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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十四章 エルフ族編
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第四百十四話  推理

「う~ん……」


先程からシディーは、椅子に腰かけて腕を組み、眉間に皺を寄せながら天を仰いでいる。恐る恐る声をかけてみるが、彼女は目を開くこともなく、スッと右手を挙げて俺を制した。その雰囲気からは、話しかけてくるなという意思がビシビシと伝わってくる。


これまで見たことのない表情であるために、俺は戸惑いと不安でどうしていいのかがわからない状態になってしまう。思わずミークに視線を向けてみるが、彼女は無表情のまま、シディーの様子を眺めているだけだ。そして、俺に視線を向けると、ゆっくりと頷く。……一体何のことだかわからない。


ただ、無言の時間が過ぎていく。


ここでじっとしているのも、何だか不安だ。ここはできることをするしかない。そう考えた俺は、シディーの様子を気にしながら、自分の魔法がどこまで使えるのかをチェックすることにした。


結果はすぐにわかった。本当に全く、笑ってしまうくらいに魔法が使えないのだ。


鑑定スキルはもちろん、クリーンやライトの魔法すらも出すことができなくなっていた。本当に魔法の使い方を忘れたのかと思った程だ。こんなことは今まであっただろうか。先日、タナ軍との戦いの中で魔法が封じ込められそうになったが、それでも俺自身の魔法は使うことができた。だが今回は、完全に俺の魔法が封じ込められているようだ。


いやいやそれでも……。ちょっと現実を受け入れられない俺は、呼吸を整えて魔法を使おうと試みる。まずは、基本の基本に返ろう。


ファルコ師匠に初めて魔法を習ったときのことを思い出す。イメージが大切と師匠は言った。己の体の中に流れる血を意識しろと……。その中の熱を感じろ。それが魔力だ。そして、その熱を体の外に出すことをイメージする。同時に、その熱をどういったものにするのかを明確にイメージしてみる……。


確かに、血の中の熱は感じ取ることができる。それを体の外に……出せない。注意深く、血の中の熱を外に出すイメージを拵える。初めて張った結界を思い出してみる……が、発動しない。


そんなことを繰り返すこと数回、何となくではあるが、色々なことがわかってきた。


体内にある魔力は確かに感じ取ることができる。ただ、それを発動することができないようだ。必死でマッチを擦ってはみるが、火がつかない……そんな感覚だ。


そこまで考えたとき、不意に気配を感じた。視線を向けると、そこにはゆっくりと歩いてくるシディーの姿があった。


「シディー、どうした!?」


「リノス様、ちょっと失礼します、ねっ」


……パチン!


「痛ったぁい……」


まさかの平手打ちだった。シディーにビンタを張られるとは思ってもいなかった。女性に殴られたのって、初めてのことかもしれない。俺は頬を抑えながら涙目で彼女を見る。


「痛くないでしょ!?」


……痛いわ。頬も痛いし、心も痛いわ。


俺はゆっくりと首を振る。シディーは鋭い目つきのまま俺を睨んでいたが、やがて両手を腰に当て、顔をズッと俺の前に突き出してきた。


「リノス様、私を殴って下さい」


「イヤだ。何でシディーを殴らなきゃならないんだ!」


「確認したいことがあるのです。殴って下さい。できれば、怒りや憎しみを込めて」


「怪我をするだろうが! 怒りや憎しみ? シディーには何の不満もないわ。それに、その可愛い顔を殴るなんて、できるわけがないだろう!」


彼女はポッと頬を赤らめたかと思うと、顔をしかめてスタスタと俺の許から去り、ミークの許に向かった。二人は何やらブツブツと話をしていたが、やがてミークの右手が高く掲げられたかと思うと、彼女は勢いよくそれを振り下ろした。


