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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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12/16

12本目【タコ×岩鋏エビ】


タコは岩へ身体を寄せたまま、ゆっくりと進んでいた。


少し先にある暗い岩穴。

その奥で、何かが動いている。


岩逃魚の足へ意識を向ける。

暗くてよく見えない場所だが、僅かな動きが気になった。


何かいる。


タコは身体を岩と同じ色へ変え、穴の入口へ近づいた。

すぐ横の岩へ張り付き、そのまま動きを止める。


穴の奥は暗い。

けれど、じっと見ていると、何かの姿が浮かんできた。


硬そうな身体。

細長い脚。

そして、片側だけ異様に大きな鋏。


岩鋏エビだった。


大きな鋏は岩のようにごつごつしており、もう片方の鋏よりもずっと太い。

身体の半分ほどを穴の奥へ隠し、その鋏を入口へ向けている。


タコはじっと見つめた。


前に食べたエビに似ている。

けれど、あんなに大きな鋏はなかった。


タコはエビの足の奥へ意識を向けた。

そこにあるものを、舐めるように味わう。


美味い。


あの味。

こいつは、どんな味だろう。


タコは岩穴の奥を見た。


食べたい。


細身魚の足をゆっくり伸ばし、岩鋏エビへ近づける。

その瞬間、大きな鋏が動いた。


──ガチンッ。


足のすぐ近くで鋏が閉じる。

タコは慌てて足を引っ込めた。


危ない。


岩鋏エビは大きな鋏を開き、こちらへ向けている。

タコがもう一度足を近づけると、鋏が素早く閉じた。


タコは足を戻した。


速い。

それに、硬そう。


以前、カニに足を切られた時のことを思い出す。

あの鋏より、ずっと大きい。


タコはカニを食べて硬くなった足を動かしかけた。

けれど、岩甲殻の裏側を持つ岩貝の足を伸ばし、硬い部分を鋏へ向けた。


岩鋏エビが反応する。

大きな鋏が、岩貝の足を挟み込んだ。


強い。


鋏が閉じる力で、足が強く押される。

けれど、硬い部分は砕けなかった。


タコはそのまま足を引いた。


岩鋏エビの身体が僅かに動く。

細い脚を岩へ突っ張り、穴の奥へ戻ろうとする。


タコはさらに引っ張った。


岩鋏エビの身体が、少しずつ穴の入口へ近づいていく。


しかし、岩鋏エビは大きな鋏を開いた。

挟まれていた足が外れると、尾を勢いよく曲げ、穴の奥へ跳ねるように逃げ込んだ。


タコはその姿を追った。


まだいる。


今度は岩貝の足を、穴の奥へ深く差し込む。

岩鋏エビが再び大きな鋏を振るった。


鋏が岩貝の足を挟み込む。

今度は硬い外側ではなく、吸盤のある部分だった。


痛ッ。


タコは足を引こうとした。

けれど、鋏が強く食い込み、簡単には抜けない。


柔らかな吸盤が押し潰され、痛みが強くなる。

タコは身体を縮め、足を強く引いた。


岩鋏エビの身体が穴の中を滑った。

何本もの脚で踏ん張ろうとするが、少しずつ引きずられていく。


やがて、岩鋏エビが大きな鋏を開いた。

挟まれていた足が解放される。


タコはすぐに足を引き戻しかけた。

しかし、目の前には岩鋏エビの胴がある。


そのまま足を伸ばし、胴へ巻き付けた。

吸盤が硬い殻へ張り付く。


岩鋏エビが慌てて大きな鋏を振るった。

何度も岩貝の足を挟み込もうとするが、今度は硬い外側が鋏を受け止めた。


タコは足を離さなかった。


他の足を周囲の岩へ張り付け、身体を固定する。

そして、岩鋏エビの胴へ巻き付けた足を一気に引いた。


何本もの脚で踏ん張っていた岩鋏エビが、穴の外へ引きずり出された。


岩鋏エビはすぐに尾を曲げ、身体を跳ねさせた。

その勢いで逃れようとするが、岩貝の吸盤は離れない。


タコはさらに足を伸ばした。


太身魚の足を胴へ巻き付け、カニの硬い足で大きな鋏を押さえる。

岩鋏エビが鋏を振り回そうとするが、硬い足に押さえられて動かせない。


タコは太身魚の足へ力を込めた。


岩鋏エビの身体が強く締め付けられる。

硬い殻が軋み、脚が激しく動いた。


タコはさらに締め付けた。


──パキッ。


胴を覆う殻の継ぎ目が割れた。

タコは割れた場所へ口を近づけ、そのまま噛み付いた。


岩鋏エビが大きく跳ねる。

けれど、巻き付いた足は離れない。


タコはもう一度、割れたところへ深く齧り付いた。

岩鋏エビの動きが弱まり、大きな鋏からも少しずつ力が抜けていく。


さらに一口。

その瞬間、岩鋏エビの身体から何かが抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


来た。


タコはそのまま次の一口を齧ろうとした。

けれど、身体の中にむずむずとした違和感が広がっていた。


まただ。


タコは身体の中へ意識を向けた。

