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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第9話:限界の決壊と、玄関前の告白


野崎「……優先するべき順番が、まだ自分の中で掴めていなくて……」


必死に言葉を絞り出す野崎に対し、チーフは鼻で笑って一蹴した。


チーフ「優先するべきってさぁ。みんなはその段階で全部終わってるんだよね。単に野崎さんが遅いだけなのさ」

野崎「……すみません」


手順もろくに教えてくれない。何を優先するべきなのかの基準も示してくれない。これ以上、一体何を聞けというのだろうか。

遅い、遅いと連呼されるが、まともに教育もされず、おばさんたちの動きを盗み見て覚えるしかないのだから、一歩出遅れるのは当たり前だ。まだ、現場に入ってたったの2週間なのだから。


チーフ「今のスピードだとさ、夏になったら仕事終わらないし。本当に他の人の迷惑になるから」


配属されてから今日までの短い日数の中で、一体何度「迷惑」という刃を突き立てられただろう。私にここにいてほしくないという態度が、あまりにも分かりやすすぎて吐き気がする。


チーフ「ミーティングの時も全然質問してこないし。時々、業務と違うことは聞いてくるけど……そういうのも仕事として心配なんだよねぇ」


――散々聞いていただろ。

「やり方を教えてほしい」と頭を下げたはずだ。じゃがいもの芽取りのやり方だって、先輩の真似をしていたら「やり方が違う!」と怒鳴るだけで、正しい手つきを教えてくれなかったのはどこの誰だ。


よくもまあ、そんな出鱈目な口が叩けたものだ。その薄汚い唇を今すぐ一針一針縫い付けて、ミッフィーちゃんにしてやろうか。


チーフ「下処理とか、業務内容は大丈夫なの? 覚えたわけ?」


ここで迂闊に「大丈夫です」と答えれば、これまでの傾向からして、今度は「新人のくせに驕っている」「舐めている」と叩かれるに決まっている。そう防衛本能が働き、野崎は言葉を濁した。


野崎「大体は、理解できています……」

チーフ「大体っておかしくない?? 気付いてる?? 大体って言う時点でおかしいよね!?」


揚げ足を取ったチーフが、ここぞとばかりに声を荒らげる。

どう答えたら、この化け物は満足するのだろう。

質問をすれば「マニュアル見た? 見たら分かると思うんだけど」と冷たくあしらわれ、聞かなければ「聞いてこないけどどうなってんの?」とネチネチ責め立てられる。答える気もないくせに、質問されたがるな。


チーフ「会話には入ってこない〜。質問してこない〜。斜視だから人の目も見れない〜。……ねぇ、ぶっちゃけ迷惑だよ?」


脳内で、プチッと何かが鋭く弾け飛ぶ音がした。


(あぁ、ダメだ。もう、無理だ……)


この人は、私を徹底的にこの職場から追い出したいのだ。ただ純粋に、私を傷付けたくてたまらないのだと、その底割れた悪意を完全に理解してしまった。


ここで泣いてはいけない。絶対に泣くな。

今ここで涙を流したら、この女を喜ばせるだけだ。そんなこと、死んでもさせてたまるか。

野崎は人生の最後の気力を振り絞るようにして、真顔のまま声を押し出した。


野崎「……すみません」

チーフ「ほんとさ〜、チームの輪を乱さないでほしいわ。美味しい給食、作れないよ?」


(――お前がいる限り、どこの学校だって美味しい給食なんか作れるわけねぇだろ)


やがて休憩室に他の調理員たちが戻ってくると、チーフは不自然に会話を打ち切った。

もういい。限界だった。

退勤の時間になるまで、チーフから浴びせられた言葉が呪詛のように頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。


『迷惑』『迷惑』『迷惑』――。


私の存在は、ここにいてはいけない迷惑なものなのだ。

私はただ、子どもたちに美味しい給食を作りたかっただけなのに。自分が小学生や中学生だった頃、毎日楽しみにしていたあの輝かしい給食の時間を、今度は自分が支えてあげたかっただけなのに。

私がいたら、美味しい給食が作れないらしい。


     *


トボトボと歩き、ようやく我が家の前にたどり着いた。

けれど、どうしても玄関のドアが開けられなかった。家に入って、家族の顔を見て、いつものように無理やり笑顔を作ることが、どうしてもできなかった。


一気に涙が溢れ出してきた。完全に、限界だった。

みんなに申し訳なかった。1ヶ月も経たないうちに「辞めたい」と心を折られている自分が、情けなくて、惨めで仕方がなかった。

野崎はその場に崩れ落ち、激しくしゃがみ込んだまま、声を殺して泣き続けた。就職祝いのバッグをくれた時の、あの嬉しそうな家族の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。


(私、みんなの期待を裏切っちゃった……。家族に合わせる顔がないよ……)


涙が止まらない。いっそのこと、このまま消えてしまいたかった。

外で不審な気配がするのを察したのか、ガチャリと玄関の扉が開き、母親が外にいる野崎を発見した。


母親「ちょっと、どうしたの!? 何があったの!?」

野崎「……う、ううっ……!」


母親の悲痛な声を聞きつけ、奥から父親も血相を変えて駆けつけてくる。


父親「どうしたんだ一体!! 立てるか、おい!?」

野崎「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……!!」


足に力が入らず、立ち上がることすらできない。顔を上げることもできず、溢れ出る涙で視界はぐしゃぐしゃに歪んでいた。

野崎は両親に抱きかかえられるようにして、引きずられながら、あたたかい玄関の中へと連れ戻された。


母親「ねぇ、何があったの? 大丈夫だから、ね?」

父親「何があったんだ!? 言ってみろ!」


泣きじゃくる娘の姿に、両親の狼狽した声が響いていた。


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