4本目【タコ×カニ】
カニを探して、岩場を進む。
タコは身体を岩肌の色へ変え、ゆっくりと這っていた。
岩の隙間を覗き、少し進んでは止まって周囲を見る。
別の生き物は何匹か見つけた。
小さな魚。
岩に張り付く貝。
砂の中へ潜る何か。
けれど、今はカニがいい。
硬い甲羅。
痛い鋏。
前は足を切られた。
タコは太くなった足を岩へ巻き付け、身体を引き寄せた。
続けて、エビを食べて変わった足を岩へ押し付ける。
身体が勢いよく前へ飛び出した。
まだ上手く動かせないが、前よりもずっと速い。
タコは近くの岩へ吸盤を張り付け、身体を止めた。
今度こそ、食べたい。
タコは再び岩の影へ身体を紛れ込ませ、ゆっくりと進んでいった。
しばらくすると、岩と岩の間に横へ動くものが見えた。
タコはすぐに動きを止める。
カニだ。
前に逃げられたものと同じくらいの大きさ。
硬そうな甲羅に、二本の鋏。
タコは岩肌へ身体を寄せ、色を合わせた。
カニはこちらに気付いていない。
横向きに歩きながら、鋏で砂や小石をかき分けて餌を探している。
見つけた。
タコはじっと待った。
カニが近づいてくると、細長く変わった足を僅かに持ち上げる。
前に挟まれた足が、まだ少し気になった。
あの鋏は嫌だ。
カニが足の届くところまで来た瞬間、細長い足を一気に伸ばした。
吸盤が甲羅へ張り付き、カニが驚いたように脚を動かす。
二本の鋏が持ち上がった。
タコは細長い足を縮め、身体を引き寄せる。
カニが鋏を大きく開いた瞬間、エビの足を岩へ押し付けた。
身体が勢いよく横へ飛ぶ。
直後、鋏が勢いよく閉じた。
しかし、そこにはもうタコの身体がなかった。
タコは甲羅へ張り付けた足を縮め、カニの後ろへ回り込む。
そのまま何本もの足を甲羅へ絡ませた。
カニが身体を激しく振る。
二本の鋏もタコへ向けられた。
タコは太くなった足を伸ばし、片方の鋏へ巻き付けた。
開いていた鋏を強い力で閉じさせ、そのまま甲羅へ押し付ける。
もう片方にも二本の足を絡ませた。
鋏を閉じたまま押さえ込み、さらに付け根まで巻き付ける。
カニが激しく暴れた。
二本の鋏を開こうとし、タコの足へ向けようとする。
しかし、太い足が鋏を押さえ、他の足も付け根へしっかり巻き付いていた。
鋏が動かない。
タコは残りの足を甲羅や脚へ絡ませ、さらに強く押さえ込んだ。
カニは身体を振って逃れようとしたが、何本もの吸盤が張り付き、思うように動けない。
タコはそのまま締め付けた。
カニの脚が激しく動く。
それでも足を離さず、さらに力を込める。
やがて、抵抗が少しずつ弱くなっていった。
タコは甲羅へ身体を寄せ、硬い表面へ噛み付いた。
硬い。
もう一度齧ってみたが、歯が立たなかった。
タコは身体を少しずらし、今度は脚の付け根へ噛み付く。
先ほどよりは柔らかいが、まだ硬い。
別の脚の付け根へも齧り付いた。
それでも、ほとんど肉を食べられない。
タコは何本もの足でカニを押さえたまま、身体を下側へ回り込ませた。
そこで、口に触れる感触が変わった。
甲羅の下。
腹側の薄い部分だった。
タコはそこへ強く噛み付いた。
柔らかい。
カニの身体が大きく跳ねた。
二本の鋏が激しく動こうとするが、タコの足に押さえられている。
タコはさらに腹側へ齧り付いた。
今度は柔らかな肉が口へ入る。
食べられる。
タコは何本もの足でカニを押さえ込み、そのまま腹側へ何度も噛み付いた。
暴れていた脚の動きが少しずつ弱くなり、やがて身体から力が抜けていく。
それでもタコは離さなかった。
さらに齧り付き、しばらく押さえ続ける。
カニがまったく動かなくなったことを確かめ、もう一度腹側へ口を押し付けた。
齧る。
その瞬間、何かがカニの身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。
あれだ。
タコは僅かに身体の中へ意識を向けたが、すぐに目の前のカニへ戻した。
もう一度齧り付く。
柔らかな腹側から食べ進み、硬い甲羅の内側にある肉を少しずつ食べていく。
魚ともエビとも違う。
硬い部分が多く、少し食べにくい。
けれど、美味い。
タコは甲羅の隙間を探しながら、夢中になって食べ続けた。
前は食べようとして、逆に足を切られた相手だ。
今は、そのカニを食べている。
美味い。
タコは残った肉を齧り、硬い甲羅の内側まで食べ進めていった。
やがて、食べられるところがほとんどなくなる。
タコはカニから身体を離した。
そこで、また一本の足が変わっていることに気付いた。
柔らかかった足の表面が厚くなり、硬い殻へ変わっている。
カニの甲羅に似た、硬く重そうな足だった。
タコは試しに動かしてみた。
重い。
他の足よりも動きが鈍い。
けれど、硬くなった部分を近くの岩へ押し付けても、痛みはなかった。
タコは少し力を込め、今度は岩へぶつけてみた。
やっぱり痛くない。
もう一度、少し強く当てる。
足の硬い部分は傷付かず、岩の表面から細かな欠片が落ちた。
硬い。
タコは何度か足を動かした。
今までの足とは違う重さがあるが、岩へ強く当てても平気だった。
気に入った。
タコはその足を身体へ引き寄せ、奥にあるものへ意識を向けた。
いる。
さっき入ってきた、カニのもの。
タコは舐めるように触れてみた。
味が広がる。
魚のものよりも重い。
エビのように弾ける刺激はなく、硬いものをゆっくり噛み砕くような感覚がある。
ずしりとした味が身体の奥へ広がり、長く残った。
美味い。
タコはもう一度触れた。
重い味がゆっくりと広がっていく。
やっぱり美味い。
タコはしばらくその味を楽しんだ。
それから、四本の変わった足を見た。
速く伸びる足。
強い足。
自分を速く動かす足。
硬い足。
増えた。
タコは硬くなった足をもう一度岩へ当てた。
痛くない。
以前、カニの鋏に挟まれた時のことを思い出す。
あの時は、足先を切られてしまった。
けれど、今度の足は硬い。
あの鋏でも、簡単には切れないかもしれない。
タコは硬い足を何度か動かした。
前よりも少しだけ、カニが怖くなくなっていた。
それから、岩場の奥へ目を向ける。
まだ食べたことのないものがいる。
もっと強いものもいるかもしれない。
どんな味がするんだろう。
タコは四本の変わった足を動かしながら、ゆっくりと岩場の奥へ進んでいった。
●カニ
特徴:
小型。硬い甲羅と鋏を持つ
獲得能力:
足の表面が硬い甲殻に覆われ、防御力が上昇
【現在の八腕】
一ノ足:細身小魚
二ノ足:太身小魚
三ノ足:エビ
四ノ足:カニ
五ノ足:
六ノ足:
七ノ足:
八ノ足:




