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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十四章 エルフ族編
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第四百十三話  質問

「待て! 静まれ! 静まれ!」


エルフ王とは違う男の声が聞こえる。その男は数人のエルフを従えて俺たちの近くにやって来た。オルトーだ。


彼に従っていた者たちが、俺たちの前に進み出てきて、まるで壁のようになってくれた。それを見て、先ほど俺を襲っていた者たちがゆっくりと引き下がっていく。エルフ王はその様子を無表情で眺めていたが、やがてクルリと踵を返して、集まったエルフたちに向けて何やら手で指示を出したかと思うと、スタスタと扉に向かって歩き出した。


部屋から出る直前、王は俺の前で足を止め、小さな声で呟いた。


「すまぬ」


彼の後ろをミークが追いかけていく。俺たちもオルトーに促される形で、彼らに付いていく。


てっきり元の部屋の戻るのかと思いきや、エルフ王は部屋を通り過ぎてしまった。ミークも同じように部屋を通り過ぎていく。一体どこに行こうとしているのかと思ったが、突然王が別の一室に入ってしまった。ミークはその部屋を行き過ぎて、さらに廊下を歩いていく。俺たちはエルフ王を心配しながらも、ミークの後に付いていく。


彼女はそこから数メートル離れた部屋に入っていった。


「おい、何なんだ、あれ?」


部屋に入るなり俺はミークに口を開く。彼女は傍にあった椅子に腰を下ろして、大きなため息をつきながら天を仰いでいる。


「誠に申し訳ありません。ジャニス姫をお連れいただいた方にあのような振舞い……。伏してお詫び申します」


オルトーが深々と腰を折っている。俺はシディーと顔を見合わせながら、小さくため息をついた。


「一体、何があったのですか?」


「そうですね……」


オルトーは付いて来た部下と思われるエルフたちをしばらく眺める。彼らはスッと一礼をして部屋を出ていく。シディーが大丈夫と言わんばかりに大きく頷く。


「今、若い者たちにこの部屋を、あなた方を警護するように命じました。あの者たちは常に私の傍にいる者たちです。心配はありません」


そう言って彼は俺とシディーの交互に視線を向ける。


「オルトー様、もしかして、ですが、先程、エルフ王様が、あそこにおいでになったエルフの皆様に仰っていたのは、こういうことではありませんか?」


シディーが俺に説明してくれた内容を、そのままオルトーに伝えると、彼は目を見開いて驚いた。


「よ……よくおわかりですね。一体どこで我々の意思疎通を……もしや姫が……」


「いいえ。直感です。何となく、そうなのかなと思ったのです」


「は……そう……ですか……」


「エルフの皆様も、我々と同じで、目を見ていれば自然にその方の考えていることがある程度読み取れます。顔の表情と目の動き、それに、エルフの皆様を取り巻く状況……それらを考えながら見ていますと、何となくですが……」


「いや、お見事です。あなた様はドワーフ公王のご息女でしたね? さすがはドワーフ族だけあります。いや、すばらしい」


「ありがとうございます。ただ、わからないことがあります。よければ教えていただけないでしょうか」


「はい、私の知っていることであれば何でも」


「どうして、レイラさんは殺されたのですか? 何か、彼女に問題でも?」


「……正直、レイラが殺された理由は私には分かりかねるのです。確かに彼女は、人によって対応が変わることはありました。気に入る者にはとても愛想がいいですが、気に入らない者については冷淡な対応を取ることがありました。ですが、仕事に関しては非の打ちどころがなかった者なのです。彼女は王妃様のお世話をしておりましたが、王妃様からの信頼も厚く、頼りにされていたものなのです。そんな彼女が殺されたのです。王妃様のお怒りも収まらず……」


「妾のことを、疫病神と言っておいでじゃった」


ミークが悲しそうに呟く。どうやらあの場では、彼女に対してかなり辛辣な意見も出されていたようだ。しかもそれが自分の母親から浴びせられたのだ。彼女の心は察して余りある状況だ。そんな彼女をオルトーはチラリと横目で見ていたが、やがて再びシディーに視線を向け、言葉を続けた。


「王妃様は、ジャニス姫のようなことを二度と起こしたくないのです。我々エルフは絆を何よりも大切にします。同胞たる我らの誰かが攫われるなどということは、耐えられないことなのです。ましてや、同胞の命が奪われたとなると……。王妃様のご心痛は……。王妃様も気が動転しておられますために、ジャニス姫に心無いお言葉をかけてしまわれたのです。その上、皆様方にも失礼なことを……」


王妃が俺たちを指してどのようなことを言っていたのかはわからないが、相当の罵詈雑言を言っていたのは容易に想像できる。きっと、不幸を運んできた疫病神とでも言っていたのだろう。


「……帰ってこねば、よかった」


ミークが小さな声で呟いている。やっと故郷に帰って来て、会いたかった両親に会えたのにもかかわらず、こんな仕打ちを受けているのだ。そりゃ、誰だって落ち込むだろう。


シディーも彼女を心配そうに見つめていたが、すぐさまオルトーに向き直り、言葉を続ける。


「恐れ入りますが、エルフ王様にはもう一人、お姫様がおいでとか……。もしかして、今回の出来事は、その点も関係しているのでしょうか?」


「……お言葉の意味がわかりかねますが」


「大変申し訳ございません。あくまで私の直感なのですが……もしかして、そのもう一人のお姫様の周囲においでになる方々が、ジャニス姫を追い落とそうと画策したという……」


「そのようなことは断じてありません。何を証拠にそのようなことを言われるのです」


オルトーの、言葉は柔らかいが、その言葉の端々に怒りの感情を感じる。俺は思わず二人の話に割って入る。


「すみません。我々の世界ではそうしたことがよくあるのです。王位をめぐって子供たち……というより、その周囲の者たちが、仕えている主人を王位に就けようと後継者の資格のある者を排除することがよくあるのです。今、オルトーさんのお話を聞く中で、絆を最も大切にするエルフ族に限って、そのようなことはないでしょう。これは失礼しました」


「……いえ、そのような。我々も神ではありません。邪な心を持つ者は少なからずおります。今回の件も、そうした邪な者たちが引き起こしたことでしょう。先程、王はレイラを殺した者を何としても探し出すように厳命されました。邪な者が捕らえられるのも、そう遠いことではありますまい」


そこまで言うと彼は、ツカツカとミークの傍に行き、深々と腰を折る。


「姫様の御身は、このオルトーが何としてでもお守り申し上げます。どうか、ご安心ください」


彼はそう言ってスタスタと部屋を後にしようとする。


「皆さまには、程なくして王から何らかの指示がございましょう。それまでしばらく、お待ちください」


そう言って彼は、丁寧に扉を閉めて部屋を出ていった。


「……ここを出ようぞ。早く出ようぞ!」


オルトーが出ていくのを待っていたかのようにミークが口を開く。見れば目に涙をいっぱいに溜めている。


「今、ここを出るのはマズい。それでなくても俺たちはエルフ全員から目を付けられてしまっている。今、ここを出るのは自殺行為だ」


「ううう……。すまぬ。そなたたちが言っておった通りじゃった。妾は……自分の命が狙われるものとばかり思っておった。じゃが……。そなたたちも巻き込むことになろうとは……。何と詫びればよいか……」


「大丈夫だ。そのくらいの覚悟はしている。お前のことはちゃんと守るから、安心していろ」


実は俺もかなり不安だったのだが、彼女の手前、虚勢を張ってしまった。ちょっと後ろめたくなった俺は、無意識に隣のシディーに視線を向ける。彼女はいつもの、右手の人差し指を顎の下に当てたポーズで、何かを考えている。


「リノス様」


落ち着いた声が聞こえたかと思うと、シディーはスッと俺に顔を近づけてきた。


「今回の件で、確かなことが一つわかりました」


「確かなこと?」


「はい。レイラさんを殺した者のことです」


「ほう」


俺は思わず声を漏らす。もう、犯人に当たりをつけたのだろうか。相変わらずものすごい洞察力だ。彼女は俺の目を見ながら、ゆっくりと頷いた。


「犯人は、エルフの里……この中にいます」


……そりゃそうだろう。それ以外には、考えられないだろう。


俺はゆっくりと彼女から視線を外した。

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― 新着の感想 ―
ドワーフの御息女として…どうなんだろうな。頭脳明晰ではあるけど、性格はよくはないね。ダンナに向かって「チッ」なんて言うやつは。どういう教育を受けてきたんだろうと、公国をを疑うわ…
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