ダブルベッド上の戦い
知らない天井だ。
露天風呂でのぼせて眠ってしまったボクの意識がゆるゆると覚醒していく。
ボクは都立商業高校・副業部の新入部員。心身ともに健康な男子高校生。このところ出番はすくないけれど主人公らしい。
なんだけど・・・。
「なんじゃこりゃあ!!」
濡れていた。ボクの股間がぐっしょりと濡れていた。お風呂でのぼせて着せてもらったガウンだろう。その白いガウンの股間がびっしょりだった。
「高校生にもなってお漏らしとは」
さすがに落ち込む。探偵物語の主人公も最終回はこんな気持ちだったのかもしれない。救いは分厚いガウンが水分を吸い取り、ベッドまで汚さなかったことか。
ガチャ
「なんてもの掴ませるのよ!」
「パイセンが握ったんじゃないですか!」
「こよりちゃん、アタシも握っていいかな」
「「ダメに決まってるでしょ!」」
女三人よれば姦しい。騒がしい集団が部屋に入ってきた。喧嘩をしているというよりじゃれあっているようだ。
「おはようございます」
ボクの声にパイセンが足を止める。まさかボクが起きているとは思わなかったのだろう。
ハラリ
パイセンの体に巻いていた白いバスタオルが床に落ちる。一糸乱れぬ裸身がボクの脳に焼きついた。
「きゃあああ」
「お兄ちゃん、見ちゃダメ!!」
「おお、ここで熱烈アピールとは。やるな妹よ」
ボクにはラッキースケベの才能があることに気づいた十六歳の夏だった。
あと股間が濡れていたのは、こよりの目を覚まさせるためにパイセンがぶっかけた水なので誤解しないでほしい。
「弟のこよりです」
「弟でーす!」
悪びれもせず張本人であるこよりはボクの隣で自己紹介した。ボクら兄弟の前に座るのは彼女でもあるパイセンとそのお姉さん。
どうやらボクは三人に好かれているらしい。きっといま人生のモテ期を使い切っているのだろう。
「なんてこと。女にしか見えない」
「芸能人レベルの美少女で無毛かつマグナム持ちか。なんて逸材だ」
「それはもういいでしょ!」
いや歌舞伎町なら即ナンバーワンだぞ。なんならアタシが囲ってもいい。
ブツブツと姉が隣で物騒なことを呟いている。アナタ、弟でなく兄が欲しかったのではなくて。
「黙っていて申し訳ありませんでした」
「ごめんなさい」
兄弟が頭を下げる。彼から「こよりのことで話があります」メッセージはこのことだったのか。
「もういいわ。誰も悪くないことよ」
「そうだな。勘違いしたアタシ達が悪い」
「パイセン。店長」
「そうそう誰も悪くないよねー」
「いや、お前はもう少し自重しろ」
「高校生を拉致った姉さんもね」
「「はーい」」
姉とこよりちゃんの声が重なる。この二人、連帯感が凄い。もう付き合っちゃえばいいのに。そうすればすべてが丸く収まる。
わたしと後輩くん。
こよりちゃんと姉。
あぶれた百合ちゃんは暴れるだろうけれど。それは仕方ない。恋愛は弾かれた者の負けなのだから。
「ふぁ」
「眠いのか、こより」
「うんボク眠いや」
時計を見るとすでに深夜零時を過ぎていた。
「もう遅い。みんな泊まっていきなさい」
「そうさせてもらうわ」
どのみち姉とこの兄弟を一緒にはしておけない。なにしろ男の味を知って五年も放置プレイされた女。コルトパイソンとマグナム44を前にして大人しくしているとは思えなかった。
「ところで・・・」
このセリフが戦闘開始の合図になった。
「弟のボクはお兄ちゃんの右隣ねー」
さすが恋愛ガチ勢。判断が早い。家族だし止める権利もない。性別がバレてすぐに弟の権限を使う。こより、恐ろしい子。
そうなると残るは一枠。彼の左隣だ。姉をみつめる。残る恋敵はこの人だけだ。
「彼の隣にどうぞ。彼女なんだから」
「姉さん。ありがとう」
「どういたしまして」
「あのう、ちなみにボクの自由は」
「ないわ」
「あるわけないだろ」
「ないねー」
ですよねー。もう覚悟を決めるしかない。
ボクは今夜、この三人と寝る。一緒に。
戦いの火蓋は切っておとされた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
今でも脳裏に焼き付いている。
露天風呂で目の当たりにしたこよりちゃんのマグナム44が。
端的に言えば男性器だ。
わたしは店長。パイセンの姉。飲食店チェーンのオーナーと結婚して二年後には未亡人になった二十五歳。
なんだあの大きさは。愛は比べるものではない。そんなことはわかっている。しかし、わたしはあまりにも経験が少なかった。
経験人数は死んだ旦那ひとり。だからすべての基準は旦那だった。一生を旦那ひとりで過ごせたのならよかったのに、あの人はたった二年で旅立ってしまった。
二本目を見たのもようやく今日。露天風呂でオタクくんに迫ったときにしっかりと見た。のぼせて眠ってしまった彼にガウンを着せるときもガン見した。少しイタズラしちゃったのはここだけの秘密よ。
彼はコルトパイソンだった。
それさえもショックだった。なぜなら死んだ旦那はニューナンブ。拳銃の世界では豆鉄砲とも呼ばれている"小さいピストル"だ。
なんてこと。もしかしたらわたしは人生を損しているのかもしれない。そのことに気がついてしまった。
夕食時に飲んだ日本酒のアルコールが脳のリミッターを外していた。
味わってみたい。
朝まで六時間。まだ時間はたっぷりあった。
はい異世界シニアです。
とうとうこよりのビッグマグナムが登場しました。
よく男性が女性の胸部で論争をします。大きいほうが偉い、小さくても価値があるみたいに。
まるで住宅が持ち家のほうがいい、賃貸のほうがいいみたいな不毛な争いだと思うのです。わたし。
少しズレましたね。
時は深夜零時。よい子は寝る時間となりました。登場人物の四人もとうぜん眠ります。
戦闘配置は
こ兄パ姉
よ イ
り セ
ン
となります。
次回サイドジョブ。思惑うずまく。
さぁて、どう戦いぬくかな。




