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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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14/17

14本目【タコ×岩牙ウツボ】


タコは岩場の奥へ向かって泳いでいた。

大きな岩がいくつも重なり、その間には深い穴や細い隙間が続いている。


以前、岩牙ウツボに追いかけられた場所だ。


タコは岩と同じ色や模様へ身体を変え、周囲を見渡しながら進んでいく。

暗い岩穴を見つけるたびに覗き込むが、奥には何も見えなかった。


どこだろう。


タコはエビの足を岩へ押し付け、身体を前へ飛ばした。


……重い。


新しく手に入れた岩甲ガニの足が重く、以前ほど身体が進まない。

岩ダコを食べてから身体も強くなっていたが、今はまた少し動きが鈍くなっている。


泳ぎにくい。


タコは大きな甲殻足を動かした。

重くて少し邪魔だが、岩甲ガニと同じように硬い殻に覆われている。


あの牙も、防げるだろうか。


以前、足を噛み千切られた時のことを思い出す。

鋭い牙が食い込み、足が千切れた時の痛み。


怖かった。


けれど、あの長い身体の肉は美味かった。

岩甲ガニが食べ残したものでも、十分に美味しかった。


また食べたい。

あの味も知りたい。


タコは岩に擬態したまま、ゆっくりと奥へ進んでいった。


その時だった。


近くの岩穴へ目が向いた。

暗い穴の奥には何も見えないが、何かが気になる。


何かいる。


タコが動きを止めた直後、暗闇から大きな口が飛び出してきた。


岩牙ウツボだった。


鋭い牙が並んだ口が、勢いよく迫ってくる。

タコは咄嗟に岩甲ガニの足を前へ突き出した。


──ガギンッ!


岩牙ウツボの牙が、分厚い甲殻へ噛み付いた。

強い衝撃でタコの身体が引っ張られる。


岩牙ウツボはさらに顎へ力を込めた。

鋭い牙が甲殻の表面を擦るが、硬い殻には食い込まない。


タコは噛み付かれた足を見た。


壊れていない。


以前はカニの足を噛み千切られた。

けれど、今度は牙が通っていない。


防げた。


岩牙ウツボは甲殻足に噛み付いたまま、激しく身体を振り回した。

タコの身体も揺さぶられるが、硬い足は壊れなかった。


タコは岩鋏エビの足を伸ばし、大きな鋏で岩牙ウツボの胴を挟み込んだ。


岩牙ウツボが甲殻足から口を離した。

長い身体を激しくくねらせ、逃れようとする。


しかし、岩鋏エビの鋏は離れない。

岩を砕くほどの力で、長い胴を挟み続けている。


タコはさらに太身魚の足を伸ばし、岩牙ウツボへ巻き付けた。

太い足で強く締め付けると、岩牙ウツボは一層激しく暴れ始める。


タコは岩貝の足を近くの岩へ張り付け、身体を固定した。

残った足も長い胴へ絡ませ、少しずつ動きを封じていく。


岩牙ウツボは何度も身体を捻った。

大きな口を開いて噛み付こうとするが、何本もの足が絡み付き、うまく向きを変えられない。


それでも、長い身体はまだ激しく暴れていた。


タコは岩鋏エビの足へ力を込めた。

鋏に挟まれた胴が強く締め付けられるが、岩牙ウツボは暴れ続けている。


その時、先ほど見た岩甲ガニの姿が浮かんだ。


大きな鋏で岩牙ウツボを挟み、もう片方の鋏を何度も叩き付けていた。


タコは岩甲ガニの足を持ち上げた。

重い甲殻に覆われた足を、岩牙ウツボの頭へ振り下ろす。


──ゴッ!


岩牙ウツボの身体が大きく震えた。

それでも長い胴をくねらせ、拘束から抜け出そうとする。


タコはもう一度、甲殻足を振り下ろした。

さらに続けて、重い足を頭へ叩き付ける。


岩牙ウツボの動きが少しずつ鈍くなっていく。


タコは最後にもう一度、甲殻足を強く振り下ろした。

大きな頭がぐらりと揺れ、岩牙ウツボの身体から力が抜けた。

そのまま動かなくなる。


タコはしばらく押さえ続けた。

長い身体は、もう動かなかった。


タコは頭の近くへ身体を寄せ、硬い皮へ齧り付いた。


その一口目。

岩牙ウツボの身体から何かが抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


来た。


タコは岩牙ウツボを見た。

大きな口は開いたままで、長い身体も動かない。


以前は追いかけられ、必死に逃げた相手。

今は自分の足に捕まったまま、動かなくなっている。


タコは身体の中へ意識を向けた。


やっぱり。


新しく入ってきたものが、どの足にも収まらず漂っている。

身体の中には、あのむずむずとした違和感も広がっていた。


タコは八本の足を見た。

どれも、もう変わっている。


どれか一つ。

なくなる。


タコは足の奥にあるものへ順番に意識を向けた。

舐めるように触れ、味を確かめていく。


エビの足からは、弾けるような刺激が広がった。

ウニの足には、まろやかな濃さと、ちくちくとした刺激がある。

岩甲ガニの重い味も、岩鋏エビの締め付けるような味も気に入っていた。


どれも美味い。


タコはしばらく迷い、細身魚の足へ意識を向けた。


触れると、細く長く続く味が広がってくる。

鋭く伸びるような感覚が、身体の奥に残った。


美味い。


何度も味わってきた、好きな味だ。

けれど、他のものと比べると少し物足りない。


タコは細身魚の足を動かした。

速く、遠くまで伸びる足。


この足も好き。

けれど、新しく入ってきたものは、まだ味わったことがない。


どんな味だろう。


タコはもう一度、細身魚の味へ触れた。


惜しい。

けれど、新しい味も欲しい。


タコは岩牙ウツボのものを、細身魚の足へ向けた。

新しいものが入り込むにつれ、慣れ親しんだ味が少しずつ薄くなっていく。


タコは最後に、消えかけた味へ触れた。


美味い。


やがて古い味が消え、岩牙ウツボのものが足の奥へ収まった。

身体の中にあったむずむずとした違和感もなくなる。


直後、足が変わり始めた。


細くしなやかな形はそのままに、先端が硬くなっていく。

やがて足先が二つに分かれ、その内側へ鋭い牙が何本も生え始めた。


岩鋏エビの鋏ほど大きくはない。

けれど、細く尖った牙がずらりと並んでいる。


タコは新しい足を動かした。

足先が開き、素早く閉じる。


──ガチッ。


鋭い牙が噛み合った。


速い。


タコはもう一度、足先を開閉してみた。

岩鋏エビの鋏よりも軽く、素早く動かせる。


今度は倒した岩牙ウツボの胴へ伸ばした。

足先を開き、そのまま噛み付かせる。


鋭い牙が硬い皮を突き破り、肉へ深く食い込んだ。

そのまま足を引くと、肉が大きく裂ける。


千切れた。


タコは新しい足を開き、もう一度噛み付かせた。

鋭い牙が素早く閉じ、皮の下にある肉へ食い込んでいく。


タコは岩鋏エビの足も動かした。

こちらは大きな鋏で強く挟み、硬いものを砕く。


新しい足は、素早く噛み付いて肉を裂く。


どちらも強い。

タコは気に入った。


続いて、新しい足の奥へ意識を向けた。

そこに収まったものへ、舐めるように触れる。

鋭い刺激が一気に広がった。


美味い。


まるで何かに噛み付かれたような、尖った味。

その刺激が過ぎた後も、濃い味がじわじわと広がってくる。


タコはもう一度触れた。


もっと。


再び鋭い刺激が走り、後から重い味が追いかけてきた。

最初の刺激だけで終わらず、身体の奥に濃い味が残り続ける。


美味い。


タコはウニの足にも意識を向けた。

まろやかな濃さの中に、ちくちくとした刺激が広がる。


こっちも美味い。


けれど、岩牙ウツボのものとは違う。

こちらは小さな刺激がいくつも広がり、岩牙ウツボのものは一気に鋭く突き刺さる。


タコは再び岩牙ウツボの味へ触れた。


鋭い。

濃い。


何度触れても、最初の刺激が心地よかった。

その後に続く重い味も気に入った。


タコはしばらく、その味を楽しんだ。

やがて満足すると、倒した岩牙ウツボへ目を向けた。


まだ肉がある。


タコは長い身体へ齧り付いた。

以前、岩甲ガニが食べ残した岩牙ウツボの肉も美味かったが、今度は丸ごと一匹ある。


美味い。


硬い皮の下には、柔らかな肉がたっぷり詰まっていた。

タコは新しい牙足で皮を裂き、露わになった肉へ次々と齧り付く。


以前は大きな口で追いかけてきた相手。

今は動かず、自分に食べられている。


美味い。

もっと食べたい。


タコは夢中になって肉を食べ続けた。


やがて腹が膨れ、食べられるところも少なくなった。

タコは岩牙ウツボの残骸から離れ、近くの岩へ張り付く。


お腹いっぱい。


タコは新しい牙足を動かした。

鋭い牙が開き、素早く閉じる。


周囲には大きな岩や深い穴が広がり、さらに奥にも入り組んだ岩場が続いている。


以前は怖くて逃げていた場所だった。

けれど、今は岩牙ウツボも食べられた。


もっと食べたい。


この先には、まだ知らないものがいるかもしれない。

どんな味だろう。


タコは身体を岩から離し、岩礁のさらに奥へと進んでいった。


●岩牙ウツボ

特徴:

 岩礁海深部の岩穴に潜む大型のウツボ。

 鋭く強靱な牙を持ち、噛み付く力が非常に強い。

 岩鋏エビの甲殻も噛み砕くことができる。

 岩穴からの奇襲を得意とし、岩礁内を素早く泳ぐ。

 追跡能力も高く、一度狙った獲物を執拗に追いかける。

 ただし、岩甲ガニの分厚い甲羅には牙が通らない。

獲得能力:

 足先が二股に分かれ、内側に鋭い牙が並ぶ。

 素早い噛み付きで獲物の肉に牙を食い込ませ、引き裂くことができる。

 岩鋏エビの鋏足ほど挟む力は強くないが、開閉速度に優れる。

 足全体は細くしなやかで、素早く動かせる。


【現在の八腕】

 本体:岩ダコ

 一ノ足:岩逃魚

 二ノ足:岩鋏エビ

 三ノ足:エビ

 四ノ足:岩甲ガニ

 五ノ足:ウニ

 六ノ足:太身魚

 七ノ足:細身魚 → 岩牙ウツボ

 八ノ足:岩貝

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