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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十章 ミーダイ国編
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第二百八十七話 おひいさま、激怒!

部屋の前までやってくると、サンディーユがウロウロしている。何事かと思い近づいて見ると、彼は部屋に向かって絶叫していた。


「おひいさま! おひいさま! 何故でござります! ここを開けてくだされ!」


「ならん! 目通りは許さぬ!」


サンディーユは障子を睨みながら、ぐぬぬ……と歯ぎしりをしている。おそらくまだ貢物の味見……いや、がっつり食べている途中なのだろう。彼が入ってきて寄こせと言われるのがイヤなのか。いや、そこまで意地汚い人ではないか。ということは……食べ方が汚いなどと怒られるのがいやなのだろう。とはいえ俺もいつまでもここにいる訳にはいかない。俺はサンディーユの隣に立ち、障子に向かって口を開く。


「おひいさま、リノスです。お渡しし忘れていた貢物がありまして……。入ってもよろしいでしょうか?」


「……何? 貢物じゃと? うむ、苦しゅうない。苦しゅうないぞよ。さあさあこちらへ、きなこもちきなこもち」


きなこもちきなこもち……の言葉が何故かハモっている。おそらく千枝と左枝も一緒に言っているのだろう。相変わらずこの三人の息はピッタリだ。


中に入ると、おひいさまの胸のあたりが金色に輝いていた。ずいぶん食べこぼしたようだ。確かに、きなこ餅を食べるときは粉が落ちやすい。俺も子供の頃はずいぶんと叱られもしたし、粉を落とさないように食べるのに苦労したものだ。だが、今は全く粉を落とさずに食べる技術を習得することができているため、その心配は皆無なのだが。あとで彼女にその技を教えておこう。


「おひいさま! また汚しておる! 千枝も、左枝も! あれほど……」


「まあまあサンディーユさん、そのくらいで。おひいさまにお伝えすることがあるのでは?」


俺の言葉を聞いて彼はううむと唸る。そのとき、千枝と左枝がペロリと舌を出していた。


「おひいさま! 一大事ですぞ! ラトギスの杖が見つかったやも知れませぬそ!」


「ラトギスの杖?」


おひいさまは手をペロペロと舐めながら、まるで汚いものを見るかのような目でサンディーユを眺めている。そんな様子に彼はチッと舌打ちをして、再び口を開く。


「500年ほど前にエルフの許から盗まれた杖でございます! ほら、あの、黒い杖で、魔法陣が描ける……」


そこまで言うと、おひいさまの目がカッと見開かれる。


「そう、あのラトギスの杖でございます! 妖狐・ヘイズが盗み出した、あれでございます!」


「ヘイズの行方が知れたというのかえ!」


「わかりません。しかし、ヘイズが他の者に杖を盗まれるとは思えませぬ。このリノス殿の話を聞く限りでは、持ち主はヤツと考えてよいでしょう」


「あの、出しガラ野郎のドブ板野郎のタレ味噌野郎が! 目にもの見せてくれる!」


おひいさまの体の周りを狐火が取り囲んでいる。……怖い。


彼女の視線がゆっくりと俺に向けられる。俺は彼女のあまりの迫力に圧倒されてしまい、目を見開いたまま固まってしまう。


「そなた」


「……はい。何でしょう?」


「ご苦労ではあるが、ヘイズの行方を追ってはくれぬか?」


「あの……どういうことでしょう?」


「居場所を探し出すだけでよい。あとは妾がやる」


……目が完全に据わっている。怖い。マジで怖い。


「ずる賢いあ奴のことじゃ。妾が動くと確実にヤツは勘づくであろう。そうなっては、ヤツを捕らえる機会は永久にないやも知れぬ。そこで、そなたに頼むのじゃ。……受けてくれるな?」


「あ……ええ……はい」


「頼んだぞ。何かあれば言うて来るのじゃ。助けは惜しまぬ」


「あの……空間魔法のことを……」


「キェェェェェェェーーーーーイ!!」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い~~~~~~!!」


突然、おひいさまの絶叫と共に、頭に激痛が走る。あまりの痛さに俺は、頭を押さえて蹲りながら、のたうち回る。


「ふぅぅぅぅ~。相変わらずそなたはややこしいわぇ。ここかっ! ここかっ! ええい、面倒くさい! ここでよい! ここでよい! うりゃあ! うりゃあ! うりゃぁぁぁっ! ……生きておるか? 生きておるな? 生きているであろう、うむ。空間魔法のスキルを授けたによって、己で体験してみるとよい。結界魔法に比べると全く役に立たんスキル……にも見えようが、いや、それはその、使い方次第によって良い方法もあろう。自分で使ってみるのじゃ。ヘイズを見つけた報酬じゃ。そなたならば必ず見つけられよう。先に与えておくぞよ」