新しく入ってきたものが、どの足にも入らず漂っている。

岩ダコのものがいる場所とも違う。


やがて、その新しいものが身体の外へ向かおうとした。

タコは慌てて引き戻す。


八本の足は、もう全部変わっている。


どれか一つ。

またなくなる。


タコは足の奥にあるものへ順番に触れていった。

舐めるように、味を確かめる。


硬い味。

尖った味。

重い味。

弾けるような味。


どれも美味い。

けれど、好きな味は少しずつ違う。


タコは太身小魚のものへ触れた。

何度も食べて、前より濃くなっている。


美味い。


次に、太身魚のものを味わう。

こちらはもっと重く、濃い味だった。


タコは二つの味を交互に確かめた。


どちらも美味い。

けれど、こっちの方が好き。


タコは太身魚の足を動かした。

以前からある太い足より、ずっと強い。


新しいものは、まだ身体の中を漂っている。

タコは太身小魚の足を見た。


これにする。

新しいものを、その足へ向けた。


太身小魚のものが少しずつ薄くなっていく。

何度も味わってきたものが、身体から消えようとしていた。


惜しい。


タコはもう一度だけ、その味へ触れた。


美味い。


やがて古い味が消え、代わりに新しいものが足の奥へ収まった。

身体の中にあったむずむずとした感覚もなくなる。


直後、足が変わり始めた。


足先が太くなり、硬い殻に覆われていく。

先端が左右へ分かれ、岩のようにごつごつした二つの鋏が形作られた。


タコは新しい足を見た。


鋏だ。


足先を動かすと、鋏がゆっくり開いた。

そのまま力を込める。


二つの鋏が勢いよく閉じた。

タコはもう一度開き、閉じてみた。


強い。


さっきまで自分の足を挟んでいた鋏。

それが、今は自分の足についている。


タコは岩鋏エビを見た。

まだ食べていない。


タコはその身体へ齧り付いた。


美味い。


殻の下には柔らかく弾力のある肉が詰まっていた。

以前食べたエビに似ているが、こちらの方が味が少し濃い。


タコは殻の隙間を探しながら、次々と齧り付いた。

大きな鋏の付け根や胴の内側にも肉が残っている。


やがて、食べられるところがほとんどなくなった。

タコは身体を離し、新しく変わった足を動かした。


近くにある岩の小さな突起を、鋏で挟んでみる。

二つの硬い先端が閉じ、岩をしっかりと掴んだ。


タコはそのまま引っ張った。

けれど、挟んだ岩は外れない。


今度は鋏へ力を込めた。


──パキッ。


岩の突起が欠けた。


タコは鋏を開いた。

小さな岩の欠片が落ちていく。


砕けた。


今度は別の突起を挟み、強く閉じてみる。

こちらも硬い岩が欠けた。


タコは新しい足を何度か動かした。


重い。

細かな動きは少し遅い。


けれど、強く掴める。

挟んだものを、簡単には離さない。


気に入った。


タコはその足の奥へ意識を向けた。

新しく入ってきたものへ、舐めるように触れる。


濃い味が広がった。


硬く、重い。

その奥に、何かをぎゅっと押し潰すような刺激がある。


美味い。


タコは以前食べたエビの足へ意識を向けた。

舐めるように触れると、小さく弾けるような味が広がる。


こっちも美味い。


もう一度、岩鋏エビのものへ触れた。

重く、強く押し潰すような味。


似ている。

けれど、違う。


タコは二つの味を何度か楽しんだ。

やがて満足すると、周囲へ目を向けた。


大きな岩。

深い穴。

入り組んだ隙間。


タコは新しい鋏の足をゆっくりと動かした。

これなら、もっと強いものも捕まえられるかもしれない。


身体を岩へ寄せ、皮膚の色と模様を周囲へ合わせる。

そのまま、ゆっくりと岩場を進んでいった。


しばらくすると、少し先の岩陰で何かが動いた。

タコは足を止めた。


大きな岩の向こう。

そこに、さっきのエビよりも大きなものがいる。


硬そうな身体。

太い脚。

岩のように分厚い甲羅。


岩甲ガニだった。


タコはじっと見つめた。


大きくて硬そうな身体。

強そうな二本の鋏。


タコは新しく変わった足を動かした。

岩を砕いた鋏をゆっくりと開き、閉じる。


あちらの方がずっと大きい。

それでも、食べてみたい。


タコは岩へ身体を寄せたまま、大きなカニを見つめていた。


●岩鋏エビ

特徴:

 岩礁海深部の岩穴に潜む甲殻類。

 片方の鋏が岩のように硬く、大きく発達している。

 強力な鋏で獲物を捕らえ、外敵を撃退する。

獲得能力:

 足先が岩のように硬い鋏へ変化する。

 挟み込みに特化し、掴む力と砕く力が上昇。

 獲物を強く挟んで拘束できる。


【現在の八腕】

 本体:岩ダコ

 一ノ足: 岩逃魚

 二ノ足:太身小魚 → 岩鋏エビ

 三ノ足:エビ

 四ノ足:カニ

 五ノ足:ウニ

 六ノ足:太身魚

 七ノ足:細身魚

 八ノ足:岩貝

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