……パン。


何かが破裂するような、いい音が響き渡る。


「シディー!」


俺は思わず彼女の許に駆け寄っていた。おそらく、シディーがミークに殴ってくれと言ったのだろう。とはいえ、かなりの勢いだった。頬が腫れていなければいいが……。


「うん、大丈夫ですね」


俺の心配をよそに、シディーはあっけらかんとした表情で頷いている。そして、目を丸くしている俺に視線を向けると、すこしむくれたような表情を浮かべた。


「全然痛くないじゃないですか。どうして、私の平手打ちが痛いなどと……。かなり怒りを込めましたのに……」


「いや、本当に痛かったよ?」


「……まあ、いいです。これで、ある程度納得がいきました」


「あの……説明をいただいても?」


シディーはふぅと息を吐くと、俺に顔を近づけて、小さな声で話し始めた。


「おそらく、今、私たちを取り巻いている環境は、かなり大勢のエルフが関わっている可能性があります」


「うぁん?」


「聞いてください。まず、エルフ側の立場に立って考えてみたのです。これまで、私たちが聞いた話から考えますと、エルフたちが最も嫌っているのは、同胞に危害が加えられることです。ひいては、エルフの今の生活を脅かされることが、最も恐れていることではないかと思うのです」


「確かに、そうだろうな」


「そんな中、やって来たのが私たちです。エルフ王の命令とはいえ、難攻不落の山々を越えてここまでたどり着くことのできる私たちです。エルフにとっては大いなる脅威だったと考えられます」


「ちょっと待て、脅威だったら、どこかで対策を立てないか?」


「それです。通常ならば、この里に至るどこかで暗殺の類を仕掛けるのでしょうが、エルフたちはこの里に引き入れることを選択したのです。私がエルフの立場ならそうします」


「どういうこと?」


「里に引き入れた方が、数を頼めるからです」


「数?」


「これはあくまで推測なのですが……エルフたちのスキルは相当に高いと思われます。そして、その高いスキルを持ったエルフたちが、全力でリノス様の魔力を封じていると思われます」


「何だと?」


「今、リノス様は魔法が使えません。おそらくリノス様には、強力な結界が何重も張られているものと思われます」


「何重もの結界……」


「この里には間違いなく結界が張られています。そうでなければ、こんなに快適に皆が暮らすことなどできません。これだけの結界を張るとなると、相当な高い結界スキル、しかも、一人や二人ではないでしょう。相当数がこの結界に携わっているのでしょう」


「……」


「その結界を担当するエルフたちが、リノス様に何重もの結界を張っているとすれば……」


「なるほど。一人ではなくて、複数人で何重もの結界を張るのか。俺の動きや考え方を推測して、それに対応する何種類もの結界を張れば……」


「今、リノス様はその状態であると思われます。ただ、高スキルを持つエルフをして、この里に入るまでにリノス様が張った結界については、その効力を無力化できていないようです」


「なぜ、そう言い切れる?」


「リノス様は、ご自身と私たちに、暑くもならず寒くもならない効果と、邪念を持つ者の攻撃を全て無力化する結界を張っておられます。先程のミークさんの攻撃は、私には通りませんでした。もし、リノス様の結界が無力化されていれば、痛みを感じるはずです。そうはなりませんでしたので、リノス様の結界は、まだ効果が持続しています」


「エルフたちはそれを知っているのかな?」


「おそらく、知っていると思われます。さすがにどのような結界を張っているのか……。そこまではわからないかと思います」


「……そうか」


「おそらくエルフたちは、リノス様の命を奪いたいのでしょう。そして、それがなった暁には、ミーク姫の命を奪い、全てをこれまでと同じようにするでしょう。ただ、私の直感では、それをするべきではないと思います。まずは、私たちはこの里を無事に出なければいけません」


「どうやって里を出る?」


「私たちが無事に帰るためには、レイラさんを殺した犯人を突き止めることが一番だと思います。まずはそれに全力を挙げましょう。早くしないと、エルフたちが動き出してしまいます。リノス様が結界を解除しない限り、私たちが倒れることはそうそうありませんが、ミーク姫のこともありますし、時間をかければかけるだけ、状況は悪くなります」


「なるほど、ところでシディー、一つ聞いていいか?」


「はい、何なりと」


「さっきシディーが俺を叩いたとき、かなりの怒りを込めたと言っていたけれど……。何か不満でもあるのか?」


「リノス様……そこですか!?」


シディーの呆れたような表情が、俺の心をさらに締め付けた……。

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