……みたいなことを喋っていたように記憶するが、俺はそれどころではない。激痛を和らげるためにひたすら回復魔法をかけ続けていたのだ。ようやく意識がはっきりしてきたと思ったら、そのタイミングでおひいさまが口を開いていた。


「ご苦労であった。下がってよい」


えっ? と固まる俺に、おひいさまと千枝、左枝の三人が、早く出ていけとばかりにじっと俺を見つめている。俺は後ろに控えていたゴンに促されるようにして、呆然としたまま部屋を後にしようとする。そのとき、不意におひいさまの声が聞こえた。


「ああそち、待ちゃ。待ちゃ」


クルリと振り返った俺に、彼女はさらに言葉を続ける。


「出し忘れている貢物を、ここに出して行きゃ」


俺は苦笑いを浮かべながら、ドーキからもらっていた餅を置いて、その場を後にした。




「えらい所をお目にかけたな。それにしても、あんな怒りに満ちたおひいさまは、久しぶりじゃ」


サンディーユは俺たちを部屋に招き入れた後、自分でお茶を入れて、俺たちに出しながら口を開いた。


「あ、いえ、お構いなく……。一体、何が何やらさっぱりわかりませんが……」


「さもありなん。そなたは知る由もない。そこに居る……ゴンも知らぬことじゃ」


「一体どういうことか、説明してもらえませんか?」


「うむ。したが……。すまぬ、ゴン。そなたは席を外してくれぬか?」


「何故でありますか!? これはおひいさまに関わる話ではないのでありませぬかー? おひいさまの眷属たる吾輩が席を外して、何故、ご主人だけに話をされるのでありますかー」


ゴンの言い分ももっともだ。しかしサンディーユは苦虫をかみつぶしたような顔をしながら口を開く。


「いや、そうではない。儂の相談事もあるのじゃ。その方に聞かれたくないのは……わかるであろう?」


そう言いながら彼は、どこからともなく一枚のカードを出し、ゴンの前にポンと投げた。


「アガルタの……それ、立花屋の……な。一日無料で遊べる。それでしばらく時間を潰して参れ」


「えっ!? 立花屋? あの……ここ最近できた娼館で、ミラヤと人気を二分する、あの立花屋でありますかー? 美女揃いのミラヤとは一線を画して、多種多様な、人間、獣人は言うに及ばず、幅広い年齢と色んなタイプの女性を取り揃えて、しかもお値段も幅広く、庶民から王族まで楽しめる大人の憩い場と評価の高い立花屋でありますかー。吾輩も一度行かねばと思っていたのでありますが、この吾輩ですら、なかなか予約が取れない程の人気店である立花屋でありますかー?」


「……能書きがうるさいわ。それを持っていけば、予約なしで遊ばせてくれる。ああ、遠慮はいらぬ。好きなだけ遊んで来ればよい」


「いや……あの……そんな……悪い……でも……そうでありますかー? そこまで仰られると、吾輩も断りにくいでありますなー。では、ちょっと見学に、あくまで見学に、今後の後学のために、ちょっと、行ってくるでありますー」


そんなことを言いながら、ウヘヘヘヘとゲスい笑い声を漏らしながら、ゴンは部屋を後にした。


「ま、しばらくヤツは帰って来まい。1週間経って帰ってこない場合は、悪いが迎えに行ってやってくれい」


「は……はあ」


「さてさて、ヘイズのことじゃな。あ奴は元々、おひいさまの眷属だった狐じゃ」


「え?」


「今から1000年ほど前になろうか。どこをどう間違えたのか、ある日突然おひいさまの眷属を辞め、妖狐に転生しおったのだ」


「妖狐に……ですか?」


「左様。通常、妖狐に転生するのは、余程の悪事を働いたときなのじゃ。大抵は転生する際に肉体が耐えきれずに滅ぶものじゃが、稀に転生に成功する狐もいる。それがヘイズじゃ。元々ヤツは魔力量が並外れておった。それゆえ転生できたのじゃろうな。それ以降ヤツは盗賊となり、多くの宝物を奪った。我々も全力で行方を追ったが、どうしても尻尾を掴むことは出来なんだのじゃ」


「その妖狐がなぜ、エルフ秘蔵の宝物を盗んだのですか?」


「そのことじゃ。エルフが地上を捨て、山深くに籠るようになったのも、ヘイズの仕業なのじゃよ。そして、おひいさまとエルフが絶縁状態になったのも、ヤツが関わっているのだ」


サンディーユは大きなため息をついて俯く。何やら根が深そうな話だ。俺はさらに詳しい話を聞こうと、彼の言葉に耳を傾ける……。

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