2本目【タコ×太身小魚】
カニはまだこちらに気付いていない。
岩についた何かを食べながら、ゆっくりと横へ進んでいる。
動きは遅い。
タコは岩肌と同じ色のまま、じっと待った。
カニが近づいてくると、速くなった足を僅かに持ち上げる。
足が届くところまで来た瞬間、一気に伸ばした。
細長くなった足が水を切り、カニの甲羅へ張り付く。
カニが驚いたように脚を動かした。
タコはすぐに二本目、三本目の足も伸ばし、甲羅へ吸盤を張り付ける。
そのまま身体を引き寄せ、さらに足を絡ませようとした。
その時だった。
──バチンッ。
鋭い痛みが走り、タコの身体が大きく縮んだ。
痛い。
カニの鋏が一本の足を挟んでいる。
タコは慌てて足を引いたが、鋏はしっかりと食い込み、離れなかった。
もう一度引く。
それでも離れない。
タコはさらに強く足を引っ張った。
──ブチッ。
足先が切れた。
タコは驚いて、絡ませていた他の足まで一斉に離した。
自由になったカニは岩の上へ落ちると、素早く横へ走り、近くの隙間へ入り込んでいった。
タコは追わなかった。
切れた足を身体へ引き寄せる。
先がない。
痛い。
カニが消えた岩の隙間を見つめた後、急いで岩陰へ戻った。
身体を奥へ押し込み、傷付いた足を他の足でそっと触る。
痛い。
タコは身体を小さく縮めたまま、じっと動かなかった。
さっきまでは、食べられそうだと思っていた。
動きが遅い。
捕まえられる。
けれど、違った。
捕まえた。
でも、痛かった。
あの鋏は嫌だ。
タコは傷付いた足をさらに身体へ寄せた。
岩陰の奥に隠れ、そのまましばらく動かなかった。
時間が経つと、切れた場所の痛みが少しずつ弱くなっていく。
傷口もゆっくりと塞がり始めていた。
元に戻るまでには、まだ時間がかかりそうだ。
腹はまだ減っていない。
けれど、足の奥に残っているものが気になった。
タコはそっと意識を向けた。
舐めるように触れてみる。
美味い。
細く伸びるような不思議な味が、身体の奥へ広がっていく。
タコはもう一度触れた。
やっぱり美味い。
さっきの痛みも、少しだけ気にならなくなった。
タコはしばらくその味を楽しんだ。
もっと欲しい。
しかし、カニの鋏を思い出すと、切れた足を身体へ引き寄せた。
あの鋏は嫌だ。
しばらくして、タコは岩陰からゆっくりと身体を出した。
周囲を見渡す。
少し離れた場所を、一匹の魚が泳いでいた。
先ほど食べた魚とは違い、身体が太く、動きも遅い。
タコはしばらくその魚を見つめた。
食べられそう。
身体を岩肌と同じ色へ変え、そのままじっと待つ。
魚はこちらに気付かず、ゆっくりと近づいてきた。
タコは細長く変化した足を僅かに持ち上げた。
魚が足の届くところまで来た瞬間、一気に伸ばす。
細長い足が水を切り、魚の身体へ絡み付いた。
魚は驚いて逃げようとしたが、すぐに二本目、三本目の足も伸びてきた。
吸盤が身体へ張り付き、何本もの足が巻き付いていく。
魚が激しく暴れた。
強い。
先ほど食べた細身の魚よりも、ずっと力がある。
タコの身体が何度も引っ張られた。
それでも足を離さず、身体を押し付けるようにして締め付ける。
魚が大きく身体を振るたびに、タコも一緒に揺れた。
けれど、鋏はない。
タコはさらに足を絡ませ、吸盤を強く張り付けた。
魚の暴れる力が少しずつ弱くなっていく。
最後にもう一度強く締め付けると、魚の身体から力が抜けた。
タコはそのまま押さえ続けた。
しばらく待っても魚が動かないことを確かめ、柔らかな部分へ口を押し付ける。
齧る。
その瞬間、何かが魚の身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。
まただ。
先ほど細身の魚を食べた時と同じだった。
タコは少しだけ身体の中へ意識を向けた。
新しいものが入っている。
痛みはなく、嫌な感じもしない。
けれど、目の前にはまだ魚の肉が残っていた。
タコはもう一度齧り付いた。
今度は何も起こらず、柔らかな肉が口へ入る。
美味い。
細身の魚よりも肉が多く、少し硬い。
けれど、その分たくさん食べられる。
タコは何度も齧り付き、夢中になって食べ続けた。
やがて、食べられるところがほとんどなくなった。
タコは魚から身体を離した。
そこで、また一本の足が変わっていることに気付いた。
速くなった足とは別の一本。
さっきまでより太くなり、力強く見える。
タコはその足を動かしてみた。
重い。
速くはないが、動かすだけで強い力が入る。
タコは近くにあった小石へ足を巻き付けた。
そのまま引っ張ると、石が簡単に動いた。
今度は、もう少し大きな石へ巻き付ける。
力を込めると、それもゆっくりと動いた。
強い。
タコはさらに何度か試した。
今までの足よりも、ずっと強く引っ張ることができる。
気に入った。
続いて、太くなった足の奥へ意識を向けた。
新しく入ってきたものが、そこに収まっている。
タコはそっと触れた。
味が広がる。
細身の魚とは違う。
軽く伸びるような味ではなく、もっと濃く、身体の奥へずしりと残る。
美味い。
タコはもう一度触れた。
力強い味がゆっくりと広がり、その後も長く残っている。
やっぱり美味い。
タコは何度も触れ、その味をじっくりと楽しんだ。
速くなった足の味とは違うが、どちらも気に入った。
やがて、タコは二本の足を見比べた。
速い足。
強い足。
どちらもいい。
タコは二本の足を何度か動かした。
細長い足は素早く伸び、太い足は岩へ巻き付けると強い力で身体を引き寄せた。
その時、岩の隙間へ逃げていったカニを思い出した。
硬い甲羅。
痛い鋏。
タコは切れた足を身体へ寄せた。
傷口には、まだ僅かな痛みが残っている。
怖い。
けれど、太くなった足は前よりも強く、しっかりと岩へ巻き付いた。
今度は、もっと強く押さえられる。
タコはカニが消えた岩の方へ目を向けた。
もう姿は見えない。
あの鋏は嫌だ。
でも、食べたい。
タコは太くなった足をもう一度動かした。
今度は逃がしたくなかった。
●太身小魚
特徴:
細身小魚より遅いが、身体が太く筋力が強い
獲得能力:
足が太くなり、筋力・締め付け・引っ張る力が上昇
【現在の八腕】
一ノ足:細身小魚
二ノ足:太身小魚
三ノ足:
四ノ足:
五ノ足:
六ノ足:
七ノ足:
八ノ足:




