6本目【タコ×ウニ】
タコは岩場を進んでいた。
細身小魚と太身小魚をもう一度食べたことで、二本の足は少しだけ良くなった。
速く伸びる足は前より遠くへ届き、太い足には前より力が入る。
足の奥にあるものも、前より美味くなった。
また食べたい。
タコは岩の隙間を覗きながら、ゆっくりと進んでいった。
しばらくすると、少し先の岩に見慣れないものが張り付いていた。
丸く膨らんだ硬そうな殻。
その下から、柔らかそうな部分が僅かに覗いている。
タコは近づいた。
食べられそう。
タコは殻へ足を伸ばし、吸盤を張り付けた。
そのまま岩から剥がそうと引っ張る。
しかし、殻は動かなかった。
タコは太くなった足を伸ばし、殻へ巻き付けた。
他の足を周囲の岩へ張り付け、身体を固定する。
力を込めて引く。
岩貝はびくともしない。
さらに太い足へ力を込めると、タコの身体だけが僅かに伸びた。
タコは何本もの足を殻へ絡ませ、身体ごと後ろへ引いた。
それでも剥がれない。
今度は殻の端へ足先を押し込もうとする。
しかし、岩との間にはほとんど隙間がなく、柔らかな足先も入らなかった。
タコはしばらく引っ張り続けたが、岩貝は動かなかった。
そこで、今度は殻へ口を寄せた。
齧る。
硬い。
場所を変えてもう一度齧ったが、やはり歯が立たない。
柔らかな部分を食べようとしても、岩へ張り付いた下側には口が届かなかった。
タコは再び太い足を巻き付け、力いっぱい引っ張った。
それでも動かない。
タコはようやく足を離した。
岩貝は何事もなかったように、岩へ張り付いたままだった。
食べたい。
タコはしばらく岩貝を見つめていた。
もう一度太い足を伸ばしかけたが、やがて身体を離す。
そのまま岩場の奥へ進んでいった。
途中、小さな魚が岩陰へ逃げ込んでいった。
別の隙間では、エビが砂の中へ身体を隠している。
タコはそちらへ目を向けたが、追いかけなかった。
さらに進んだところで、岩の窪みに黒いものが見えた。
丸い身体。
その周囲から、細長く尖ったものが何本も伸びている。
タコは動きを止め、ゆっくりと近づいた。
黒い身体を覆う、長く鋭い棘。
岩の窪みに収まったまま、ほとんど動いていない。
ウニだった。
タコは一本の足を伸ばした。
しかし、吸盤が触れるよりも先に、足先が棘へ当たった。
痛い。
タコはすぐに足を引っ込めた。
ウニは動かない。
タコは少し離れたところから周囲を回り、別の方向から足を伸ばしてみた。
けれど、どこから近づいても棘が邪魔になる。
タコは一度足を引っ込めた。
それから、カニを食べて硬くなった足を伸ばす。
棘の先端が硬い甲殻へ当たった。
そのまま少し押し付けてみる。
痛くない。
タコはさらに力を込めた。
棘が甲殻の表面を滑る。
タコは硬い足を持ち上げ、ウニへ振り下ろした。
──ゴツッ。
硬い足が棘へぶつかり、何本かが折れた。
タコは動きを止めた。
折れた。
もう一度、硬い足を振り下ろす。
さらに棘が折れ、岩の上へ散っていった。
タコはそのまま硬い足を何度も叩き付けた。
棘が甲殻へ当たっても痛みはなく、叩くたびに少しずつ折れていく。
やがて、棘の少なくなった場所から硬い殻が見えてきた。
タコはそこへ硬い足を押し付けた。
殻は動かない。
今度は足を持ち上げ、勢いよく叩き付ける。
それでも割れなかった。
タコはもう一度同じ場所を叩いた。
殻に小さなひびが入った。
さらに何度か叩くと、ひびが広がり、やがて殻の一部が割れた。
内側から柔らかな部分が覗く。
タコは太い足を伸ばし、ウニの身体へ巻き付けた。
他の足も棘の折れた場所を選んで伸ばし、岩へ押さえ付ける。
そして、割れたところへ口を寄せた。
齧る。
柔らかな中身が口へ入った。
ウニの身体が僅かに震える。
タコはさらに齧り付いた。
その一口でウニの動きが止まり、何かがタコの中へ流れ込んできた。
来た。
タコはそのまま次の一口を齧った。
美味い。
魚とも違う。
エビとも、カニとも違う、少し変わった味だった。
タコは割れた殻を広げながら、中身を食べていった。
棘が邪魔になるところでは硬い足を使い、折りながら少しずつ食べ進める。
やがて、食べられるところがほとんどなくなった。
タコは身体を離した。
そこで、また一本の足が変わっていることに気付いた。
その足だけ、全体が少し黒くなっている。
柔らかかった皮膚も硬く締まり、表面には短い突起がいくつも浮かんでいた。
タコはじっと見つめた。
棘だ。
ウニほど長くはない。
けれど、黒くなった足の表面から、短く鋭い棘が何本も生えている。
タコはその足を動かした。
棘も一緒に動く。
近くの岩へ軽く押し付けると、硬い棘が岩肌へ引っかかった。
硬い。
タコが足を動かした時、棘の一本が隣の足へ触れた。
痛い。
タコはすぐに二本の足を離した。
棘の触れた場所では、皮膚がほんの少し裂けている。
タコは棘の生えた足を見つめた。
触れると痛い。
今度は他の足へ触れないように、ゆっくりと動かしてみた。
棘が岩へ当たると、表面に小さな傷が残る。
硬い。
尖っている。
タコはその足を何度か動かした。
他の足へ触れそうになるたびに、少し離す。
扱いづらい。
でも、気に入った。
タコは棘の足を身体へ引き寄せ、その奥にあるものへ意識を向けた。
いる。
さっき入ってきたものが、そこに収まっている。
タコは舐めるように触れた。
味が広がる。
濃い。
カニの重い味とは違う。
まろやかな味が身体の奥へゆっくりと広がり、その中に細かな刺激がいくつも混じっていた。
ちくちくする。
滑らかな味の中で、小さな棘が転がるような感覚。
けれど、身体に刺さる棘とは違い、痛みはない。
僅かな甘さと、今までにない独特の癖も残る。
美味い。
タコはもう一度触れた。
まろやかな味の中に、ちくちくとした刺激が広がっていく。
やっぱり美味い。
タコは何度もその味を楽しんだ。
今までのどれとも違う、不思議な味だった。
もっと味わいたい。
タコはしばらく足の奥にあるものへ触れ続け、やがて自分の足へ目を向けた。
速く伸びる足。
強い足。
自分を速く動かす足。
硬い足。
そして、棘の生えた足。
五本。
全部違う。
タコは棘の足をゆっくりと動かした。
近くの岩へ当てると、短い棘が硬い表面へ食い込む。
硬い。
尖っている。
タコはその足をもう一度動かした。
そこで、先ほどの岩貝を思い出す。
硬い殻。
岩へ張り付いて、何度引っ張っても剥がれなかったもの。
タコは棘の足を見た。
刺すことはできそう。
けれど、あの殻は硬い。
岩から剥がすことはできそうにない。
まだ食べられない。
タコはしばらく岩貝がいた方を見ていた。
食べたい。
タコは棘の足を他の足から少し離しながら、岩場の奥へ進んでいった。
⚫︎ウニ
特徴:
全身を硬い棘に覆われている。触れると痛い
獲得能力:
足が黒く硬化し、その表面に短い硬質棘がいくつも生える
【現在の八腕】
一ノ足:細身小魚
二ノ足:太身小魚
三ノ足:エビ
四ノ足:カニ
五ノ足:ウニ
六ノ足:
七ノ足:
八ノ足:




