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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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5/16

5本目【タコ×小魚】


カニを食べたあと、タコには特に追いかけたいものがなくなった。


岩場をゆっくりと進む。

身体を岩肌へ溶け込ませ、隙間を覗き、食べられそうなものがいれば少し近づく。


小さな魚。

貝。

砂へ潜る生き物。


どれも気にはなる。

けれど、どうしても食べたいというほどではなかった。


タコはそのまま岩場を進んだ。

しばらくすると、少し先を一匹の魚が横切った。


太い。


以前食べた太身小魚に似ている。

けれど、もっと大きい。


身体も分厚く、尾も太い。


美味そう。


タコは岩へ身体を寄せ、体色を合わせた。

魚はこちらに気付かず、ゆっくりと近づいてくる。


タコは細長く変わった足を僅かに持ち上げた。


魚が足の届くところまで来た瞬間、一気に伸ばす。

細長い足が水を切り、魚の身体へ絡み付いた。


すぐに二本目、三本目も伸ばす。

しかし、魚が身体を大きく振った。


強い。


タコの身体が一気に引っ張られた。

それでも足を離さず、太くなった足まで巻き付ける。


タコは何本もの足で身体を締め付けた。

魚は激しく身を捻り、太い尾を大きく振る。


その勢いで、タコの身体ごと引きずられた。


タコは近くの岩へ吸盤を張り付けた。

身体を固定し、太い足へさらに力を込める。


けれど、魚は止まらなかった。


大きく身体を捻られるたびに、吸盤が少しずつ剥がれていく。

タコは何度も足を絡ませ直したが、魚の力が強すぎた。


再び尾が大きく振られた。


絡み付いていた何本かの足が外れる。

タコは慌てて伸ばし直したが、その前に魚が身体を激しく捻った。


太い足まで振りほどかれた。


魚はそのまま勢いよく泳ぎ去っていく。


タコは追わなかった。

岩へ張り付いたまま、遠ざかる魚を見つめた。


強い。


捕まえられた。

でも、押さえられなかった。


タコは太くなった足を動かす。


前より強い。

それでも足りなかった。


もう一度魚が消えた方を見る。

しかし、姿は見えなかった。


惜しい。


タコはしばらくその方向を見ていたが、やがて身体を岩から離した。


再び岩場を進んでいく。


少しすると、岩陰に一匹の太身小魚が入り込んできた。

先ほど逃げた魚よりも、ずっと小さい。


タコは岩肌へ身体を寄せ、そのまま待った。

太身小魚はこちらに気付かず、ゆっくりと近づいてくる。


足が届くところまで来ると、細長い足を一気に伸ばした。

吸盤が魚の身体へ張り付き、そのまま巻き付く。


続けて二本目、三本目も伸ばした。


魚が激しく暴れたが、先ほどの大きな魚ほど強くない。

太い足まで巻き付けると、動きはすぐに鈍くなっていった。


タコはさらに締め付けた。

やがて魚は動かなくなる。


しばらく押さえ続け、動かないことを確かめてから身体を寄せた。

柔らかな部分へ齧り付く。

その瞬間、魚の身体から何かが抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


まただ。


タコはそのまま次の一口を齧った。

美味い。


先ほど逃げた大きな魚ほど肉は多くなさそうだが、それでも十分だった。


タコは夢中になって食べ続けた。

やがて、食べられるところがほとんどなくなる。


身体を離したところで、少しだけ違和感を覚えた。


いつもなら、どこかの足が変わっている。

けれど、今回はどの足も変わっていなかった。


タコは自分の足を見た。


速く伸びる足。

太い足。

自分を速く動かす足。

硬い足。


どれも前と同じだった。


さっき、確かに何かが入ってきた。


タコは身体の中へ意識を向けた。

新しく入ってきたものを探るが、見つからない。


もう少し探っていると、太い足の奥にあるものへ意識が触れた。


いる。


前からいたものだ。

けれど、何かが少し違う。


タコは気になって、舐めるように触れてみた。

味が広がる。


濃い。


以前よりも少しだけ重い。

身体の奥へ残る感覚も、前より長くなっている。


美味い。


タコはもう一度触れた。

やっぱり濃くなっている。


前より美味しい。


タコは何度かその味を楽しんだ。


やがて身体を動かし、近くの岩へ太い足を巻き付けた。

そのまま引っ張ると、身体が勢いよく引き寄せられる。


タコは動きを止めた。


もう一度、別の岩へ太い足を巻き付ける。

力を込めて引くと、先ほどまでよりも身体が軽く動いた。


強い。


大きく変わったわけではない。

けれど、前より少しだけ力が入りやすい。


タコは太い足を見た。


美味くなった。

強くもなった。


タコは満足するように、その足を何度か動かした。


それから、再び岩場を進んでいく。

しばらくすると、少し先を細長い魚が泳いでいった。


見覚えがある。


最初に食べた魚と同じような姿だった。


タコは動きを止めた。

魚を見つめ、それから速く伸びる足へ目を向ける。


あれも?


タコは身体を岩肌へ寄せ、色を合わせた。

細身小魚はこちらに気付かず、岩の近くを泳ぎながら少しずつ近づいてくる。


タコは細長い足を僅かに持ち上げた。


魚が近づいた瞬間、一気に伸ばす。

魚は逃げようと身を翻したが、細長い足が追いついた。


吸盤が魚の身体へ張り付き、そのまま巻き付く。


続けて二本目、三本目も伸ばした。

魚が暴れたが、太い足を絡ませるとすぐに動きが鈍くなる。


タコはそのまま締め付けた。

やがて魚の身体から力が抜ける。


しばらく押さえ続け、動かないことを確かめてから柔らかな部分へ齧り付いた。

何かが魚の身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んでくる。


やっぱり。


タコはそのまま食べ続けた。

細身小魚は小さく、すぐに食べ終わってしまう。

タコは残った硬い部分から身体を離した。


足は増えていない。

見た目にも、大きな変化はなかった。


タコは速く伸びる足の奥へ意識を向けた。


いる。


前からいたものだ。

けれど、少しだけ濃くなっている。


タコは舐めるように触れた。

美味い。


細く伸びるような味が、以前よりもはっきりと広がっていく。

タコはもう一度触れ、その味を楽しんだ。


前より美味しい。


タコはその足を近くの岩へ向けて伸ばした。

鋭く水を切り、吸盤が岩へ張り付く。


今度は、もう少し離れた岩へ伸ばしてみる。


届いた。


以前よりも、ほんの少しだけ遠くまで伸びている。

動きも僅かに速くなっていた。


タコは何度か足を動かした。

伸ばすたびに、以前よりも遠くへ届く。


速くなった。

遠くまで届く。


タコは太い足も動かした。

こちらも、前より強くなっている。


二本の足を見比べる。


どちらも前よりいい。


タコは足の奥にあるものへ、もう一度触れた。

それぞれ違う味が、身体の中へ広がっていく。


美味い。


もっと食べたい。

もっと美味くなる。

もっと強くなる。


タコは周囲を見渡した。

先ほどの魚は、もういない。


けれど、岩場にはまだ獲物がいる。


タコは身体を岩肌の色へ変えながら、次の獲物を探して進んでいった。


【現在の八腕】

 一ノ足:細身小魚

 二ノ足:太身小魚

 三ノ足:エビ

 四ノ足:カニ

 五ノ足:

 六ノ足:

 七ノ足:

 八ノ足:

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