14本目【タコ×岩牙ウツボ】
タコは岩場の奥へ向かって泳いでいた。
大きな岩がいくつも重なり、その間には深い穴や細い隙間が続いている。
以前、岩牙ウツボに追いかけられた場所だ。
タコは岩と同じ色や模様へ身体を変え、周囲を見渡しながら進んでいく。
暗い岩穴を見つけるたびに覗き込むが、奥には何も見えなかった。
どこだろう。
タコはエビの足を岩へ押し付け、身体を前へ飛ばした。
……重い。
新しく手に入れた岩甲ガニの足が重く、以前ほど身体が進まない。
岩ダコを食べてから身体も強くなっていたが、今はまた少し動きが鈍くなっている。
泳ぎにくい。
タコは大きな甲殻足を動かした。
重くて少し邪魔だが、岩甲ガニと同じように硬い殻に覆われている。
あの牙も、防げるだろうか。
以前、足を噛み千切られた時のことを思い出す。
鋭い牙が食い込み、足が千切れた時の痛み。
怖かった。
けれど、あの長い身体の肉は美味かった。
岩甲ガニが食べ残したものでも、十分に美味しかった。
また食べたい。
あの味も知りたい。
タコは岩に擬態したまま、ゆっくりと奥へ進んでいった。
その時だった。
近くの岩穴へ目が向いた。
暗い穴の奥には何も見えないが、何かが気になる。
何かいる。
タコが動きを止めた直後、暗闇から大きな口が飛び出してきた。
岩牙ウツボだった。
鋭い牙が並んだ口が、勢いよく迫ってくる。
タコは咄嗟に岩甲ガニの足を前へ突き出した。
──ガギンッ!
岩牙ウツボの牙が、分厚い甲殻へ噛み付いた。
強い衝撃でタコの身体が引っ張られる。
岩牙ウツボはさらに顎へ力を込めた。
鋭い牙が甲殻の表面を擦るが、硬い殻には食い込まない。
タコは噛み付かれた足を見た。
壊れていない。
以前はカニの足を噛み千切られた。
けれど、今度は牙が通っていない。
防げた。
岩牙ウツボは甲殻足に噛み付いたまま、激しく身体を振り回した。
タコの身体も揺さぶられるが、硬い足は壊れなかった。
タコは岩鋏エビの足を伸ばし、大きな鋏で岩牙ウツボの胴を挟み込んだ。
岩牙ウツボが甲殻足から口を離した。
長い身体を激しくくねらせ、逃れようとする。
しかし、岩鋏エビの鋏は離れない。
岩を砕くほどの力で、長い胴を挟み続けている。
タコはさらに太身魚の足を伸ばし、岩牙ウツボへ巻き付けた。
太い足で強く締め付けると、岩牙ウツボは一層激しく暴れ始める。
タコは岩貝の足を近くの岩へ張り付け、身体を固定した。
残った足も長い胴へ絡ませ、少しずつ動きを封じていく。
岩牙ウツボは何度も身体を捻った。
大きな口を開いて噛み付こうとするが、何本もの足が絡み付き、うまく向きを変えられない。
それでも、長い身体はまだ激しく暴れていた。
タコは岩鋏エビの足へ力を込めた。
鋏に挟まれた胴が強く締め付けられるが、岩牙ウツボは暴れ続けている。
その時、先ほど見た岩甲ガニの姿が浮かんだ。
大きな鋏で岩牙ウツボを挟み、もう片方の鋏を何度も叩き付けていた。
タコは岩甲ガニの足を持ち上げた。
重い甲殻に覆われた足を、岩牙ウツボの頭へ振り下ろす。
──ゴッ!
岩牙ウツボの身体が大きく震えた。
それでも長い胴をくねらせ、拘束から抜け出そうとする。
タコはもう一度、甲殻足を振り下ろした。
さらに続けて、重い足を頭へ叩き付ける。
岩牙ウツボの動きが少しずつ鈍くなっていく。
タコは最後にもう一度、甲殻足を強く振り下ろした。
大きな頭がぐらりと揺れ、岩牙ウツボの身体から力が抜けた。
そのまま動かなくなる。
タコはしばらく押さえ続けた。
長い身体は、もう動かなかった。
タコは頭の近くへ身体を寄せ、硬い皮へ齧り付いた。
その一口目。
岩牙ウツボの身体から何かが抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。
来た。
タコは岩牙ウツボを見た。
大きな口は開いたままで、長い身体も動かない。
以前は追いかけられ、必死に逃げた相手。
今は自分の足に捕まったまま、動かなくなっている。
タコは身体の中へ意識を向けた。
やっぱり。
新しく入ってきたものが、どの足にも収まらず漂っている。
身体の中には、あのむずむずとした違和感も広がっていた。
タコは八本の足を見た。
どれも、もう変わっている。
どれか一つ。
なくなる。
タコは足の奥にあるものへ順番に意識を向けた。
舐めるように触れ、味を確かめていく。
エビの足からは、弾けるような刺激が広がった。
ウニの足には、まろやかな濃さと、ちくちくとした刺激がある。
岩甲ガニの重い味も、岩鋏エビの締め付けるような味も気に入っていた。
どれも美味い。
タコはしばらく迷い、細身魚の足へ意識を向けた。
