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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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15/19

15本目【タコ×岩砲魚】


タコは岩礁の奥を泳いでいた。

周囲には大きな岩が重なり、深い穴や細い隙間が入り組んでいる。


しばらく進むと、前方に数匹の魚が見えた。

岩に似た体色の魚たちが、岩の間を行き来している。


岩逃魚だった。


タコは近くの岩へ張り付き、身体を岩と同じ色や模様へ変えた。

そのまま動きを止め、魚たちが近づいてくるのを待つ。


やがて、一匹の岩逃魚が他の魚から離れた。

タコの隠れている岩へ、少しずつ近づいてくる。


もう少し。

タコは岩へ身体を張り付けたまま、じっと待っていた。


その時だった。


岩逃魚が突然、身体を翻した。

直後、細く尖った石が飛んできて、その胴へ突き刺さる。


岩逃魚が大きく跳ね、他の岩逃魚たちも一斉に逃げ出した。

石を受けた岩逃魚は泳ぎが乱れ、近くの岩へ沈んでいく。


タコは動きを止めた。


何だ?


少し離れた岩陰から、一匹の魚が現れた。

丸みのある胴に、大きな口。

灰色の硬そうな鱗に覆われ、岩に似た色をしている。


見たことのない魚。

岩砲魚だった。


岩砲魚は傷付いた岩逃魚へ近づき、大きな口で捕らえた。

岩逃魚は僅かに暴れたが、すぐに動かなくなり、そのまま食べられていく。


タコはじっと見つめた。


食べられた。


さっきの尖った石。

あいつが飛ばしたのだろうか。


タコは岩砲魚の丸い胴体へ目を向けた。


あいつも、美味そう。


岩砲魚はまだ岩逃魚を食べている。

タコは岩に擬態したまま、ゆっくりと身体を低くした。


岩牙ウツボの足を伸ばし、鋭い牙で噛み付こうとする。

しかし、岩砲魚は素早く身体を翻し、大きな口をタコへ向けた。


次の瞬間、細く尖った石が口から飛び出した。


鋭い石がタコの胴へ突き刺さり、強い痛みが走る。

タコは思わず身体を縮め、岩へ張り付いた。


痛い。


岩砲魚はその隙に身体を翻し、岩の間へ逃げていく。

タコは慌てて追いかけたが、重い岩甲ガニの足が邪魔をして、以前ほど速く泳げない。

岩砲魚は細い岩の隙間を抜け、そのまま見えなくなった。


タコはしばらく周囲を探したが、岩砲魚は見つからなかった。

仕方なく近くの岩へ張り付き、胴に突き刺さった石を足で引き抜く。

傷口から僅かに血が滲んだ。


痛い。


タコは傷を確かめながら、先ほどの岩砲魚を思い出した。

大きな口から飛び出してきた、細く尖った石。


タコは岩甲ガニの足を持ち上げ、続けて岩貝の足も動かした。


どちらも硬い。


タコは二本の足を身体の前へ伸ばしてみた。

それから、再び岩の間を進み始めた。


しばらくすると、先ほどと同じ姿の岩砲魚を見つけた。

岩の近くを泳ぎながら、大きな口で底に落ちている小石を吸い込んでいる。


タコはすぐには近づかず、岩陰へ身体を隠した。

周囲の岩と同じ色や模様へ変わり、じっと待つ。


やがて、岩砲魚が近づいてきた。


タコは岩甲ガニと岩貝の足を身体の前へ伸ばした。

さらにエビの足を岩へ押し付ける。

岩砲魚が近くを通り過ぎた瞬間、縮めていた足を一気に伸ばした。


タコの身体が勢いよく飛び出す。


岩砲魚は驚いて身体を翻し、大きな口をこちらへ向けた。

直後、尖った石が飛び出した。


しかし、今度は岩甲ガニの分厚い甲殻へぶつかった。

鋭い先端が砕け、細かな欠片が周囲へ散らばる。

続けてもう一つの石が飛んできたが、こちらも岩貝の硬い部分へ当たり、弾かれた。


防げた。


その間にも、タコは岩砲魚へ迫っていた。


岩砲魚が慌てて逃げようとする。

しかし、その身体へ岩牙ウツボの足が伸び、鋭い牙が胴へ食い込んだ。

岩砲魚が大きく跳ねる。


タコは牙足を引き寄せ、岩鋏エビの足で胴を挟み込んだ。

岩砲魚は激しく身体を振り、大きな口を開く。

けれど、タコは別の足を絡ませ、その口を押さえ込んだ。


逃がさない。


岩牙ウツボの足がもう一度噛み付き、鋭い牙で肉を裂く。

岩砲魚は必死に暴れたが、何本もの足に押さえ込まれ、次第に動きが弱くなっていった。


タコは身体を近づけ、岩砲魚へ深く齧り付いた。

その一口で岩砲魚の身体から力が抜け、何かがタコの中へ流れ込んでくる。


来た。


タコは岩砲魚を抱えたまま、身体の中へ意識を向けた。


やっぱり。


新しく入ってきたものが、どの足にも収まらず漂っている。

あのむずむずとした違和感も広がっていた。


タコは八本の足を見た。

どれも、もう変わっている。


タコは足の奥にあるものへ順番に触れ、味を確かめていった。


岩鋏エビのものには、ぎゅっと締め付けるような味がある。

岩甲ガニのものは、どんと重い刺激が広がってくる。

