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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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8/18

8本目【タコ×岩貝】


タコは岩場を進みながら、一本の太い足を動かしていた。


太身魚を食べて変わった足。

以前からある太い足よりも重いが、その分ずっと強い。


近くの岩へ巻き付ける。

少し力を入れるだけで、身体が簡単に引き寄せられた。


強い。


タコはその足を見た。

そこで、ふと思い出す。


硬い殻。

岩へ張り付いて、何度引いても剥がれなかったもの。


岩貝。


前は食べられなかった。

でも、今なら。


タコは身体の向きを変えた。


前に岩貝を見つけた場所は、はっきりとは覚えていない。

ただ、来た道のどこかにあった。


タコは岩の隙間を覗き、見覚えのある岩場を探しながらゆっくりと戻っていった。


途中で小魚が近くを泳いだが、追わなかった。

今は岩貝が食べたい。


しばらく進むと、大きく割れた岩が見えてきた。

細い隙間があり、その先は少し広くなっている。


見覚えがある。

タコは周囲を見渡した。


岩へ張り付いた、丸く硬そうな殻。

一匹だけでなく、近くの岩にもいくつか張り付いている。


いた。


タコはそのうちの一匹へ近づいた。

以前と同じ岩貝かどうかは分からない。

けれど、そんなことはどうでもよかった。


食べたい。


タコは足を伸ばし、殻へ吸盤を張り付けた。

そのまま引っ張ってみる。


動かない。


タコは太身魚を食べて変わった足を巻き付けた。

他の足を周囲の岩へ張り付け、身体をしっかりと固定する。


太い足へ力を込めた。


岩貝はびくともしない。

さらに引くと、タコの身体だけが僅かに伸びた。


それでも足を離さず、もっと強く引っ張った。

すると、岩貝の端が僅かに浮き上がった。


タコは動きを止めた。


動いた。


もう一度力を込める。

岩貝と岩の間に、小さな隙間ができた。


剥がれる。


タコはさらに何本もの足を絡ませた。

できた隙間へ足先を押し込み、殻の端を持ち上げながら身体ごと後ろへ引く。


岩貝は強く岩へ張り付いている。

けれど、できた隙間が少しずつ広がっていった。


タコは太い足へさらに力を込めた。


──ベリッ。


岩貝が岩から引き剥がされた。

その勢いでタコの身体が後ろへ転がり、岩貝も一緒に岩の上へ落ちた。


剥がれた。


タコはすぐに岩貝へ足を巻き付けた。

もう岩には張り付いていない。


今度は簡単にひっくり返すことができた。


これまで見えなかった下側が露わになる。

殻の内側には、柔らかな部分が覗いていた。


食べられる。


タコは岩貝を押さえ込み、露出した柔らかな部分へ噛み付いた。


岩貝の身が大きくうねる。

殻の奥へ引っ込もうとするが、タコは足で殻を押さえたまま、もう一度齧り付いた。


柔らかい。


身が激しく縮む。

タコは口を離さず、さらに柔らかな部分へ噛み付いた。


岩貝は殻の中へ身を引こうとする。

けれど、岩から剥がされた身体はタコの足に押さえ込まれ、逃れることができない。


タコは何度も齧り付いた。


やがて、岩貝の身が大きく縮んだ後、動かなくなった。

その一口で、何かが岩貝の身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


来た。


タコはそのまま次の一口を齧った。


美味い。


硬い殻の中には、思っていたより肉が入っている。

少し弾力があり、噛むとゆっくり潰れていく。


前は食べられなかった。

今は食べている。


タコは夢中で殻の中身を食べていった。

柔らかな部分を探しながら齧り続け、やがて食べられるところがほとんどなくなる。


タコは殻から身体を離した。

そこで、一本だけ残っていた普通の足が変わっていることに気付いた。


吸盤が少し大きくなっている。

一つ一つが厚くなり、以前よりも岩へ張り付きやすそうな形へ変わっていた。


さらに、吸盤とは反対側の表面。

そこだけ皮膚が硬くなり、灰色がかった岩のような質感になっている。


タコは足を動かしてみた。


重い。


他の足よりも動きが鈍い。

それでも近くの岩へ伸ばし、吸盤を張り付けた。


タコは身体を引いた。


離れない。


さらに強く引っ張る。

けれど、吸盤はしっかりと岩へ張り付いたままだった。


タコは別の足で岩を押しながら、身体を引っ張った。

ようやく吸盤が一つずつ剥がれていく。


強い。


タコは足を岩から離した。

今度は吸盤とは反対側の硬くなった部分を岩へ押し付けてみる。


痛くない。

少し強く押し付けても、硬い表面は傷付かなかった。


カニを食べて変わった足ほど、全体が硬いわけではない。

けれど、外側の硬くなった部分なら岩へ当てても平気だった。


タコは何度か足を動かした。


重い。

遅い。


でも、硬い。

それに、強く張り付く。


気に入った。


タコはその足を身体へ引き寄せ、奥にあるものへ意識を向けた。


いる。

さっき入ってきたものが、そこに収まっている。


タコは舐めるように触れた。

味が広がる。


濃い。


ゆっくりと身体の奥へ広がる、重い味。

太身魚の力強い味とも、カニの硬い味とも違う。

岩へ張り付いたまま動かない岩貝のように、どっしりとした感覚がある。

その中には僅かな塩気のようなものも混じり、ゆっくりと後に残っていく。


美味い。


派手な刺激はない。

けれど、長く残る。


タコはもう一度触れた。

重い味がゆっくりと広がり、身体の奥へ留まり続ける。


やっぱり美味い。

タコはしばらくその味を楽しんだ。


それから、自分の足を見渡した。


速く伸びる足。

強い足。

自分を速く動かす足。

硬い足。

棘の足。

もっと強い足。

もっと速く、遠くまで伸びる足。


そして、強く張り付く足。


八本。

全部、違う。


タコはしばらく自分の足を見ていた。


普通の足は、もうない。

全部変わった。


タコは八本の足をゆっくりと動かした。


全部、自分の足だ。


速く伸びる足を岩へ伸ばす。

太い足で身体を引き寄せ、硬い足で岩肌を押さえる。


最後に、強く張り付く足を岩へ吸い付けた。

身体を引き寄せ、そのまま岩の上へ這い上がる。


前は食べられなかったものも、今は食べられた。


タコは岩場の奥へ目を向けた。


もっと強いものもいるかもしれない。

まだ食べられないものもいるかもしれない。


それでも、食べてみたい。

どんな味がするんだろう。


タコは八本の変わった足を動かしながら、さらに岩場の奥へ進んでいった。


●岩貝

特徴:

 硬い殻に身を守られ、岩へ非常に強く張り付いている

獲得能力:

 吸盤が大きく発達し、吸着力・固定力が大幅に上昇

 吸盤と反対側の体表が岩のように硬質化する

 ただし足は重くなり、動きが鈍くなる


【現在の八腕】

 一ノ足:細身小魚

 二ノ足:太身小魚

 三ノ足:エビ

 四ノ足:カニ

 五ノ足:ウニ

 六ノ足:太身魚

 七ノ足:細身魚

 八ノ足:岩貝

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