触れると、細く長く続く味が広がってくる。
鋭く伸びるような感覚が、身体の奥に残った。
美味い。
何度も味わってきた、好きな味だ。
けれど、他のものと比べると少し物足りない。
タコは細身魚の足を動かした。
速く、遠くまで伸びる足。
この足も好き。
けれど、新しく入ってきたものは、まだ味わったことがない。
どんな味だろう。
タコはもう一度、細身魚の味へ触れた。
惜しい。
けれど、新しい味も欲しい。
タコは岩牙ウツボのものを、細身魚の足へ向けた。
新しいものが入り込むにつれ、慣れ親しんだ味が少しずつ薄くなっていく。
タコは最後に、消えかけた味へ触れた。
美味い。
やがて古い味が消え、岩牙ウツボのものが足の奥へ収まった。
身体の中にあったむずむずとした違和感もなくなる。
直後、足が変わり始めた。
細くしなやかな形はそのままに、先端が硬くなっていく。
やがて足先が二つに分かれ、その内側へ鋭い牙が何本も生え始めた。
岩鋏エビの鋏ほど大きくはない。
けれど、細く尖った牙がずらりと並んでいる。
タコは新しい足を動かした。
足先が開き、素早く閉じる。
──ガチッ。
鋭い牙が噛み合った。
速い。
タコはもう一度、足先を開閉してみた。
岩鋏エビの鋏よりも軽く、素早く動かせる。
今度は倒した岩牙ウツボの胴へ伸ばした。
足先を開き、そのまま噛み付かせる。
鋭い牙が硬い皮を突き破り、肉へ深く食い込んだ。
そのまま足を引くと、肉が大きく裂ける。
千切れた。
タコは新しい足を開き、もう一度噛み付かせた。
鋭い牙が素早く閉じ、皮の下にある肉へ食い込んでいく。
タコは岩鋏エビの足も動かした。
こちらは大きな鋏で強く挟み、硬いものを砕く。
新しい足は、素早く噛み付いて肉を裂く。
どちらも強い。
タコは気に入った。
続いて、新しい足の奥へ意識を向けた。
そこに収まったものへ、舐めるように触れる。
鋭い刺激が一気に広がった。
美味い。
まるで何かに噛み付かれたような、尖った味。
その刺激が過ぎた後も、濃い味がじわじわと広がってくる。
タコはもう一度触れた。
もっと。
再び鋭い刺激が走り、後から重い味が追いかけてきた。
最初の刺激だけで終わらず、身体の奥に濃い味が残り続ける。
美味い。
タコはウニの足にも意識を向けた。
まろやかな濃さの中に、ちくちくとした刺激が広がる。
こっちも美味い。
けれど、岩牙ウツボのものとは違う。
こちらは小さな刺激がいくつも広がり、岩牙ウツボのものは一気に鋭く突き刺さる。
タコは再び岩牙ウツボの味へ触れた。
鋭い。
濃い。
何度触れても、最初の刺激が心地よかった。
その後に続く重い味も気に入った。
タコはしばらく、その味を楽しんだ。
やがて満足すると、倒した岩牙ウツボへ目を向けた。
まだ肉がある。
タコは長い身体へ齧り付いた。
以前、岩甲ガニが食べ残した岩牙ウツボの肉も美味かったが、今度は丸ごと一匹ある。
美味い。
硬い皮の下には、柔らかな肉がたっぷり詰まっていた。
タコは新しい牙足で皮を裂き、露わになった肉へ次々と齧り付く。
以前は大きな口で追いかけてきた相手。
今は動かず、自分に食べられている。
美味い。
もっと食べたい。
タコは夢中になって肉を食べ続けた。
やがて腹が膨れ、食べられるところも少なくなった。
タコは岩牙ウツボの残骸から離れ、近くの岩へ張り付く。
お腹いっぱい。
タコは新しい牙足を動かした。
鋭い牙が開き、素早く閉じる。
周囲には大きな岩や深い穴が広がり、さらに奥にも入り組んだ岩場が続いている。
以前は怖くて逃げていた場所だった。
けれど、今は岩牙ウツボも食べられた。
もっと食べたい。
この先には、まだ知らないものがいるかもしれない。
どんな味だろう。
タコは身体を岩から離し、岩礁のさらに奥へと進んでいった。
●岩牙ウツボ
特徴:
岩礁海深部の岩穴に潜む大型のウツボ。
鋭く強靱な牙を持ち、噛み付く力が非常に強い。
岩鋏エビの甲殻も噛み砕くことができる。
岩穴からの奇襲を得意とし、岩礁内を素早く泳ぐ。
追跡能力も高く、一度狙った獲物を執拗に追いかける。
ただし、岩甲ガニの分厚い甲羅には牙が通らない。
獲得能力:
足先が二股に分かれ、内側に鋭い牙が並ぶ。
素早い噛み付きで獲物の肉に牙を食い込ませ、引き裂くことができる。
岩鋏エビの鋏足ほど挟む力は強くないが、開閉速度に優れる。
足全体は細くしなやかで、素早く動かせる。
【現在の八腕】
本体:岩ダコ
一ノ足:岩逃魚
二ノ足:岩鋏エビ
三ノ足:エビ
四ノ足:岩甲ガニ
五ノ足:ウニ
六ノ足:太身魚
七ノ足:細身魚 → 岩牙ウツボ
八ノ足:岩貝




