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タコの捕食譚 ~喰らった獲物の力を八本の足に宿して~  作者: SN
第一海域・岩礁海

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11/18

11本目【タコ×岩逃魚】


タコは目を覚ました。


暗い岩穴の奥。

しばらく動かずにいると、身体に何か違和感があった。


重い。

けれど、嫌な重さではない。


足を一本動かしてみる。

岩穴の壁へ吸盤を張り付け、身体を引くと、以前より強い力が入った。


強い。


一つ一つの吸盤も、前よりしっかりと岩へ張り付いている。


タコはゆっくりと身体を起こし、自分の身体を見た。

眠る前より少し大きくなり、身体にも厚みが増している。


皮膚も違う。

前より暗く、岩のようなまだら模様が薄く浮かんでいた。


岩ダコを食べる前とは違う。

身体そのものが変わっていた。


タコは八本の足を動かした。


速く伸びる足。

太く強い足。

身体を速く動かす足。

硬い足。

棘の足。

もっと強い足。

もっと速く、遠くまで伸びる足。

強く張り付く足。


全部残っている。


けれど、少し違う。


太身小魚の足へ力を入れると、以前より強かった。

太身魚の足はさらに強く、近くの岩へ巻き付けて引くと、身体がぐっと引き寄せられた。


細身魚の足も伸ばしてみる。

以前より速く、遠くまで届いた。


カニの足も、ウニの足も、岩貝の足も形は変わっていない。

けれど、動かしてみると以前より力強かった。


タコは八本の足を眺めた。


身体が変わった。

足も強くなった。


それだけではない。


前より少しだけ、考えやすい。

今までなら何となく見ていたものが、少しだけ繋がる。


自分も岩へ紛れていた。

岩ダコも岩へ紛れていた。


けれど、違った。


自分は何度も見つかった。

岩ダコは、魚がすぐ近くまで来ても見つからなかった。


タコは自分の身体を見た。

前より岩に近い。


タコは岩穴の外へ目を向けた。


何度も逃げられた魚。

今なら。


タコは岩穴から出た。


周囲には暗い色の大きな岩が並んでいる。

身体をその一つへ寄せ、色を変える。


すぐに岩と同じ暗い色になった。

それだけではなく、皮膚にまだら模様が浮かび、岩肌の細かな凹凸まで似た形へ変わっていく。


タコは身体を岩へ張り付けた。

じっとしていると、岩と身体の境目が分かりにくくなる。


タコはそのまま動きを止めた。


しばらくすると、小さな魚が岩の向こうから現れた。

岩に似た体色をした、何度も逃げられた魚。


岩逃魚だった。


タコは動かない。


岩逃魚が少しずつ近づいてくる。

前ならもっと遠くで止まり、こちらを見ていた。


けれど、今回は止まらない。

岩逃魚はそのまま近づき、タコの目の前を通り過ぎようとした。


タコは速く伸びる足を一気に伸ばした。


吸盤が岩逃魚の身体へ張り付き、そのまま巻き付く。

魚は大きく跳ね、逃げようと身を翻した。


タコはすぐに二本目の足を伸ばし、続けて太い足も巻き付ける。

岩逃魚は激しく身体を振ったが、太い足へ力を込めると動きが鈍った。


タコはさらに足を絡ませ、身体を押さえ込んだ。

そのまま柔らかな部分へ噛み付く。


岩逃魚が大きく暴れる。

けれど、タコは足を離さず、もう一度深く齧った。


やがて魚の動きが弱くなり、身体から力が抜けていく。


さらに一口。

その瞬間、何かが岩逃魚の身体から抜け出し、タコの中へ流れ込んできた。


来た。


タコはそのまま次の一口を齧ろうとした。

けれど、身体の中にむずむずとした違和感が残っていた。


タコは動きを止めた。


さっき入ってきたものが、どの足にも入っていない。

岩ダコのものがいる場所とも違う。

身体の中を、どこにも落ち着かず漂っている。


タコが意識を向けていると、新しいものが少しずつ身体の外へ向かい始めた。


逃げる。


タコは慌てて引き戻そうとした。

一度は戻ってくるが、すぐにまた外へ向かおうとする。


このままでは、出ていく。


タコは八本の足を見た。


いつものものは、全部そこにいる。

岩ダコのものも、もっと奥にいる。


タコは近くの足へ意識を向けた。

すると、新しいものがそちらへ動いた。


入る。


その瞬間、足の奥にいたものが薄くなり始めた。

タコはびくりと身体を縮めた。


なくなる。


すぐに新しいものを引き戻す。

薄くなっていたものも、元のように戻っていった。


タコはしばらく動かなかった。


今度は別の足へ意識を向けた。

新しいものがそちらへ動き、前からいたものが同じように薄くなる。


タコは慌てて引き戻した。


まただ。

どこかへ入れると、そこにいるものが消えてしまう。


タコは八本の足を見た。


どれか一つ。

なくなる。


しばらく動かなかった。


やがて、足の奥にあるものへ一つずつ意識を向けていく。

舐めるように触れる。


硬い味。

尖った味。

重い味。

濃い味。


どれも、何度も食べて前より濃くなっている。

どれも美味い。


タコは一つずつ味わった。


これは好き。

これも好き。


最後に、細身小魚のものへ触れた。


美味い。


けれど、似た味がもう一つある。

細身魚のものだ。


こちらの方が鋭く、味も濃い。

足も、もっと速く遠くまで伸びる。


タコは二つの味を交互に確かめた。


どちらも美味い。

けれど、細身小魚の方は少しだけ惜しくない。


タコはもう一度、その味を楽しんだ。

それから、身体の中を漂う新しいものへ意識を向ける。


まだ、どんな味か分からない。

知らないもの。


食べてみたい。


タコは細身小魚の足を見た。


これにする。


新しいものを、その足へ向ける。

今度は引き戻さなかった。


新しいものが足へ入り込んでいく。

それと入れ替わるように、前からいたものが少しずつ薄くなった。


タコはじっとしていた。


長く味わってきたもの。

最後に、ほんの少しだけ触れる。


美味い。


けれど、その味も次第に薄くなっていく。


そして、消えた。


新しいものが足の奥へ収まる。

身体の中にあったむずむずとした違和感も消えた。


直後、足が変わり始めた。


表面の色が暗くなり、岩に似たまだら模様が浮かんでいく。

形そのものは大きく変わらないが、周囲の岩へ馴染みやすい色に変わっていた。


タコは新しい足を動かした。


前のように速く遠くまで伸びることはない。

けれど、岩へ張り付けると、暗い色の足が周囲によく馴染んだ。


タコはしばらくその足を眺めた。

それから、足元の岩逃魚へ目を戻す。


腹が減っている。

タコは魚へ齧り付いた。


美味い。


あの岩ダコから奪った魚。

今度は、自分で捕まえた。


肉は柔らかく、少し締まっている。

噛むたびに淡い味が広がり、タコは夢中で食べ続けた。


やがて、食べられるところがほとんどなくなる。

タコは身体を離し、新しく変わった足を動かした。


岩陰へ伸ばしてみる。

暗い色の足が岩肌へ馴染み、ほとんど目立たなくなった。


タコはその足の奥へ意識を向けた。

新しく入ってきたものが、そこに収まっている。


舐めるように触れる。

味が広がった。


軽い。


けれど、ただ軽いだけではない。

滑らかな味の中に、小さな違いがいくつも混じっている。


何かが僅かに引っ掛かるような、不思議な感覚。

その違いが、浮かんでは消えていく。


タコはもう一度味わった。


面白い。


今までのどれとも違う味だった。

タコはしばらくその味を楽しんだ。


それから、周囲を見渡す。


岩。

穴。

影。


その時、少し離れた岩陰で何かが僅かに動いた。


タコはそちらへ目を向けた。

岩と岩の間にある、暗い穴。


何も見えない。

けれど、何かが気になる。


タコはじっと穴を見つめた。


しばらくすると、奥の暗がりで何かがもう一度動いた。

ほんの僅かな動きだったが、すぐに気付いた。


何かいる。


前なら、気付かなかったかもしれない。


タコは身体を岩へ寄せた。

皮膚の色が暗くなり、まだら模様が岩肌へ馴染んでいく。

新しく変わった足も、周囲の岩へ紛れていた。


タコはもう一度、暗い岩穴を見た。


食べられるだろうか。

すぐには近づかず、岩へ身体を溶け込ませたまま様子を見る。


それから、ゆっくりと穴の方へ進んでいった。


●岩ダコ

特徴:

 岩礁海深部に棲むタコ。

 岩場への擬態と吸着に優れ、周囲へ溶け込んで獲物を待ち伏せする。

獲得能力:

 同族の魂は足ではなく本体へ取り込まれる。

 身体そのものが岩ダコをベースとした姿へ変化。

 体格・筋力・吸盤・再生力などの基礎性能が上昇する。

 とくに岩場への擬態性能が大きく強化される。

 思考力も僅かに上昇する。


●岩逃魚

特徴:

 岩に似た体色を持つ小型魚。

 周囲の色や形、僅かな動きの違いに敏感で、異物や不自然な変化を察知するとすぐに逃げる。

獲得能力:

 足が岩に似た体色へ変化。

 周囲の僅かな違和感や動きを察知する感覚が強化され、隠れている生物や不自然な変化に気付きやすくなる。


【現在の八腕】

 本体:岩ダコ

 一ノ足:細身小魚→ 岩逃魚

 二ノ足:太身小魚

 三ノ足:エビ

 四ノ足:カニ

 五ノ足:ウニ

 六ノ足:太身魚

 七ノ足:細身魚

 八ノ足:岩貝

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