3本目【タコ×エビ】
カニはいない。
タコは身体を岩肌と同じ色へ変えながら、ゆっくりと岩場を進んでいた。
岩の隙間を覗き、少し進んでは止まる。
探しているのは、前に逃げられたカニだ。
太くなった足を岩へ巻き付け、力を込める。
以前よりもずっと強く引っ張ることができた。
それに、速く伸びる足もある。
今度は、もっと強く押さえられる。
タコは再び身体を岩の影へ紛れ込ませ、ゆっくりと進んでいった。
少し進んだところで、すぐ近くの砂が僅かに動いた。
タコは動きを止めた。
じっと見つめると、砂によく似た色の小さな身体が見えてくる。
細い脚に、長い触角。
エビだった。
タコは身体を動かさず、岩肌と同じ色を保った。
エビはこちらに気付かず、砂をつつきながら少しずつ近づいてくる。
タコは細長く変化した足を僅かに持ち上げた。
そして、エビが近づいた瞬間、一気に伸ばす。
だが、足が触れる直前だった。
エビが身体を大きく曲げ、後ろへ跳ねた。
一瞬で距離が開く。
速い。
タコは逃げるエビへ向けて、さらに足を伸ばした。
細長い足が水中を走り、離れていくエビとの距離を縮める。
エビが再び身体を曲げた。
しかし、跳ねるよりも先に吸盤が触れた。
タコはすぐに足を巻き付け、エビを引き寄せた。
続けて二本目、三本目も伸ばし、小さな身体を包み込む。
エビが激しく暴れた。
硬い殻が足へ擦れ、細い脚が何度も当たる。
小さな鋏が足を挟み、痛みが走った。
タコの身体が僅かに縮む。
けれど、カニの鋏ほど強くはない。
タコは足を離さず、太くなった足まで絡ませた。
何本もの吸盤で押さえ込み、そのまま強く締め付ける。
エビは何度か身体を跳ねさせたが、すでに足に包まれている。
暴れる力が少しずつ弱くなり、やがて動かなくなった。
タコはそのまま押さえ続けた。
しばらく待っても動かないことを確かめ、硬い殻の隙間へ口を押し付ける。
齧る。
その瞬間、何かがエビの身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。
まただ。
タコは僅かに身体の中へ意識を向けた。
新しく入ってきたものが、そこにいる。
けれど、もう驚かなかった。
タコは再びエビへ齧り付いた。
今度は何も起こらず、殻の内側にある肉が口へ入る。
美味い。
魚よりも身は少ない。
けれど、噛むと少し弾むような歯応えがある。
タコは殻の隙間を探しながら、食べられるところを少しずつ齧っていった。
やがて硬い殻ばかりが残り、身体を離す。
そこで、また一本の足が変わっていることに気付いた。
細身の魚とも、太身の魚とも違う一本。
見た目はそれほど変わらないが、少しだけ引き締まり、動かす前から妙に力が入る。
タコは試しに動かしてみた。
足が一瞬だけ強く水を押した。
その反動で、身体が横へ流れる。
タコは動きを止めた。
もう一度。
今度は近くの岩へ吸盤を張り付けた。
足を縮めてから、一気に伸ばす。
身体が勢いよく弾かれた。
一瞬で岩から離れ、さっきまでいた場所が遠ざかる。
タコは慌てて別の足を伸ばし、近くの岩へ吸盤を張り付けた。
身体が止まる。
速い。
タコは新しく変わった足を見た。
今度は少し離れた岩へ向けて身体を動かす。
近くの岩に足を固定し、縮めた足を一気に伸ばした。
再び身体が勢いよく飛び出した。
タコは別の足で岩へしがみ付き、身体を止める。
速く伸びる足とは違う。
あちらは足が遠くまで届く。
こっちは、身体が速く動く。
タコは何度か試した。
右へ、左へと身体を飛ばし、そのたびに他の足で岩へしがみ付く。
まだ上手く動けない。
勢いが強すぎて、岩へぶつかりそうにもなった。
少し怖い。
けれど、速い。
気に入った。
タコはもう一度だけ足を動かした。
身体が勢いよく飛び出し、近くの岩へ吸盤を張り付けて止まる。
カニの鋏を思い出す。
あれに挟まれても、今度はすぐに離れられるかもしれない。
タコは新しく変わった足を身体へ引き寄せ、その奥へ意識を向けた。
いる。
さっき入ってきたものが、ここに収まっている。
タコは舐めるように触れてみた。
味が広がる。
細身の魚とも、太身の魚とも違う。
軽い味が広がったかと思うと、途中で小さく弾けるような刺激が走る。
美味い。
タコはもう一度触れた。
小さな刺激が何度も弾け、その後に軽い味が残る。
やっぱり美味い。
タコはしばらくその味を楽しんだ。
やがて、三本の変わった足を見比べた。
速く伸びる足。
強い足。
自分を速く動かす足。
全部違う。
全部いい。
タコは三本の足をゆっくりと動かした。
その途中で、岩の隙間へ逃げていったカニを思い出す。
硬い甲羅。
痛い鋏。
あの鋏は嫌だ。
タコは太くなった足を岩へ巻き付けた。
強い力で身体が引き寄せられる。
続けて、エビを食べて変わった足を岩へ押し付ける。
身体が一気に飛び出した。
前より強い。
前より速い。
タコは岩へ吸盤を張り付け、身体を止めた。
今度こそ、カニを食べたい。
タコは身体の色を岩肌へ合わせた。
そして、新しく得た足を動かしながら、ゆっくりと岩場の奥へ進んでいった。
●エビ
特徴:
岩や砂へ擬態する。危険を感じると一瞬で後方へ跳ねる
獲得能力:
足の瞬発力が大幅に上昇。岩や海水を強く弾いた反動で、本体を瞬間的に高速移動させられる
【現在の八腕】
一ノ足:細身小魚
二ノ足:太身小魚
三ノ足:エビ
四ノ足:
五ノ足:
六ノ足:
七ノ足:
八ノ足:




