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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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2/16

2本目【タコ×太身小魚】


カニはまだこちらに気付いていない。


岩についた何かを食べながら、ゆっくりと横へ進んでいる。

動きは遅い。


タコは岩肌と同じ色のまま、じっと待った。

カニが近づいてくると、速くなった足を僅かに持ち上げる。


足が届くところまで来た瞬間、一気に伸ばした。

細長くなった足が水を切り、カニの甲羅へ張り付く。


カニが驚いたように脚を動かした。

タコはすぐに二本目、三本目の足も伸ばし、甲羅へ吸盤を張り付ける。

そのまま身体を引き寄せ、さらに足を絡ませようとした。


その時だった。


──バチンッ。


鋭い痛みが走り、タコの身体が大きく縮んだ。


痛い。


カニの鋏が一本の足を挟んでいる。

タコは慌てて足を引いたが、鋏はしっかりと食い込み、離れなかった。


もう一度引く。

それでも離れない。


タコはさらに強く足を引っ張った。


──ブチッ。


足先が切れた。


タコは驚いて、絡ませていた他の足まで一斉に離した。

自由になったカニは岩の上へ落ちると、素早く横へ走り、近くの隙間へ入り込んでいった。


タコは追わなかった。

切れた足を身体へ引き寄せる。


先がない。

痛い。


カニが消えた岩の隙間を見つめた後、急いで岩陰へ戻った。

身体を奥へ押し込み、傷付いた足を他の足でそっと触る。


痛い。


タコは身体を小さく縮めたまま、じっと動かなかった。


さっきまでは、食べられそうだと思っていた。


動きが遅い。

捕まえられる。


けれど、違った。


捕まえた。

でも、痛かった。


あの鋏は嫌だ。


タコは傷付いた足をさらに身体へ寄せた。

岩陰の奥に隠れ、そのまましばらく動かなかった。


時間が経つと、切れた場所の痛みが少しずつ弱くなっていく。

傷口もゆっくりと塞がり始めていた。

元に戻るまでには、まだ時間がかかりそうだ。


腹はまだ減っていない。

けれど、足の奥に残っているものが気になった。


タコはそっと意識を向けた。

舐めるように触れてみる。


美味い。


細く伸びるような不思議な味が、身体の奥へ広がっていく。

タコはもう一度触れた。


やっぱり美味い。


さっきの痛みも、少しだけ気にならなくなった。

タコはしばらくその味を楽しんだ。


もっと欲しい。


しかし、カニの鋏を思い出すと、切れた足を身体へ引き寄せた。


あの鋏は嫌だ。


しばらくして、タコは岩陰からゆっくりと身体を出した。

周囲を見渡す。


少し離れた場所を、一匹の魚が泳いでいた。

先ほど食べた魚とは違い、身体が太く、動きも遅い。


タコはしばらくその魚を見つめた。


食べられそう。


身体を岩肌と同じ色へ変え、そのままじっと待つ。

魚はこちらに気付かず、ゆっくりと近づいてきた。


タコは細長く変化した足を僅かに持ち上げた。


魚が足の届くところまで来た瞬間、一気に伸ばす。

細長い足が水を切り、魚の身体へ絡み付いた。


魚は驚いて逃げようとしたが、すぐに二本目、三本目の足も伸びてきた。

吸盤が身体へ張り付き、何本もの足が巻き付いていく。


魚が激しく暴れた。


強い。


先ほど食べた細身の魚よりも、ずっと力がある。

タコの身体が何度も引っ張られた。


それでも足を離さず、身体を押し付けるようにして締め付ける。

魚が大きく身体を振るたびに、タコも一緒に揺れた。


けれど、鋏はない。


タコはさらに足を絡ませ、吸盤を強く張り付けた。

魚の暴れる力が少しずつ弱くなっていく。


最後にもう一度強く締め付けると、魚の身体から力が抜けた。


タコはそのまま押さえ続けた。

しばらく待っても魚が動かないことを確かめ、柔らかな部分へ口を押し付ける。


齧る。


その瞬間、何かが魚の身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


まただ。


先ほど細身の魚を食べた時と同じだった。

タコは少しだけ身体の中へ意識を向けた。


新しいものが入っている。

痛みはなく、嫌な感じもしない。


けれど、目の前にはまだ魚の肉が残っていた。


タコはもう一度齧り付いた。

今度は何も起こらず、柔らかな肉が口へ入る。


美味い。


細身の魚よりも肉が多く、少し硬い。

けれど、その分たくさん食べられる。


タコは何度も齧り付き、夢中になって食べ続けた。


やがて、食べられるところがほとんどなくなった。

タコは魚から身体を離した。


そこで、また一本の足が変わっていることに気付いた。


速くなった足とは別の一本。

さっきまでより太くなり、力強く見える。


タコはその足を動かしてみた。


重い。


速くはないが、動かすだけで強い力が入る。


タコは近くにあった小石へ足を巻き付けた。

そのまま引っ張ると、石が簡単に動いた。


今度は、もう少し大きな石へ巻き付ける。

力を込めると、それもゆっくりと動いた。


強い。


タコはさらに何度か試した。

今までの足よりも、ずっと強く引っ張ることができる。


気に入った。


続いて、太くなった足の奥へ意識を向けた。

新しく入ってきたものが、そこに収まっている。


タコはそっと触れた。

味が広がる。


細身の魚とは違う。

軽く伸びるような味ではなく、もっと濃く、身体の奥へずしりと残る。


美味い。


タコはもう一度触れた。

力強い味がゆっくりと広がり、その後も長く残っている。


やっぱり美味い。


タコは何度も触れ、その味をじっくりと楽しんだ。

速くなった足の味とは違うが、どちらも気に入った。


やがて、タコは二本の足を見比べた。


速い足。

強い足。


どちらもいい。


タコは二本の足を何度か動かした。

細長い足は素早く伸び、太い足は岩へ巻き付けると強い力で身体を引き寄せた。


その時、岩の隙間へ逃げていったカニを思い出した。


硬い甲羅。

痛い鋏。


タコは切れた足を身体へ寄せた。

傷口には、まだ僅かな痛みが残っている。


怖い。


けれど、太くなった足は前よりも強く、しっかりと岩へ巻き付いた。


今度は、もっと強く押さえられる。


タコはカニが消えた岩の方へ目を向けた。

もう姿は見えない。


あの鋏は嫌だ。

でも、食べたい。


タコは太くなった足をもう一度動かした。

今度は逃がしたくなかった。


●太身小魚

特徴:

 細身小魚より遅いが、身体が太く筋力が強い

獲得能力:

 足が太くなり、筋力・締め付け・引っ張る力が上昇


【現在の八腕】

 一ノ足:細身小魚

 二ノ足:太身小魚

 三ノ足:

 四ノ足:

 五ノ足:

 六ノ足:

 七ノ足:

 八ノ足:

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