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第三話 王都へ


 グレースのもとに舞い込んだセバスチャンとの縁談の噂は、瞬く間に領地内を駆け巡った。


 あの王子の妻になるほど、可哀想なものはない──グレースは会う人会う人にことごとく同情された。


 学校では親からセバスチャンの悪評を聞きかじったクラスメイトから縁談は受けるべきではないと引き留められた。


 街ですれ違ったお年寄りからは、セバスチャンの病弱さを理由に縁談を断るべきだと忠告された。


 学校では、セバスチャンは性格的に問題があると聞かされ、街ではセバスチャンはベッドに臥せたままで長生きはできないだろうと、わざわざ苦労する道を選ぶことはないと教会の説法のように言い聞かされた。


 どうしてみんな、セバスチャンのことを悪く言うのだろう。


──その姿すら、誰も見たことがないのに。


 グレースは、縁談が舞い込んでから数日で、自分が案外、天の邪鬼な性格をしていることに気づかされた。


 だから、というわけではないが、グレースの胸にはひとつの決意が生まれていた。


「お父様、お母様、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」


 夕食後、不意にグレースは家族に呼びかけた。


「どうした?

 そんなに改まって」


 ワイングラスを傾けていたマテオが柔和な笑みをグレースに向ける。


 紅茶のティーカップをソーサーに置いたリリスが隣に座るグレースを不思議そうに眺めていた。


「わたし、セバスチャン殿下にお会いしてみようと思うのですが」


 するとマテオもローズもリリスも、あんぐりと口を開けて絶句したまま固まってしまった。


 必然的に、夕餉の場は静寂に支配される。


 最初に呪縛から解き放たれたのは、さすがというべきか、ローズだった。


「グレース、それは殿下との縁談を受ける、ということ?」


 ローズの言葉に、グレースは、いいえ、と首を振った。


「殿下のお身体が悪いと、たくさんの人から聞きました。

 だから、縁談を受け入れるべきではないと。

 ですから、わたしは思ったのです。

 わたしのちからで、殿下のお身体を治癒できるのではないかと。

 そうすれば、殿下の王位継承には問題はなくなりますし、婚姻の相手がわたしである必要はなくなります。

 わたしより、王妃に相応しい方と結婚できる……。

 それこそが、この不思議な能力を授かったわたしがすべきことではないでしょうか」


 淡々とした口調でグレースが説明を終えると、マテオが低く唸って顎髭を忙しなく撫でた。


「婚姻の意思は、ないわけだな」


「ありません。

 図々しいのは前提ですが、この国の未来に貢献することが、わたしにはできるかもしれません」


「殿下が公にお出ましにならないのは、病弱が理由ではないかもしれないのに?」


 リリスの追求にグレースは言い淀む。


 セバスチャンについて語るリリスの台詞には、なんだか刺々しさが含まれているように感じる。


 大切な妹を憂いていてくれているのだと、グレースは理解していた。


 またしてもマテオがうーん、と唸って腕を組むと、天井を睨みつけ、なにやら考えはじめる。


 ローズは落ち着いた表情で、マテオの言葉を静かに待っている。


 リリスは憮然とした表情を隠しもしない。


「……グレースが決めたことなら尊重しよう。

 殿下を救うことで、王室に恩を売ることもできるしな」


 マテオがにやりと唇をつり上げる。


「もう、お父様ったら……。

 わたしは見返りは望んでいません」


 グレースが呆れ返ってマテオにきっぱりと言い放つ。


「そうは言うけどな、グレース。

 王子殿下を救ったとなれば、相応の褒美がもらえる可能性だってあるぞ。

 うちは田舎の領地だが、領地を拡大するのも夢ではない」


「お父様が領地を拡大したいだなんて、はじめて聞きました」


「はじめて言ったからな。

 まあ、褒美を目的にするわけではないが、可能性としてはないわけではない、ということだ」


「では、快諾していただいたと思っても?」


「ああ、お前が能力を余すことなく王国のために使いたいと願うなら、協力するのが親の役目だ。

 先方に連絡しておこう」


「はい」


 グレースは屈託なくはにかんだ。



 王城は、ストランド王国の中央に位置し、王都には人口の半分ほどが住んでいる。


 王都は王国で最も繁栄している都であり、貿易拠点や政治の中枢が集中しているので国内外の人の行き来も盛んで活気に満ちている。


 そんな王都へはアッシュトン領から馬車で2時間ほどで着く。


 王都は石畳が規則的に敷き詰められていたので、馬車の揺れも抑えられて、森を通り抜ける際、悪路に酔ってしまったグレースには大変ありがたかった。


 しかし、グレースの顔色を青ざめさせているのは、悪路で揺られつづけたことだけが理由ではなかった。


 今日の朝、王城から迎えの馬車がアッシュトン家にやってきた。


 そして、使者はこう言ったのだ。


『このたびは、ご婚約おめでとうございます。

 殿下も、グレース様を首を長くしてお待ちしております』


 と。


 王城を訪問するにあたって、失礼にならない程度にドレスアップしたグレースと屋敷の前で使者を迎えたマテオは、使者の言葉に目を丸くした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 『おめでとうございます』?

 うちの娘は殿下との婚約を受け入れたわけじゃないぞ」


 焦って早口になるマテオを見た使者が今度は目を丸くする番だった。


「私は……殿下とグレース様の婚姻が成立したとお聞きしてこうしてお迎えにあがった次第なのですが……」


 ブラウンの革のベストに、しわひとつないスボンを身に着けた、まだ年若い少年使者は、庭先に停められている馬車とグレースとマテオを交互に見回して困惑しきりだ。


「どういうことだ、なぜそんな話になる!

 グレースは殿下の治癒のために王城へ行く、と伝えたはずだ!」


「ぼ、僕に言われましても……」


「そ、そうよ、お父様、彼を責めるのは違うわ」


 グレースは自身も戸惑いを隠せないままなんとか父をなだめる。


「と、とにかく、グレース様に王城にきていただかないと、僕が怒られてしまうので……」


 少年使者はいまにも泣き出しそうだ。


 そんな彼が不憫で、グレースは「お約束を破ることは失礼よ」と父の説得にかかる。


「事情を説明すればわかっていただけるでしょうし……。

 なにより彼が可哀想よ。

 彼にはなんの責任もないのだから」


「グレース様……」


 使者は涙目ですがりつくようにグレースを見つめている。


「遅れるわけにはいかないわ、行きましょう」


 グレースは傍らのボストンバッグに手を伸ばす。


「あ、お運びいたします!」


 ごしごしと涙を拭った使者が慌ててグレースの手からバッグを奪い取る。


 日帰りのつもりで用意した荷物なので、必要最低限のものしか入っていない。


 使者は健気に荷物を積み込む作業を終えると、グレースとマテオを馬車へと乗せる。


 やがてグレースを乗せた馬車は小気味よい馬の足音を響かせながら王都へと出発したのだった。


 車窓を流れる風景がのどかな自然溢れる緑から徐々に人里へと変わり、やがて建物が増えはじめる。


 王都へ近づくにつれ、グレースの胸にはざわざわとした不安が渦巻き出す。


 この数日の間、クラスメイトたちに聞かされたセバスチャンに関する真偽不明な、おそらく大胆に脚色されているであろう噂が頭の中で再生され、グレースの心中は穏やかではない。


──なんでも、獣みたいな見た目の大男なんだって。


──気に入らない人間を笑いながら殺すらしいよ。


──王城の地下には、王子が殺した死体が隠されてるんだって。

 あ、もちろん、ひとりやふたりじゃないよ?


