1本目【タコ×細身小魚】
暗く、狭い。
けれど、小さなタコにとっては落ち着く場所だった。
岩と岩の隙間へ柔らかな身体を押し込み、周囲の岩肌に合わせて体色を変える。
目の前を何匹かの小魚が泳いでいったが、追いかけようとはしなかった。
あれは速い。
捕まえられない。
腹は減っているが、岩陰からむやみに出るつもりはなかった。
外には自分より大きな生き物がいくらでもいる。
少し前にも、岩場の向こうを大きな魚が通っていった。
見つかれば、食べられるのは自分だ。
タコは岩に紛れ、食べられそうなものが近づいてくるのをじっと待った。
腹が減っても、焦って外へ出ない。
それが、この岩場で生き延びるために覚えたことだった。
しばらくすると、一匹の細長い魚が岩陰へ入り込んできた。
小さい。
タコは身体を動かさず、体色も岩と同じまま保った。
魚はこちらに気付かず、岩についた小さな生き物を啄みながら少しずつ近づいてくる。
タコはじっと待った。
魚が足の届くところまで近づいた瞬間、一本の足を伸ばす。
魚が驚いて身を翻した。
だが、逃げ切る前に二本目の足が身体へ絡み付き、続いて三本目、四本目が伸びた。
吸盤が鱗へ張り付き、何本もの足で獲物を包み込む。
魚が激しく暴れた。
引っ張られた身体が岩へぶつかる。
鋭い痛みに身体が縮んだが、足は離さなかった。
タコは身体を押し付けるようにして、さらに締め付けた。
魚の暴れる力が少しずつ弱くなり、やがて動かなくなる。
それでもタコはすぐには食べなかった。
足で押さえたまましばらく待ち、魚が動かないことを確かめてから身体を寄せた。
柔らかな部分へ口を押し付け、齧る。
その瞬間だった。
何かが魚の身体から抜け出し、そのまま口を通ってタコの中へ流れ込んできた。
タコの身体がびくりと震える。
ッ!
驚いて魚から口を離した。
身体の中を探るように、じっと動きを止める。
何かがいる。
さっきまではなかったものが、自分の中に入っている。
痛くはない。
熱くも、冷たくもない。
けれど、知らないものだ。
タコはしばらく固まっていた。
その時、ふと頭の奥が少しだけ澄んだ。
何かが大きく変わったわけではない。
ただ、さっきまでより水の流れや岩の形が、少しだけはっきり感じられる。
何が起きたのかは分からない。
身体の中には、まだ違和感が残っている。
けれど、嫌な感じはしなかった。
それよりも、腹が減っていた。
タコは目の前の魚へ身体を寄せ、もう一度齧り付いた。
今度は何も起こらない。
柔らかな肉が口へ入る。
美味い。
それだけで、さっきまでの驚きは少しずつ薄れていった。
タコはそのまま夢中で食べ続けた。
肉を齧るたびに腹が満たされ、先ほどの奇妙な出来事も次第に気にならなくなっていく。
やがて、硬い部分だけを残して食べ終えた。
タコは魚から身体を離した。
そこで、一本の足が変わっていることに気付いた。
他の七本よりも僅かに細く、しなやかになっている。
さっきまでは、こんな足ではなかった。
タコは試しに動かしてみた。
足が鋭く水を切った。
速い。
もう一度、少し離れた岩へ向けて伸ばす。
今までよりも遠くまで、一気に届いた。
タコは何度か足を動かした。
伸ばすたびに、他の足よりも素早く遠くへ届く。
気に入った。
何が起きたのかは分からない。
けれど、この足なら前より獲物を捕まえやすい。
それで十分だった。
しばらく動かした後、タコはその足の奥へ意識を向けた。
いる。
さっき身体の中へ入ってきたものが、今はこの足の中に収まっている。
気になる。
タコはそっと触れてみた。
舐めるように意識を向ける。
その瞬間、身体の奥へ奇妙な感覚が広がった。
魚の肉とは違う。
腹も膨れない。
それでも、美味い。
タコはもう一度触れた。
細く伸びるような不思議な味が、身体の奥へ広がっていく。
やっぱり美味い。
タコはさらに何度か触れ、その味を楽しんだ。
触れるたびに同じ味が広がり、少しも減る様子がない。
もっと欲しい。
タコは岩陰から少しだけ身体を出した。
すぐ近くを、一匹のカニが横向きに歩いている。
硬そうな甲羅に、二本の鋏。
動きはそれほど速くない。
タコは新しく変わった足を動かした。
それから、カニへ目を向ける。
食べたい。
あれは、どんな味だろう。
タコは身体を岩肌と同じ色へ変え、じっと待った。
カニはこちらに気付かず、岩についた何かを食べながらゆっくりと近づいてくる。
タコは速くなった足を、僅かに持ち上げた。
●細身小魚
特徴:
細身で素早い。岩の隙間を泳ぐ
獲得能力:
足が細長く、しなやかになる。伸びる距離と伸縮速度が上昇
【現在の八腕】
一ノ足:細身小魚
二ノ足:
三ノ足:
四ノ足:
五ノ足:
六ノ足:
七ノ足:
八ノ足:




