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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百四十七話 アルレに戻ってきたゾ!

マトカルに率いられたアガルタ軍は、威風堂々とアルレの城に戻ってきた。その彼女をホルムとその妻であるフィレットが出迎えた。ラースは食事を摂った後でお昼寝に入っているとホルムが報告してきた。


マトカルは愛馬から降りると、この後でデウスローダの兵たちがやって来るだろうが、その者たちも入れてやってくれと事も無げに言った。事情を知らないホルムは驚き、一体どういうことですと聞いたが、彼女は機嫌のよさそうな笑みを浮かべると、サッサと城に入っていった。


改めてマトカルから戦闘の報告を聞いたホルムとフィレットは驚愕した。まさか、援軍に来たクリミアーナ軍に攻撃を仕掛けるなど、考えられないことであった。マトカルは涼しい顔をしながら、私の命令を聞かなかったからだとにべもなく答えた。


「一体なぜ……。別に、攻撃を加える必要もなかったのでは……」


心配そうな表情を浮かべながら口を開くホルムに、マトカルはニコリを笑みを漏らすと、


「ホルム、貴様意外と気が小さいのだな。クリミアーナ軍の司令官は素人だ。素人相手にこちらの言葉が通じるとは思えない。であれば、力づくでいうことを聞かせるだけだ」


と言った。ホルムは心の中で、何と無茶苦茶な人だと驚きつつ、そんな様子はおくびにも出さずに、


「ただ、今回の件で、クリミアーナが難癖をつけてこないかが、心配です」


と言うと、マトカルはハハハと乾いた笑い声をあげた。


「そのときは、黙殺するだけだ」


その言葉に、ホルムとフィレットは二の句が継げなかった。


実際、クリミアーナ軍はアルレの沖に軍船を並べていた。言わば、今すぐにでも攻撃を仕掛けようと思えば、簡単にそれは実行できてしまう状態であった。ホルムは傍にいた指揮官たちに、まずはクリミアーナの動きを見張れ。どんな些細な動きも見落とすなと命令した。その命令を受けてフィレットが無言のまま立ち上がり、数名の指揮官を連れて部屋を後にしていった。


「フィレット殿は、なかなか気が利くな。ホルム、貴様、いい女房を持ったな」


マトカルはそう言って機嫌のよさそうな笑みを浮かべたが、ホルムはどう返答してよいのかがわからず、戸惑いの表情を浮かべた。そんな彼の様子を見ながらマトカルは、少し部屋で休むと言って立ち上がった。


しばらくすると、バゼットと名乗るデウスローダの部隊が城門前に現れた。結局彼らはマトカルの言を容れて、アルレの城に引き上げてきた。実際彼らは疲労困憊しており、王都まで引き上げる力はなかった。彼らとしても、やっとの思いでアルレに引き上げてきたのである。


ホルムらはこの将兵たちを丁重に扱い、周囲の村からの避難民を収容する施設を提供した。彼らはそこに入ると、皆一様に泥のように眠り込んだ。兵士によっては、鎧も脱がず、帯剣した状態で眠る者さえいた。アガルタ軍でそんなことをすれば、上官からどやされ、下手をすれば懲罰を食らうことになる行為だが、それは無理もないことと言えた。彼らは世界最強とうたわれたアガルタ軍の正面に立っていた。その緊張感たるや、どのような訓練でも経験した事のないレベルのものであった。さらにそれからすぐにクリミアーナの攻撃を受けた。相当の訓練を積んだ彼らにとっては、その攻撃は大したものではなかったが、それでも、油断すれば、どこかの盾が破られればその瞬間に部隊が崩壊するほどの圧倒的な物量としつこさだった。


そうした緊張感から解放された瞬間に、彼らにはこれまで経験した事のないほどの疲労感が襲ってきた。睡眠もそう取らず、食事もほとんど摂っていない状態であったとすれば、この状態になるのは当然と言えた。


ホルムは、数時間後には彼らは目覚めるだろうから、そのタイミングで食料と湯を提供しろと部下に命じた。


しばらくすると、海上のクリミアーナ軍に動きがあった。こちらに攻撃を仕掛けてくるのではないかと一瞬緊張が走ったが、彼らは船首を大きく回すと、アルレとは反対方向の、これまで進軍してきた元の道を戻り始めた。その様子を見た他の部隊も、撤退の動きを見せ始めた。彼らとしても、まさかクリミアーナがデウスローダに攻撃を仕掛けるとは思ってもおらず、しかも、そのクリミアーナによって国王ブレイが討ち取られたとあっては、彼らに出兵する意義が失われていた。彼らの懸念点は、クリミアーナがこちらにも攻撃を仕掛けてくることであったが、その軍勢が引き上げる姿勢を見せては、彼らもここにとどまる理由はなかったのである。むしろ、このままここに居座れば、アガルタから攻撃される可能性があった。彼らとしても、世界最強をうたわれる軍勢と単体でコトを構えるつもりはさらさらなかったのである。


海上に展開していた軍勢が撤退し始めたことを確認したホルムは、マトカルの部屋に行き、その旨を報告しようとした。だが、扉をノックしても中から返事はなかった。不思議に思い、扉を開けて中に入ると、マトカルはベッドの上で眠っていた。


彼女は仰向けになって眠っていた。枕元には鎧が置かれ、襲撃を警戒しているのか、体の左隣には剣が置かれていた。右手は腹の上に置かれている一方で、左手は剣を握っていた。ホルムは、これは近づきすぎたら斬られるなと心の中で呟きながら苦笑いを浮かべた。


彼女が眠っている姿を人に見せるのは珍しいことと言えた。だが、ホルムはマトカルのこうした姿を何度か目撃したことがあった。そのときの彼女は、人の気配を感じると決まって目を覚まして、何事もないかのように起き上がった。起きた瞬間に通常の状態に戻る彼女を見て、いつもホルムは驚愕していたのだが、今回ばかりは目覚めることがなく、マトカルは静かな寝息を立てていた。


よく見るとその寝顔はまるで少女のようであった。子供一人を生んだとは思えぬほどの若さであり、なるほど、ラマロン皇帝の落胤であると頷けるほどの気品があった。つい先ほどまで大声で命令を下したり、戦場で先頭を切って駆け抜けたりする鬼神のような姿はどこにもなかった。この様子を見てホルムは、アガルタ王様は、このお方のこの寝顔に惚れられたのかもしれないと直感的に思った。


彼は主人が起きるまで待機していようと、ゆっくりとその場に片膝をついた。その瞬間、マトカルの眼がゆっくりと開かれた。


「海上の様子は」


ベッドに仰向けになりながら彼女は口を開いた。ホルムは、クリミアーナは撤退しております。各国の軍勢もそれに倣い、撤退の様子を見せています。と報告した。


「そうか。だが、油断はするな。それと、バゼットの隊はどうした」


「はい。ここアルレに引き上げて参りました。よほど疲れていたのでしょうな。今は全員が眠っております。数時間もすれば目覚めるでしょうから、その際に食料と湯を提供するように命令しております」


「それでいい」


マトカルはそう言うと、深呼吸をして、寝転がりながらうーんと背伸びをした。


「もうしばらく眠る。何かあれば、報告してくれ」


承知しましたと言ってホルムは頭を下げる。彼が頭を上げたときには、すでにマトカルは静かな寝息を立てていた。その様子を見てホルムは、このお方もやはり人なのだなと妙に納得したのだった。彼は主人を起こさぬように、足音を消しながら部屋を後にした。


バゼットたちが目覚めたのは、それから約三時間後のことであった。彼らは一様に、魂の抜けたような状態であった。それは、司令官たるバゼットも同様であった……。

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巻末には書下ろしイラストが収録され、リコ、メイ、エリルらのコスプレ(?)が見られます。

どうぞ手に取ってご覧ください!

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