ウニのものには、まろやかな濃さと、ちくちくとした刺激があった。

岩牙ウツボの鋭い味も、岩貝の硬く重い味も気に入っている。


どれも美味い。


タコはしばらく迷い、太身魚の足へ意識を向けた。

触れると、力強い味がじんわりと広がってくる。

濃く、身体の奥へゆっくり残る味だった。


美味い。


タコは太身魚の足を動かした。

太く、獲物へ巻き付いて強く締め付けることができる足。

これまで何度も獲物を捕まえるのに役立ってきた。


けれど、岩鋏エビの足でも強く挟める。

岩貝の足も、強く張り付く。


タコはもう一度、太身魚の味へ触れた。


何度も味わってきた、好きな味だ。

けれど、身体の中にはまだ知らないものが漂っている。


どんな味だろう。


タコはしばらく迷った後、太身魚の足を見た。


これにする。

もう一度だけ、慣れ親しんだ味へ触れる。


美味い。


タコは新しいものを、その足へ向けた。

入れ替わるように古いものが薄くなり、少しずつ味が消えていく。


惜しい。

けれど、今度も引き戻さなかった。


やがて古い味が消え、新しいものが足の奥へ収まった。

身体の中にあった違和感もなくなる。


直後、足が変わり始めた。


太かった足が少し細くなり、表面が灰色の硬い鱗に覆われていく。

やがて先端に小さな穴が開き、その周囲が硬く変化した。


タコは新しく変わった足を持ち上げた。

足元に転がる小石へ目を向けると、何となくあれを取り込みたい気がした。


足先を近づけると、穴が開いて小石を吸い込んだ。

足の中で硬いものが動き、細く尖っていく感覚が伝わってくる。


タコは少し離れた岩へ足先を向けた。

そのまま力を込めると、穴から尖った石が勢いよく飛び出した。


石は岩へぶつかり、表面に小さな傷を付けた。


飛んだ。


さっきの岩砲魚と同じだ。


タコは今度は小石を二つ吸い込んだ。

少し離れた岩へ足先を向け、力を込める。


尖った石が一つ飛び出し、岩の表面へぶつかった。

続けてもう一つ放つが、こちらは岩を外れて奥へ飛んでいった。


面白い。


続いて、足の奥へ意識を向けた。

新しく入ってきたものが、そこに収まっている。


どんな味だろう。


タコは舐めるように触れた。

その瞬間、細かな刺激が次々と弾けた。


美味い。


小さな硬いものが、ぱちぱちと弾けるような味。

一つ一つの刺激はそれほど強くないが、次から次へと広がってくる。


タコはもう一度触れた。

細かな刺激が弾け、その後に硬く尖った味が残った。


不思議な味だった。


タコはウニの足にも意識を向けた。

まろやかな濃さの中に、ちくちくとした刺激が広がってくる。


こっちも美味い。


けれど、新しいものとは違う。

ウニの味は細かな棘が刺さるように続くが、新しいものは次々と弾けていく。


タコはもう一度、新しい味へ触れた。

ぱちぱちとした刺激が弾け、その後に尖った味が残る。


美味い。

もっと。


タコは何度も触れ、その味をじっくりと楽しんだ。

やがて満足すると、倒した岩砲魚へ目を向けた。


まだ肉がある。


タコは岩砲魚へ齧り付いた。

硬い鱗の下には、柔らかな肉が詰まっている。

噛み締めると、じんわりと旨味が広がった。


美味い。


タコは足で岩砲魚を押さえ、硬い鱗の隙間から次々と肉を食べていった。


やがて腹が膨れ、食べられるところも少なくなる。

タコは岩砲魚の残骸から離れ、近くの岩へ張り付いた。


お腹いっぱい。


タコは新しい足を動かした。

先端の小さな穴が開き、また閉じる。


離れたところまで、石が飛ぶ。

タコは足先を持ち上げ、しばらく眺めた。


気に入った。


それから、周囲を見渡した。

大きな岩が重なり、その奥には暗い隙間が続いている。

さらに深い場所にも、まだ見たことのない岩場が広がっていた。


タコは身体を岩と同じ色へ変え、ゆっくりと泳ぎ始めた。


もっと食べたい。


この奥には、まだ知らないものがいるかもしれない。

どんな味だろう。


タコは新しい足を揺らしながら、岩礁のさらに深い場所へと進んでいった。


●岩砲魚

特徴:

 岩礁海深部に生息する遠距離攻撃を得意とする魚。

 大きな口から小石を吸い込み、体内で鋭く尖った岩へ変化させる。

 尖った岩を高速で撃ち出し、離れた場所にいる獲物を傷つける。

 獲物に接近されると距離を取りながら攻撃する。

獲得能力:

 足先に小さな穴が開き、そこから小石を吸い込める。

 吸い込んだ小石を足の内部で鋭く尖らせ、高速で撃ち出すことができる。

 複数の小石を取り込み、連続して発射することも可能。

 弾となる小石は周囲から補給する必要がある。


【現在の八腕】

 本体:岩ダコ

 一ノ足:岩逃魚

 二ノ足:岩鋏エビ

 三ノ足:エビ

 四ノ足:岩甲ガニ

 五ノ足:ウニ

 六ノ足:太身魚 → 岩砲魚

 七ノ足:岩牙ウツボ

 八ノ足:岩貝

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