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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十三章 軍神対決編
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第三百六十七話 どの口がそれを言う!?

『結界師への転生』が、去る10月12日に幻冬舎さまのデンシバーズ(http://denshi-birz.com/kekkaishi/)にてコミック化されました! これも偏に、拙作をご贔屓いただいている皆様のお陰と、厚く御礼申し上げます!

ヴィルは近づいて来るアガルタの騎兵たちを、微動だにせずに睨み続けていた。そのとき、彼の周囲を、わずかに残った数名の親衛隊が固めて、臨戦態勢を取った。


「陛下……」


傍でタブーが小さな声で話しかけてくるが、彼は一切の反応を示さない。やがて、騎馬隊はヴィルの周囲を取り囲み、その中の一人が、静かな声で話しかけてきた。


「私は、ラマロン軍の司令官を勤める、アーモンドというものだ。そのお姿を見るに、タナ軍の司令官のお一人であろうかと拝察する。貴公の名を伺いましょうか」


その声にヴィルは返答せず、赤く濁った瞳をアーモンドに向け続けた。アーモンドはヴィルの傍にいるタブーに視線を向け、先程と同じ問いかけをする。彼は、返答の許可を得るようにヴィルに視線を向けたが、相変わらずアーモンドを見据えたままで全く反応はない。


「……ラマロン軍が囮となっておったのか」


不意にヴィルが言葉を発した。アーモンドは怪訝な表情を浮かべながら、落ち着いた声で返答する。


「いや、私の所属はラマロン皇国だが、貴公たちが攻撃されたのは、紛れもなくアガルタ王が率いる軍勢である。私は単に援軍に来ているだけに過ぎない。……まずは、お名前を伺いましょうか」


「無礼者ぉ!」


突然、ヴィルの声が砂漠に響き渡る。彼の荒い息が、アーモンドのところまではっきり聞こえてくる。


「仮にも敵とは言え、一国の王と対するのだ。我らはアガルタ軍と戦っているのだ。ならば、アガルタ軍の中から然るべき者を寄こすのが筋だろう! 貴様では話にならん! 帰ってアガルタ王に伝えるがいい! 我はタナ王国国王、タナ・カーシ・ヴィルである! 我を捕らえたくば、アガルタ王自身がここに来るがいいと!」


アーモンドは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに目の前で激高するヴィルの顔を侮蔑の目で眺めていた。戦場において敵を捕らえるのに、アガルタもラマロンもないのだ。たまたま、戦場に取り残された一団を見た彼が、攻撃しようとはやる兵士たちを抑えて来ているのだ。司令官によっては、すでに彼の命は無くなっていたのだ。にもかかわらず、その状況を理解せず、あまつさえ、自らを国王と名乗り、それに見合う扱いを求めてきた。こんな男は、国王としての資格はない。アーモンドは心の中でそう呟いていた。


現にヴィルは、あらゆる面で、国王という座から落ちているのだ。家来も、兵士も、その多くが逃げ去っていた。今は配下の数名の兵士だけが、ヴィルの残存兵力だった。そういう状態ではヴィルの発言は効力はないし、その発言自体すらできる立場にいないのだ。


……こうなったら、おとなしく助命でも乞えば、まだまだみどころもあるのに。


彼は周囲に目をやる。ヴィルを守る兵士たちの表情は引きつっており、その真ん中に、白馬の上に金色の鞍を載せ、その上で銀の鎧を装備してふんぞり返りながら、アーモンドを見下しているヴィルの、高くて細い鼻梁が、アーモンドには叩き潰してやりたいほど憎らしく見えた。


……やたらと兵を動かすだけ動かして、兵士や周辺の国々を混乱させたバカ国王め。


彼はそんなことを心の中で吐き捨てていたが、表面上は落ち着いた様子を見せながら、ヴィルに向けて口を開く。


「私はあくまで、戦場に取り残された貴公を捕えに来たに過ぎない。貴公らは敗者である。今の貴公らには、自ら死を選ぶことも、生きることも決める権利すらない。貴公らの命を始めとするすべての事柄は、アガルタ王が判断される。長く戦場においでになった貴公らに、それがわからぬはずはないだろう」


そう言って彼は、周囲の部下たちに向けて顎をしゃくる。それを受けた兵士たちは馬を降り、タナ軍の兵士たちを捕らえ始めた。ヴィルたちは唯々諾々として彼らの命令に従い、その作業はわずか数十分で完了したのだった。


「司令官殿、よろしいのでしょうか? 仮にも一国の王なのです。もう少し……」


ヴィルたちをアガルタ軍本陣に護送している途中、アーモンドの副官であるシーバが話しかけてくる。後方にいるタナ軍の者たちを刺激しないように、アーモンドの馬に近づくことなく、さらには、彼の顔も見ることなく、ただ真っすぐを前を見据えたまま話しかけている。その様子を見てアーモンドは、シーバの優秀さを改めて感じた。


「ああいう手合いは、妥協すると付けあがる。放っておくのが一番だ」


彼は口元に笑みを湛えながら、大きく頷いた。



……まさか、敵の大将を、タナ国の国王を捕らえられるとは思ってもいなかった。その報告を聞いた俺は最初、何かの間違いではないかと思った程だ。だが、敵の身柄を確保したアーモンドは、確かに敵がそう言ったのだと断言し、その処遇を決めるように言ってきた。


まずは、捕虜を引見するべきだというクノゲンたちの言葉に従う形で、俺は、アーモンドにここに連れてくるように命じる。程なくして現れたのは、神経質そうな表情を浮かべた初老の男と、落ち着いた、穏やかな表情を浮かべた、二人の男だった。


初老の男は、俺を見ると一瞬だけ、少し戸惑った表情を見せた。だが、すぐに眉間に皺を寄せ、仁王立ちしたまま俺を睨みつけてきた。その後ろに控えていた男は、ゆっくりと片膝をつき、俺にじっと視線を向ける。


そんなことをしている間に、アーモンド配下の兵士たちが、銀の鎧や剣などを持って入ってきた。


「こちらが、タナ王国国王が装備していた武器、防具です。その隣が、タナ軍親衛隊長である、タブーが装備していた、武器、防具になります」


俺はそれらをチラリと見て、再び初老の男に視線を向ける。彼は顎をクイッと上げ、まるで見下げるようにして俺を睨んでいる。


「アーモンド、タナ王国国王で間違いはないな?」


「はい。彼が装備していた鎧に刻まれた紋章は、確かにタナ王国国王家の紋章でした。間違いはないと思われます」


「そうか。ご苦労だった」


そう言って俺はスッと立ち上がり、傍に控えているクノゲンたちに目配せをする。そして、そのまま踵を返して、本陣から出ていこうとしたところ、突然、怒鳴り声が響き渡った。


「余の首を獲らぬのか!」


驚いて声のする方向に振り向くと、ヴィルが憤怒の表情を浮かべて俺を睨みつけていた。


「アガルタ王・リノス、そなたも一国の王ならば、戦いの作法ぐらいちゃんと心得ていてはどうだ。戦いに勝っても、戦いの作法を知らないならば、野盗の類と同じではないか。国王というものは、捕らえた将を引見し、言葉をかけ、しかる後にその処遇を申し渡すものだ。今後もアガルタは、あちこちの国を攻め、その国王や領主を捕らえることだろう。だが、戦いの作法を怠ったならば、やがてアガルタも面目を失い、滅びる運命となろう。我が言葉を、深く胸に刻むがいい!」


「貴様っ! どの口がそれをッ!」


ヴィルの言葉が言い終わるか、終わらないかのうちに、ルファナ王女が剣を抜きはらっていた。それをクノゲンが止めに入り、彼女の剣の柄を右手で押さえている。俺はクノゲンに目配せをして、ルファナ王女を下がらせる。彼女はヴィルに憎しみを込めた視線を向けながら、本陣を後にしていった。


「さあ、斬れ! 余の首をもって、軍神の首を挙げたと末代までの誇りとするがいい!」


「いらない」


「何!?」


「お前の首に、価値はない」


「きっ、きっ、きっ……きさ……きさ……きささ」


「タナ軍は壊滅した。敵の軍団を制圧してしまった今、お前の首には、何の価値もない」


俺の言葉に、ヴィルは唖然としている。


「いや、アガルタ王。この男は、仮にも一国の王です。彼をこのままにすれば、再びタナ軍は勢いを盛り返すでしょう。ここで彼の首を獲り、タナ軍の兵士たちに晒すのです。そうすれば、敵は戦意を喪失し、我らの勝利は確定します」


進言するアーモンドに俺は視線を向ける。そして、ゆっくりと口を開く。


「彼が、自陣に帰れたら、ね。だが、ここは砂漠の真ん中だ。丸腰の彼らが徒歩で自軍にたどり着けるのだろうか? 無理だと思うよ? 首を晒す……ねぇ。う~ん。何か、もう一つだなぁ。あ、ちなみに、ヘイズ……そちらでは、オクタというのかな? 彼の転移を使って……って考えているかもしれないけれど、彼はもう死んだ。それは諦めるんだな」


「な……オクタが!? オクタ……」


「アガルタ王様」


驚きのあまり呆然とするヴィル。そんな中、彼の後ろに控えていた男が口を開く。彼は片膝をついたまま、真っすぐに俺に視線を向けている。


「一つ、お尋ねしたいことがございます」


「何だい?」


「我らは、何故、敗れたのでしょうか? 我が軍はアガルタ軍を包囲し、殲滅するべく攻撃を致しました。が、その攻撃は全く効いていないように見えました。一体なぜ……。どんな策を講じられたのでしょうか?」


「ああ、そのことか。簡単だ。結界を張ったんだよ」


「け……結界!?」


「ああ。今は国王などと言う厄介ごとを押し付けられているが、実は俺の本職は結界師でね。今回は、自分でも納得のいくいい結界が張れたと自負している」


「バ……バカな……。魔法は封じ込めたはずでは……」


ヴィルが、息も絶え絶えに呟いている。その様子を見ながら俺は、二人に向けてゆっくりと口を開く。


「では、なぜ俺たちが魔法を使えるようになったのか。種明かしをしようか」


目の前の二人の表情が徐々に青ざめていった……。

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