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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十四章 エルフ族編
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第三百九十五話 色んなところで、色んな人たちが

「……姫様、今何と言われた? 儂も年を取りすぎたのか、ちょっと、お言葉の意味がよく呑み込めませなんだ」


口調は穏やかだが、その老人の顔には憤怒の表情がありありと浮かび上がっていた。その様子を、引きつった笑顔で眺めているのは、リノスの妻の一人であるコンシディーだった。


彼女の目の前には、アガルタの都で、ニザ公国が派遣したドワーフたちの長老格であるナンブツが座っていた。そして、その後ろには、彼と同じ長老格である二人の老ドワーフ、リンショックとサンカックが座っており、彼らもまた、ナンブツと同じように憤怒の表情を浮かべながら、コンシディーを睨みつけていた。


「だから、エクスカリバーの製造方法を……」


「それは前に説明したじゃろう!」


突然、声を荒げながら立ち上がったのは、リンショックだ。彼はハアハアと肩で息をしながら、さらに言葉を続ける。


「あれはエルフしか作れんものじゃ。儂らがどうあがいても作れる代物ではないんじゃ!」


「じゃあ聞くけれど、リンショックはエクスカリバーを見たことがあるのかしら?」


「それは……」


「あるの? ないの? どっち?」


「……ないぞい」


「え? 聞こえないわ? 何ですって?」


「見たことは、ないぞい!」


その言葉を聞いてシディーはニッコリと笑みを浮かべる。


「見たこともないってことは、その切れ味なんかも、当然わからないわよね?」


「姫様は何が言いたいんじゃ!」


「ドワーフたる者、鍛冶師であるならば、必ずその効果を自身の目にて把握すべし。これは、幼い頃から繰り返し教えられてきたことだし、あなたたちも、若い人々に口を酸っぱくして言っていることだと思うけれど、違うかしら?」


「……」


「で、あれば、その世界最強の剣とされるエクスカリバーの切れ味を、確認しないといけないわよね?」


「それを何で、儂らが……」


「エクスカリバーの切れ味を超える剣くらいなら、儂ら三人が全力でかかれば、すぐに作って見せるって言っていたのは、誰だったかしら?」


シディーのその声に、老ドワーフたちは互いに顔を見合わせる。


「そ、それは、その場の雰囲気というものでじゃな……」


「あれ? 鍛冶師が一旦できると言ったものを、できないって言うのかしら?」


「うっ……それは……」


「じゃあ、行ってくれるわよね?」


「ううう……」


「姫様、儂はもう年じゃ。それに神経痛が……」


「儂も膝を悪くしてのう……」


「大丈夫。夜はここに帰って来て寝るといいのよ。あなたたちには、ムロック山脈まで旅をしてもらえればいいのよ。マスピス山脈とフィルコン山脈については、こちらで何とかするわ。……行ってもらえるわよね?」


シディーの言葉に、老ドワーフたちはゆっくりと頭を下げた。


前日の夜、リノスとメイと話し合ったシディーは、エルフの里に行くための問題が二つあることを瞬時に悟った。一つは言うまでもなく、エルフの里にたどり着くために越えなければならない山々たちの問題、そして、もう一つが、その山脈まで至る道のりだった。


言うまでもなく、リノスを始めとして、バーサーム家の人々は基本的に仕事を持っているために忙しい。家族の誰かが欠けてしまってもいけない状況なのだ。当初は、リノスが転移結界を張りながら旅をすると言い張ったが、冷静に考えれば考えるほど、それは無理な相談だった。そこでシディーが考えついたのが、アガルタの老ドワーフたちを活用するという案だった。


この三人は、言わばドワーフの鼻つまみ者だった。過去の栄光にしがみついたままで自身を成長させようとはせず、若いドワーフたちに小言ばかり言うために、若手たちから煙たがられている者たちだった。そうした話はすでにシディーの耳に入っており、彼女はこの旅が彼らが自身を見つめ直すいい機会となるだろうと直感したこともあって、リノスの代わりに旅に出ることを提案したのだった。


しかもこの三人は、他のドワーフとは違い、魔力量が多かった。それは即ち、リノスやポーセハイたちが彼らの魔力を探知しやすいということになる。そのため、夜は、リノスもしくはポーセハイの誰かが彼らを迎えに行き、ここアガルタに転移するということになったのだった。


この案も当初は、様子を見るだけでいいというシディーの意見だったのに対して、さすがにそれは厳しいだろうというリノスとメイの意見に、半ば折れる形で渋々承知したものだった。彼らには一応、リノスの結界を張ってもらいはするものの、ほとんど自力で山までたどり着かねばならず、夜は家に帰れるとは言っても、その過酷さは察して余りあるものだった。シディー自身はこの機会を利用して、本気でこの三人の老人の根性を根っこから叩き直す気持ちでいたのだ。



一方でリノス自身は、屋敷の庭で一人、ブツブツと何かを呟きながら手に魔力を込めていた。


「はっ!」


彼の声と共に、目の前に巨大な氷山が現れる。それを叩いたり触ったりしながら、彼は丹念に調べている。


「こんなもんかな。……それじゃ」


彼は再び目を閉じて、手に魔力を集中させる。すると掌の上に黄色く輝く小さな球体が現れた。それはゆっくりと彼の手から離れ、先程作った氷山にゆっくりと向かって行く。そして、それはゆっくりと氷の中を進んでいく。


「よし。いい感じだ。そのまま……って、ありゃ? 消えちまった……」


彼はさも残念そうに、氷山に空いた穴を見つめる。その後再び彼は目を閉じて、先程と同じように黄色い球を出し、それを氷山に埋め込むという作業を繰り返していった。


シディーの出した案の一つは、氷山にトンネルを掘るというものだった。土魔法でムロック山脈にトンネルを拵えてそのままマスピス山脈に到達する。問題はそこからで、氷に覆われた山脈にいかにトンネルを掘るのかが大きな課題だった。リノスは、自身の持つ火魔法のスキルで、どうやったら効果的にトンネルを掘ることができるのかを日々、試行錯誤していたのだ。


当初は結界を張って山を登ることを考えもしたのだが、3000メートル級の山を登るのは時間がかかりすぎてしまう。そこで、効率的に山を越えることを考えたところ、思い当たったのがこの火魔法でトンネルを掘るというものだった。


「魔力の調整が難しいな。あまり魔力を込め過ぎると、周囲の氷までもが解けてしまうしな……。逆に、全力を出してマスピス山脈自体を蒸発させてしまうというのも……。いやいや、それは逆にもっとえらいことが起きそうな気がするしな……。それにフィルコン山脈のこともよくわからないからな……こりゃどうしたらいいものか」


そんなことをブツブツと呟きながら、リノスは試行錯誤を繰り返していく。


「とりあえず、今日のこの実験をメイとシディーに話しておくか」


そう言って彼は転移結界を発動させて、帝都の屋敷に帰っていった。



その頃、おひいさまの屋敷では、一つの問題が持ち上がっていた。


「ええい! 黙りゃ、黙りゃ!」


「いいえ、黙りません。黙りませんぞ、おひいさま」


「お二人とも、もうそのくらいで……」


おひいさまの周囲には、その怒りを表す狐火が数個現れており、彼女自身も怒りの表情を浮かべている。その眼前には、鋭い視線を投げつけている老狐――サンディーユの姿があった。二人はものすごい形相で睨み合い、その間を、女官である千枝、左枝がオロオロとしながら宥めている。


「もう一度申し上げます」


「もうよいと申すに!」


「いいえ、こればかりは聞いていただかねばなりません! エルフの姫を、エルフ王の許に帰してはなりません! 断じてなりません!」


「エルフの姫を帰さねば、奴らと我らの関係が戻らぬではないか! それをわからぬサンディーユではあるまい!」


「それは拙者も承知しております! しかし、エルフの姫を帰してはなりません! しかも、リノス殿が連れて行かれる……それもいけません!」


「サンディーユ、よい加減にせぬか!」


「いいえ、いけません。お二人を里に行かせてはなりません。行けばエルフの姫は確実に死にます。そして……リノス殿が行けば、確実にエルフの里は滅びます。ですから、今一度、ご再考を願い上げます!」


そう言ってサンディーユは深々と平伏した。その様子を、おひいさまは、ワナワナと震えながら、老狐を睨み続けた。

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