──女の人を鍋で煮て食べるんだって。

 逃げ出せた婚約者は、まだ幸運だった、なんて言われてる。


 もちろん、クラスメイトが意地悪でそんなことを言ったのではなく、王子との縁談に反対する友人たちがグレースを説得するために使った脅し文句に過ぎなかったのだろう。


 鋭い目つきの大柄な男が鎌を持って嗜虐的に嗤っている──。


 妄想の産物に過ぎない『世にも恐ろしい王子像』がやけにリアリティを伴ってグレースの頭の中で具体的になっていく。


 ぶるりとグレースは身体を震わせた。

 

 自分で想像しておいて、自分が最も恐ろしく感じる『化け物のような王子様』を生み出したのだから、失笑ものではある。


 が、不安に絡め取られたグレースの中で、悪い想像が止め処なく広がりつづける。


 同時に、恐ろしい想像も色彩を鮮やかに迫ってくる。


 王都に着くころには、グレースはいまにも倒れそうになっていた。


 馬車は石畳の上を軽快に進み、街を闊歩する人々のファッションや建物の外観は洗練されている。


 アッシュトン領では見たこともない高層の建物が密集していて、見上げる空が狭く感じるほどだ。


 人混みと喧騒を縫うように馬車は王都の中心、王城へと到着した。


 どこまでも高く伸びる石造りの尖頭アーチがいくつもそびえる白亜の王城は、アッシュトン家の10倍も20倍もの巨大さを誇る美しいの一言では片付けられないほどの迫力ある建築物だった。


「どうぞ、こちらへ」


 グレースの荷物を抱えた使者に先導され王城へと足を踏み入れる。


 天から降り注ぐ太陽光が、巨大なステンドグラスを透過して輝く宝石のような七色の光りが城内を満たしている。


 神々しく神聖な城内の雰囲気にグレースとマテオは緊張を隠せない。


 廊下には一歩進むたびに沈み込む柔らかいカーペットが敷かれ、甲冑や陶器、絵画などがところどころに飾られている。


 すべて、著名な芸術家が献上したものだ。


 物珍しさにきょろきょろしながら歩いていると、少年使者が振り向いて眉尻を下げながら告げた。


「申し訳ありません、国王ご夫妻は公務のため不在にしております」


 その言葉にマテオが顔をしかめる。


「仮にも殿下の『婚約者』がはるばるやってきたのに、か?」


 使者は縮こまりながら頭を下げる。


「もともと予定されていた公務ですから……。

 本当に、申し訳ありません」


「婚約者を迎えにいく日付けくらいわかっていそうなものだがな」


 マテオはさらに不機嫌全開の渋面を作って少年相手に不満を漏らしつづける。


 往来でマテオに頭を下げる少年使者の横を通り過ぎながら、メイド数人がグレースへ目を留め、くすくすと笑い声をあげた。


「見て、新しい婚約者様よ」


「もう何人目かしら。

 国王ご夫妻は、すっかり息子の婚約者に興味がないのね。

 不在の間に王城に呼び出すなんて」


「あんな呪われた息子ですもの、持て余すのも当然だわ。

 婚約者だなんて、物好きな人もいるものね。

 そんなに王妃という肩書きは魅力的なのかしら」


 やめなさいよ、とメイドのひとりが笑みを堪えながら他のメイドをたしなめる。


 小声でささやき合いながらメイドの集団は通り過ぎていった。


 グレースはうつむいて、赤面していた。


──呪われた息子。


 その言葉自体は、グレースの不安を煽りはしたが、グレースが赤面した原因はそのつぎの言葉だった。


──『王妃』という立場が欲しい強欲な女に見られているんだ、わたし。


「グレース、堂々としていなさい。

 お前は婚約者ではない。

 殿下を癒やしたいというお前の志しは崇高なものだ、毅然とした態度でいるんだ」


 マテオの凛とした口調にグレースは小さくうなずいて、使者の少年について歩きはじめた。


 気を抜けば迷子になってしまいそうな迷宮を進みつづけると、渦巻き模様の意匠が彫られた重厚な木製の扉を開いた少年に中へ入るよう言われた。


 革張りのソファセットが中央にあり、出窓には花瓶に薔薇が活けられ、壁には黄金の額縁に彩られた風景画が飾られている。


「こちらでお待ちください。

 セバスチャン殿下をお呼びしてまいります」


 少年使者は深々と頭を下げると、いそいそと退出してしまった。


 ソファにどすんと座ったマテオは、大げさな溜め息をつきながら室内を見回した。


「広いには広いが……。

 なにもない部屋だな。

 我が家のほうがよっぽど豪奢で、しかし嫌味にならない品の良い装飾の客間で客人をもてなすことができる。

 客人を招いておきながら待たせるなどもってのほかだ。

 まったく、一国の主のやることにしてはお粗末の一言に尽きるな」


「……お父様……」


 マテオの隣に浅く腰かけたグレースが愚痴が止まらない父に呆れていると、扉がノックされ、盆を片手に持ったメイドが入ってきて、ガラスのローテーブルに湯気を立てる紅茶を置くと、一礼して去っていく。


 こちらもあちらも無言だ。


 確かに、この城にいる人間に愛想というものはないらしい。


 それから、待たされることしばし。


 マテオが廊下に出て誰彼構わずクレームを入れようと立ち上がりかけたのをグレースが必死に引き留めていたときだった。


 軽く扉がノックされたかと思うとゆっくりと開いていき、人影が入ってきた。


 出窓から差し込む太陽光を浴びてあらわになった人影の相貌に、グレースは息を呑む。


 長身の──男性だった。


 すぐにそうであると判断できなかったのは、男性がグレースに負けず劣らずの長い髪をしていたからだ。


 そして、その長い髪はグレースやリリスと同じ銀髪で、光りを弾いて輝いている。


 きらびやかな王子様然とした衣装ではあるが、なんだか歌劇にでも登場しそうな『いかにも王子様が着そうな衣装』であり、過度な着飾りように、グレースは違和感を抱いた。


 まるで着慣れていない。


 子どもが記念撮影するために貸衣裳を着せられているかのような──。


 長身の上に極端に細い体躯、衣装に着られてしまっている男性は、その美しく整った顔立ちと神々しい銀髪から儚げな雰囲気を漂わせている。


 ガラスのように繊細で、グレースの指でも触れたら壊れてしまいそうなほどの不安定な透明感が感じられる。


「はじめまして、セバスチャン・ストランドと申します」


 男性──セバスチャンは腰を折って一礼した。


 想像より、高い声だった。


 変声期直後でまだ安定していない少年期のようだ。


 それでも、王城までの道のりでグレースの中に生まれてしまった『獣のような恐ろしい王子様』像はがらがらと音を立てて崩れていった。


 目の前のセバスチャンは、輝くような美貌を誇る美青年であった。


 話せばわかってくれる人かもしれない──。


 そんな期待をグレースが抱いた直後、セバスチャンが冷たく言い放った。


「私は誰とも婚姻を結ぶつもりはありません。

 ご足労ですが、お引き取りいただきたい」


 マテオがこめかみに青筋を立てて立ち上がる。


 そのマテオの仕草に、セバスチャンの瞳に怯えの色が走った一瞬をグレースは見逃さなかった。


──なんだか、おかしい。


 セバスチャンの言葉は、まるで借り物のようで、子どもが大人の口調を無理やり真似ているような、子どもが背伸びして大人の振りをしているような、しっくりこない齟齬を感じるのだ。


「殿下、失礼ながら……」


 マテオがセバスチャンに声を荒らげようとしたそのとき──。


「顔合わせは終わりましたか、セバスチャン様。

 では、お戻りいただきます」


 セバスチャンが閉めたばかりの扉が無遠慮に開かれ、長い髪をひとつに束ねた白衣の中年男性が姿を現すと、無礼にもセバスチャンの腕を引いた。


「どこへ行くおつもりですか」


 マテオが慌ててセバスチャンを引き留める。


「話は終わりました。

 帰ってください」


 セバスチャンの口調が丁寧なものながら、きっぱりと拒絶を含む響きに変わった。


「待ってください!

 殿下、やはりお身体が悪いのですか?

 わたしなら、殿下の病を治癒できるかも……」


「帰れと言っているのです!」


 グレースの言葉をセバスチャンが強い口調で遮った。


 すると、白衣の男性がぞっとするほど底冷えする笑顔を浮かべて言う。


「婚約者殿を追い返したいのなら、彼女にあなたの普段の姿をみせてはいかかですか、セバスチャン様」


 セバスチャンがぐっと唇を噛んだ。


 無言で部屋から出ていこうとする。


「ええと、あなた、お名前はなんですかな」


 蛇のような目つきで白衣の男性はグレースの全身に視線を這わせる。


 グレースは嫌悪感を抱きながらも、「グレース・アッシュトンと申します」と淑女の礼をした。


 しかし白衣の男はグレースのそんな挨拶など目もくれず、「ついてきなさい」と命令口調で指示を出すと、さっさとセバスチャンを連れて廊下へと出ようとする。


 そして、くるりと振り返ると、「ああ、婚約者殿だけです」と付け加え、マテオを部屋に足止めする。


 マテオは憮然としていたが、グレースは「いってきます」と小声で声をかけ、白衣の男とセバスチャンのあとを追った。


 意匠が凝らされた王城の廊下を何回か曲がると、突き当たりに金属製の扉が現れた。


 なんの装飾もない、無骨でシンプルで見るからに頑丈な扉である。


 その扉を軋ませながら開けると、白衣の男はセバスチャンとグレースを迎え入れる。


 扉の向こうには、地下へつづく階段があった。


──王子が殺した死体が地下にあるんだって。


 ふとそんな物騒な噂話が脳裏を過ぎる。


──まさかね。


 グレースの心臓がにわかに早鐘を打つ。 


 絨毯も敷かれていない石造りの質素な階段を下りていくと、今度は透明な扉が現れた。


 白衣の男が電子機器に手のひらを当てると、ぴぴっと軽快な電子音がして透明な扉がすっと音もなくスライドした。


 セバスチャンにつづき、グレースも扉を潜る。


 つん、と薬品の匂いが鼻を刺激した。


 目の前に広がるのは、白一色に統一された『病院』に似た光景であった。


 白衣を着た男性たちが忙しそうに立ち働き、モニタが並ぶ部屋や実験室のような部屋が透明な扉で細かく仕切られている。


「……これは?」


 戸惑うグレースの疑問の声は黙殺される。


 クラシカルな装飾の王城の地下には到底似つかわしくない『病院』──ではない、『研究所』が存在していた。


「セバスチャン様、お着替えを」


 白衣の男に促され、セバスチャンがパーテーションの裏に消えていく。


 顕微鏡を覗く者、パソコンのキーボードを叩く者、試験管を観察している者、電子機器の調子を調べている者、書類に向かってペンを走らせる者、青い作業着姿で黙々と床にモップをかける者──。


 広々した空間にはさまざまな仕事に追われる白衣の男たちの姿があった。


 その中の誰も、グレースを見ようと顔をあげることはない。


──これは、なんなの? 


 グレースが棒立ちになっていると、病院着のような薄い服を身に着けたセバスチャンがグレースの前に姿を見せた。


 華美な装飾のついた衣装を脱いだセバスチャンは、折れてしまいそうなほど華奢で長い手足は年頃の女の子より細いくらいだ。


 白に統一された空間でまじまじと見ると、セバスチャンの顔色は紙よりも白い。


 生まれてこの方、太陽の日差しを浴びたことがない、と言われても納得してしまいそうな病的な白さで見るからに不健康そのものである。


 セバスチャンは無表情だったが、一瞬、ほんの刹那の間だけ、グレースに目を向けた。


 捨てられた子猫のような、寂しさを物語るような、でもなにもかもを諦めたような様々な感情が入り乱れた感情を湛えた瞳だった。


 グレースの鼓動が走る。


 セバスチャンのその瞳は、グレースの動揺を誘った。


「……あ、あの、殿下……。

 やはり、お身体が悪いのですか……?」


 ふらふらとセバスチャンに近づいたグレースに、先ほどの白衣の男が嘲笑うような含み笑いをしながら説明する。


「婚約者殿、ではご覧に入れましょう。

 セバスチャン様の正体を」


 白衣の男が大仰に両手を広げてみせる。


 舞台役者のごとき、誇張したわざとらしさだ。


「セバスチャン様の呪われた姿を見て逃げ出した婚約者殿は数しれず。

 婚約者殿、とくとご覧になるといい。

 あなたが結婚しようとしているセバスチャン様が、どんな人間なのかを」


 


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