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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百三十六話 それぞれの役割

結局、メインティア王の提案は保留とすることにした。やはり俺はピアトリスには、自分で生涯の伴侶を見つけて欲しいと思う気持ちが強いのだ。


今のところ娘の中で婚約しているのは、長女のエリルだけだ。陛下に言われてその申し出を受けてしまったが、それがエリルを苦しめているのではないかと思う気がないこともないからだ。


彼女は長女ということもあり、しかもヒーデータ帝国の皇太子殿下と婚約していることもあって、リコからは厳しく教育されている。今のところ特に反抗するわけでもなく、リコの言うことをよく聞いて、とてもしっかりしたお姉ちゃんに育ってくれているし、行儀作法も実に見事だ。どこに出しても恥ずかしくない娘だと胸を張って言える。


だが一方で、同じ年に生まれたアリリアを見れば、彼女は実に天真爛漫な女の子に育っている。彼女は彼女でとても記憶力のいい、ある意味で先天的な頭の良さを持った子供だと思うのだが、何より、とても素直に喜怒哀楽を表現するのだ。親としてどちらがどうというわけではないが、俺はあまり子供を型にはめて育てるのには賛成しない。やはり子供は天真爛漫であっていいと思うのだ。もし、エリルが皇太子殿下をどうしても気に入らず、俺もコイツはダメだと思うような男であったならば、婚約を破棄してもいいと思っている。こんなことをリコが聞いたら、一晩中どころかエンドレスの話し合いになってしまうので、これはナイショにしていて欲しい。



メインティア王との話し合いを終えた俺は、執務室に向かう。部屋に入ると、窓の外にサダキチをはじめとした数羽のフェアリードラゴンが控えていた。俺はすぐに窓を開けて彼らを中に入れ、そして報告を聞く。


「……各地で教国に従う国々が兵を動かし始めたか。向かう先は……アフロディーテか」


俺は目を閉じて腕を組んだまま誰に言うともなく呟く。そして、サダキチ達にねぎらいの言葉をかけて窓を開け、彼らを下がらせると、目を閉じて念話を飛ばそうと意識を集中させた。


『チワン、すまないが、執務室まで来てくれ』


彼はすぐに転移してきた。彼は俺から指示を受けると、承知しましたと言ってすぐにその姿を消した。


「一刻の猶予もないな……」


俺は執務室の窓に視線を向ける。そこから見える景色は、皮肉なほどに美しいものだった。



「突然お呼びだてして、本当に申し訳ありません」


それから数時間後、既に日は暮れ、深夜になろうとしていた時間帯に、俺は集まった人々に向かって頭を下げていた。


迎賓館の会議室。そこには、通常ではありえない顔ぶれがそろっていた。まず、俺の上手の席にはヒーデータ帝国の皇帝陛下、その隣にはグレモント宰相、さらにその隣には、ヴァイラス公爵の姿もあった。下手に目を移すと、そこにはラマロン皇国のカリエス将軍とマドリン宰相の姿があり、さらにその隣には、ニザ公国のユーリー宰相の姿があった。そして、俺の正面の席には、ミーダイ国の帝様とフラディメ国のメインティア王、さらにその隣には……ヴィエイユの姿があった。


俺はこの錚々たる顔ぶれを見廻しながら、よくもこれだけのメンツが集まったものだと我ながら感心していた。そのとき、ヴィエイユと目が合った。彼女は相変わらず薄い微笑みを浮かべている。その表情からは怜悧さが読み取れ、俺は思わず我に返る。


「さて、本日急にお集まりいただいたのには訳があります。タナ王国の件です」


俺の言葉に全員が頷く。もう既に、あの国が何をしようとしているのか、ひいてはその後ろにいるクリミアーナが何をしようとしているのかを知っているのだ。


「既にタナ軍はニケ王のいるサンダンジ国の国境付近まで進出しています。その行軍速度は遅く、既に都を出てひと月になりますが、未だサンダンジに侵攻する動きは見られません」


「迷いが出た方が、負けるな」


誰に言うともなくカリエス将軍が呟く。その言葉に俺はゆっくりと頷く。


「既にサンダンジ側では迷いが出ています。確実に侵攻してくると考える者と、和平を模索しているのではと考える者との二派に分かれているようです」


「……まさに、敵の注文通りの展開になっているな」


発言しているのはグレモント宰相だ。その言葉に全員が頷く。


「そこで、サンダンジのニケ王から俺のところに援軍要請が来ました。つまり、現在の布陣を解き、国境を突破してタナ軍に襲いかかりそれを打ち破りたいとのことです。そのために、アガルタに協力して欲しいとのことでした。本日お集まりいただいたのは、サンダンジへの援軍を要請したいと考えたからです。いや、別に兵を出すことだけではありません。ニザ公国には武器や防具の支援をいただきたいと思っています。それぞれが協力できることがあれば、是非お願いしたいのです。もちろんアガルタも兵を出します。ただ、ウチは少数精鋭主義ですので、1万の兵が限界ですが……。」


「我がラマロン皇国は、兵をお貸ししましょう。我が宗主国であるアガルタが兵を出すのです。当然のことです。兵力で言えば2万を派遣しましょう」


「少なくないかな? 貴国の全兵力は15万ではなかったかな?」


口を挟んでいるのはヒーデータのグレモント宰相だ。その言葉に、マドリンが巨体をゆすりながら反論する。


「カリエス将軍が申しておるのは、我が国の精鋭部隊を出すということです。いたずらに多くの兵を連れても経費がかかるだけです。そのための精鋭部隊の派遣ということです。決してヒーデータ帝国を牽制しているわけではありませんので、その点はご安心ください」


何やら二人の間で火花が散っている。隣の陛下は涼しい顔をして我関せずの様子だ。そんな中、ニザのユーリー宰相が口を開く。


「我がニザ公国は武器と防具を提供しましょう。以前より開発しておりました新型武器の小型化には既に成功しております。すでに生産も始まっておりますが、それにつきましては3000人程度の数が限界です」


「ユーリー宰相、十分です。では、引き取りにはポーセハイを向かわせます」


「わかりました。あと、公国にある武器や防具は好きなだけ持って行ってもらって構わないと我が王も言っておいでです」


「そうだな……。アガルタには新型の武器と防具があるし、ラマロンには……あの魔法をレジストする自慢の鎧がありますよね? 武器については……既に新しいものを開発しているのですか? なるほど、特に支援は必要ないと……」


「マロのミーダイ国は、残念ながら力添えをすることは叶わぬが……。マロの警護に当たっておるオワラ衆という隠密がおる。頭領のイッカク以下数名を連れて行ってもらえぬか。役には立つはずじゃ」


帝様が驚く提案をしてくる。確かにイッカクたちが来てくれるのは心強い。ある意味、ヘタな軍勢が来るより価値がある。


「ですが帝様、あなたの警護が……」


「問題ない。キュアライトらを残すによって、マロたちはそれで十分じゃ。要は、貴殿が戻られるまで、マロがオクと子供の側におればそれでよいのじゃ」


その言葉に俺は思わず笑顔になる。だがすぐに真面目な表情に戻し、メインティア王に視線を向ける。彼は目を細めて笑顔を作っているが、どことなくこの会議には興味がないという雰囲気を醸し出している。


「私も協力できることはないが……。何しろ私はこれから死ぬ予定だからね。……冗談だ。そうだな、私はポセイドン兄の連絡役を担うとしよう。君のことだ。ポセイドン兄にも協力をお願いするのだろう? で、あれば、私が行った方が話はうまくまとまる。そちらの方は任せてくれ」


……割と空気読めますやん。そんなことを思いながら俺はゆっくりと息を吐く。すると突然、俺を呼ぶ声が聞こえた。


「義弟殿」


声のする方を向くと、ヒーデータ帝国の陛下が俺に視線を向けていた。いつもと変わらない表情だが、彼の口から放たれた言葉に、俺はしばらく固まるほかなかった。


何と、ヒーデータ帝国は、この戦には参加しないと言い出したのだ……。

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