニコニコと機嫌の良さそうな笑顔を浮かべながら、手を振っている。


「将軍も出陣したかったのでは?」


傍らに控えていた兵士が声をかけてきた。彼はゆっくりと首を振りながら口を開く。


「いや、最近はそんな気が起こらん。私も年を取ったのだろうな。以前は、どんなに危険な戦いでも、出陣となれば胸が躍ったものだがな……」


彼は眼前を過ぎゆく兵士たちを眺めながら、フッと真面目な表情を浮かべる。


「ただ……この度の戦い……。規模が大きすぎる。軍勢の数が多すぎるのだ。多くの軍勢が集まれば、必然的に大きな戦いになる。そんな中に巻き込まれねばよいのだがな……」


「恐れながら将軍、今回は出兵ではなく、出向と伺っておりますが……」


「フフフ。我らに戦う意思はなくとも、巻き込まれてしまえば、戦わざるを得まい? まあ、リノス殿のことだ。その辺は上手くやるだろう。何と言っても、クノゲンとマトカルを連れているのがいい。この二人を従えていれば、道を誤ることはないだろう」


そう言って彼は大きく頷いた。


リノスの率いた軍勢は都を出ると、真っすぐに北に向かって移動し、ニザ公国を目指した。彼らはニザを経由して東に向かうルートを選択しており、このリノスの決断は、どちらかと言うと奇異の目で見られていた。


マトカルはリノスの後ろから彼を追いかけていたが、やがて休憩を取るために森の近くで軍を休めたとき、その真意を聞こうと、彼の傍に足を進めた……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他国への援軍要請は事後に外交が発生するので副総司令官の一存ではなかなか…… そこが少し気になりました
2020/08/19 13:26 退会済み
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