15本目【タコ×岩砲魚】
タコは岩礁の奥を泳いでいた。
周囲には大きな岩が重なり、深い穴や細い隙間が入り組んでいる。
しばらく進むと、前方に数匹の魚が見えた。
岩に似た体色の魚たちが、岩の間を行き来している。
岩逃魚だった。
タコは近くの岩へ張り付き、身体を岩と同じ色や模様へ変えた。
そのまま動きを止め、魚たちが近づいてくるのを待つ。
やがて、一匹の岩逃魚が他の魚から離れた。
タコの隠れている岩へ、少しずつ近づいてくる。
もう少し。
タコは岩へ身体を張り付けたまま、じっと待っていた。
その時だった。
岩逃魚が突然、身体を翻した。
直後、細く尖った石が飛んできて、その胴へ突き刺さる。
岩逃魚が大きく跳ね、他の岩逃魚たちも一斉に逃げ出した。
石を受けた岩逃魚は泳ぎが乱れ、近くの岩へ沈んでいく。
タコは動きを止めた。
何だ?
少し離れた岩陰から、一匹の魚が現れた。
丸みのある胴に、大きな口。
灰色の硬そうな鱗に覆われ、岩に似た色をしている。
見たことのない魚。
岩砲魚だった。
岩砲魚は傷付いた岩逃魚へ近づき、大きな口で捕らえた。
岩逃魚は僅かに暴れたが、すぐに動かなくなり、そのまま食べられていく。
タコはじっと見つめた。
食べられた。
さっきの尖った石。
あいつが飛ばしたのだろうか。
タコは岩砲魚の丸い胴体へ目を向けた。
あいつも、美味そう。
岩砲魚はまだ岩逃魚を食べている。
タコは岩に擬態したまま、ゆっくりと身体を低くした。
岩牙ウツボの足を伸ばし、鋭い牙で噛み付こうとする。
しかし、岩砲魚は素早く身体を翻し、大きな口をタコへ向けた。
次の瞬間、細く尖った石が口から飛び出した。
鋭い石がタコの胴へ突き刺さり、強い痛みが走る。
タコは思わず身体を縮め、岩へ張り付いた。
痛い。
岩砲魚はその隙に身体を翻し、岩の間へ逃げていく。
タコは慌てて追いかけたが、重い岩甲ガニの足が邪魔をして、以前ほど速く泳げない。
岩砲魚は細い岩の隙間を抜け、そのまま見えなくなった。
タコはしばらく周囲を探したが、岩砲魚は見つからなかった。
仕方なく近くの岩へ張り付き、胴に突き刺さった石を足で引き抜く。
傷口から僅かに血が滲んだ。
痛い。
タコは傷を確かめながら、先ほどの岩砲魚を思い出した。
大きな口から飛び出してきた、細く尖った石。
タコは岩甲ガニの足を持ち上げ、続けて岩貝の足も動かした。
どちらも硬い。
タコは二本の足を身体の前へ伸ばしてみた。
それから、再び岩の間を進み始めた。
しばらくすると、先ほどと同じ姿の岩砲魚を見つけた。
岩の近くを泳ぎながら、大きな口で底に落ちている小石を吸い込んでいる。
タコはすぐには近づかず、岩陰へ身体を隠した。
周囲の岩と同じ色や模様へ変わり、じっと待つ。
やがて、岩砲魚が近づいてきた。
タコは岩甲ガニと岩貝の足を身体の前へ伸ばした。
さらにエビの足を岩へ押し付ける。
岩砲魚が近くを通り過ぎた瞬間、縮めていた足を一気に伸ばした。
タコの身体が勢いよく飛び出す。
岩砲魚は驚いて身体を翻し、大きな口をこちらへ向けた。
直後、尖った石が飛び出した。
しかし、今度は岩甲ガニの分厚い甲殻へぶつかった。
鋭い先端が砕け、細かな欠片が周囲へ散らばる。
続けてもう一つの石が飛んできたが、こちらも岩貝の硬い部分へ当たり、弾かれた。
防げた。
その間にも、タコは岩砲魚へ迫っていた。
岩砲魚が慌てて逃げようとする。
しかし、その身体へ岩牙ウツボの足が伸び、鋭い牙が胴へ食い込んだ。
岩砲魚が大きく跳ねる。
タコは牙足を引き寄せ、岩鋏エビの足で胴を挟み込んだ。
岩砲魚は激しく身体を振り、大きな口を開く。
けれど、タコは別の足を絡ませ、その口を押さえ込んだ。
逃がさない。
岩牙ウツボの足がもう一度噛み付き、鋭い牙で肉を裂く。
岩砲魚は必死に暴れたが、何本もの足に押さえ込まれ、次第に動きが弱くなっていった。
タコは身体を近づけ、岩砲魚へ深く齧り付いた。
その一口で岩砲魚の身体から力が抜け、何かがタコの中へ流れ込んでくる。
来た。
タコは岩砲魚を抱えたまま、身体の中へ意識を向けた。
やっぱり。
新しく入ってきたものが、どの足にも収まらず漂っている。
あのむずむずとした違和感も広がっていた。
タコは八本の足を見た。
どれも、もう変わっている。
タコは足の奥にあるものへ順番に触れ、味を確かめていった。
岩鋏エビのものには、ぎゅっと締め付けるような味がある。
岩甲ガニのものは、どんと重い刺激が広がってくる。
ウニのものには、まろやかな濃さと、ちくちくとした刺激があった。
岩牙ウツボの鋭い味も、岩貝の硬く重い味も気に入っている。
どれも美味い。
タコはしばらく迷い、太身魚の足へ意識を向けた。
触れると、力強い味がじんわりと広がってくる。
濃く、身体の奥へゆっくり残る味だった。
美味い。
タコは太身魚の足を動かした。
太く、獲物へ巻き付いて強く締め付けることができる足。
これまで何度も獲物を捕まえるのに役立ってきた。
けれど、岩鋏エビの足でも強く挟める。
岩貝の足も、強く張り付く。
タコはもう一度、太身魚の味へ触れた。
何度も味わってきた、好きな味だ。
けれど、身体の中にはまだ知らないものが漂っている。
どんな味だろう。
タコはしばらく迷った後、太身魚の足を見た。
これにする。
もう一度だけ、慣れ親しんだ味へ触れる。
美味い。
タコは新しいものを、その足へ向けた。
入れ替わるように古いものが薄くなり、少しずつ味が消えていく。
惜しい。
けれど、今度も引き戻さなかった。
やがて古い味が消え、新しいものが足の奥へ収まった。
身体の中にあった違和感もなくなる。
直後、足が変わり始めた。
太かった足が少し細くなり、表面が灰色の硬い鱗に覆われていく。
やがて先端に小さな穴が開き、その周囲が硬く変化した。
タコは新しく変わった足を持ち上げた。
足元に転がる小石へ目を向けると、何となくあれを取り込みたい気がした。
足先を近づけると、穴が開いて小石を吸い込んだ。
足の中で硬いものが動き、細く尖っていく感覚が伝わってくる。
タコは少し離れた岩へ足先を向けた。
そのまま力を込めると、穴から尖った石が勢いよく飛び出した。
石は岩へぶつかり、表面に小さな傷を付けた。
飛んだ。
さっきの岩砲魚と同じだ。
タコは今度は小石を二つ吸い込んだ。
少し離れた岩へ足先を向け、力を込める。
尖った石が一つ飛び出し、岩の表面へぶつかった。
続けてもう一つ放つが、こちらは岩を外れて奥へ飛んでいった。
面白い。
続いて、足の奥へ意識を向けた。
新しく入ってきたものが、そこに収まっている。
どんな味だろう。
タコは舐めるように触れた。
その瞬間、細かな刺激が次々と弾けた。
美味い。
小さな硬いものが、ぱちぱちと弾けるような味。
一つ一つの刺激はそれほど強くないが、次から次へと広がってくる。
タコはもう一度触れた。
細かな刺激が弾け、その後に硬く尖った味が残った。
不思議な味だった。
タコはウニの足にも意識を向けた。
まろやかな濃さの中に、ちくちくとした刺激が広がってくる。
こっちも美味い。
けれど、新しいものとは違う。
ウニの味は細かな棘が刺さるように続くが、新しいものは次々と弾けていく。
タコはもう一度、新しい味へ触れた。
ぱちぱちとした刺激が弾け、その後に尖った味が残る。
美味い。
もっと。
タコは何度も触れ、その味をじっくりと楽しんだ。
やがて満足すると、倒した岩砲魚へ目を向けた。
まだ肉がある。
タコは岩砲魚へ齧り付いた。
硬い鱗の下には、柔らかな肉が詰まっている。
噛み締めると、じんわりと旨味が広がった。
美味い。
タコは足で岩砲魚を押さえ、硬い鱗の隙間から次々と肉を食べていった。
やがて腹が膨れ、食べられるところも少なくなる。
タコは岩砲魚の残骸から離れ、近くの岩へ張り付いた。
お腹いっぱい。
タコは新しい足を動かした。
先端の小さな穴が開き、また閉じる。
離れたところまで、石が飛ぶ。
タコは足先を持ち上げ、しばらく眺めた。
気に入った。
それから、周囲を見渡した。
大きな岩が重なり、その奥には暗い隙間が続いている。
さらに深い場所にも、まだ見たことのない岩場が広がっていた。
タコは身体を岩と同じ色へ変え、ゆっくりと泳ぎ始めた。
もっと食べたい。
この奥には、まだ知らないものがいるかもしれない。
どんな味だろう。
タコは新しい足を揺らしながら、岩礁のさらに深い場所へと進んでいった。
●岩砲魚
特徴:
岩礁海深部に生息する遠距離攻撃を得意とする魚。
大きな口から小石を吸い込み、体内で鋭く尖った岩へ変化させる。
尖った岩を高速で撃ち出し、離れた場所にいる獲物を傷つける。
獲物に接近されると距離を取りながら攻撃する。
獲得能力:
足先に小さな穴が開き、そこから小石を吸い込める。
吸い込んだ小石を足の内部で鋭く尖らせ、高速で撃ち出すことができる。
複数の小石を取り込み、連続して発射することも可能。
弾となる小石は周囲から補給する必要がある。
【現在の八腕】
本体:岩ダコ
一ノ足:岩逃魚
二ノ足:岩鋏エビ
三ノ足:エビ
四ノ足:岩甲ガニ
五ノ足:ウニ
六ノ足:太身魚 → 岩砲魚
七ノ足:岩牙ウツボ
八ノ足:岩貝




