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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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3/19

3本目【タコ×エビ】


カニはいない。


タコは身体を岩肌と同じ色へ変えながら、ゆっくりと岩場を進んでいた。

岩の隙間を覗き、少し進んでは止まる。


探しているのは、前に逃げられたカニだ。


太くなった足を岩へ巻き付け、力を込める。

以前よりもずっと強く引っ張ることができた。


それに、速く伸びる足もある。


今度は、もっと強く押さえられる。


タコは再び身体を岩の影へ紛れ込ませ、ゆっくりと進んでいった。

少し進んだところで、すぐ近くの砂が僅かに動いた。


タコは動きを止めた。

じっと見つめると、砂によく似た色の小さな身体が見えてくる。


細い脚に、長い触角。


エビだった。


タコは身体を動かさず、岩肌と同じ色を保った。

エビはこちらに気付かず、砂をつつきながら少しずつ近づいてくる。


タコは細長く変化した足を僅かに持ち上げた。

そして、エビが近づいた瞬間、一気に伸ばす。


だが、足が触れる直前だった。


エビが身体を大きく曲げ、後ろへ跳ねた。

一瞬で距離が開く。


速い。


タコは逃げるエビへ向けて、さらに足を伸ばした。

細長い足が水中を走り、離れていくエビとの距離を縮める。


エビが再び身体を曲げた。

しかし、跳ねるよりも先に吸盤が触れた。


タコはすぐに足を巻き付け、エビを引き寄せた。

続けて二本目、三本目も伸ばし、小さな身体を包み込む。


エビが激しく暴れた。


硬い殻が足へ擦れ、細い脚が何度も当たる。

小さな鋏が足を挟み、痛みが走った。


タコの身体が僅かに縮む。


けれど、カニの鋏ほど強くはない。


タコは足を離さず、太くなった足まで絡ませた。

何本もの吸盤で押さえ込み、そのまま強く締め付ける。


エビは何度か身体を跳ねさせたが、すでに足に包まれている。

暴れる力が少しずつ弱くなり、やがて動かなくなった。


タコはそのまま押さえ続けた。

しばらく待っても動かないことを確かめ、硬い殻の隙間へ口を押し付ける。


齧る。


その瞬間、何かがエビの身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


まただ。


タコは僅かに身体の中へ意識を向けた。

新しく入ってきたものが、そこにいる。


けれど、もう驚かなかった。


タコは再びエビへ齧り付いた。

今度は何も起こらず、殻の内側にある肉が口へ入る。


美味い。


魚よりも身は少ない。

けれど、噛むと少し弾むような歯応えがある。


タコは殻の隙間を探しながら、食べられるところを少しずつ齧っていった。

やがて硬い殻ばかりが残り、身体を離す。


そこで、また一本の足が変わっていることに気付いた。


細身の魚とも、太身の魚とも違う一本。

見た目はそれほど変わらないが、少しだけ引き締まり、動かす前から妙に力が入る。


タコは試しに動かしてみた。


足が一瞬だけ強く水を押した。

その反動で、身体が横へ流れる。


タコは動きを止めた。


もう一度。


今度は近くの岩へ吸盤を張り付けた。

足を縮めてから、一気に伸ばす。


身体が勢いよく弾かれた。


一瞬で岩から離れ、さっきまでいた場所が遠ざかる。

タコは慌てて別の足を伸ばし、近くの岩へ吸盤を張り付けた。


身体が止まる。


速い。


タコは新しく変わった足を見た。


今度は少し離れた岩へ向けて身体を動かす。

近くの岩に足を固定し、縮めた足を一気に伸ばした。


再び身体が勢いよく飛び出した。

タコは別の足で岩へしがみ付き、身体を止める。


速く伸びる足とは違う。

あちらは足が遠くまで届く。


こっちは、身体が速く動く。


タコは何度か試した。

右へ、左へと身体を飛ばし、そのたびに他の足で岩へしがみ付く。


まだ上手く動けない。

勢いが強すぎて、岩へぶつかりそうにもなった。


少し怖い。

けれど、速い。


気に入った。


タコはもう一度だけ足を動かした。

身体が勢いよく飛び出し、近くの岩へ吸盤を張り付けて止まる。


カニの鋏を思い出す。

あれに挟まれても、今度はすぐに離れられるかもしれない。


タコは新しく変わった足を身体へ引き寄せ、その奥へ意識を向けた。


いる。


さっき入ってきたものが、ここに収まっている。


タコは舐めるように触れてみた。

味が広がる。


細身の魚とも、太身の魚とも違う。

軽い味が広がったかと思うと、途中で小さく弾けるような刺激が走る。


美味い。


タコはもう一度触れた。

小さな刺激が何度も弾け、その後に軽い味が残る。


やっぱり美味い。


タコはしばらくその味を楽しんだ。


やがて、三本の変わった足を見比べた。


速く伸びる足。

強い足。

自分を速く動かす足。


全部違う。

全部いい。


タコは三本の足をゆっくりと動かした。


その途中で、岩の隙間へ逃げていったカニを思い出す。


硬い甲羅。

痛い鋏。


あの鋏は嫌だ。


タコは太くなった足を岩へ巻き付けた。

強い力で身体が引き寄せられる。


続けて、エビを食べて変わった足を岩へ押し付ける。

身体が一気に飛び出した。


前より強い。

前より速い。


タコは岩へ吸盤を張り付け、身体を止めた。


今度こそ、カニを食べたい。


タコは身体の色を岩肌へ合わせた。

そして、新しく得た足を動かしながら、ゆっくりと岩場の奥へ進んでいった。


●エビ

特徴:

 岩や砂へ擬態する。危険を感じると一瞬で後方へ跳ねる

獲得能力:

 足の瞬発力が大幅に上昇。岩や海水を強く弾いた反動で、本体を瞬間的に高速移動させられる


【現在の八腕】

 一ノ足:細身小魚

 二ノ足:太身小魚

 三ノ足:エビ

 四ノ足:

 五ノ足:

 六ノ足:

 七ノ足:

 八ノ足:

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