表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/20

第7話:裏目に出たSOSと、監獄のダブルスタンダード


朝の厨房は、大抵「野菜の下処理」からスタートする。

下処理用のシンクは3個並んでおり、1個目で大雑把に泥や汚れを落とし、2個目でザックリと状態を見ながら傷んでいるものを弾き、3個目で徹底的に汚れや異物を仕分ける、という流れだ。


実は給食業界には、国語辞典よりも分厚い、恐ろしく緻密なマニュアルが存在する。

正直、最初からすべてを丸暗記することなんて到底不可能だ。


チーフの口癖は、決まって「マニュアルを遵守して動いて」だった。

けれど、文章の羅列を目で追うよりも、長年現場にいる先輩調理員が実際にやっている動きをそのまま真似する方が、よっぽどスムーズに頭に入る。


だから野崎は、先輩たちの動きをそっくりそのまま模倣して、一生懸命に作業を終えた。

すると、どこからともなくチーフがトコトコとやってきて、野崎を指差した。


チーフ「野崎さん、マニュアル見た? 1個ずつ丁寧に洗ってよ」


――耳を疑った。

今さっき、私のすぐ隣で全く同じやり方をしていた先輩調理員には、チーフは1ミリも注意しなかった。なのに、なぜか私にだけピンポイントでダメ出しをしてくる。

そして注意された側の先輩も、「あ、私がそう教えてたんです!」などと庇ってくれるはずもなかった。


野崎はいつものように目を伏せ、感情を押し殺した声を出す。

野崎「……すみません」


     *


お昼休憩の直前、清掃の準備をしている時間に、会社のマネージャーが学校へ巡回にやってきた。

野崎はチーフの目を盗むようにして、誰もいない休憩室に呼び出された。


マネージャー「お久しぶりです、野崎さん。どうですか? 現場には慣れましたか?」

野崎「えっと……少しずつですが、慣れてきました……」

マネージャー「何か困っていることや、悩みはありませんか?」


いつも張り詰めていた心の堤防が、その優しい問いかけに少しだけ決壊しそうになる。野崎は意を決して、現状の苦しさを相談してみることにした。


野崎「あの……マニュアルが分厚すぎて、文章だけだと頭で理解するのに時間がかかってしまって。文字で見るより、実際に調理員さんの動きを真似して覚える方が分かりやすいんです」

マネージャー「あー、あのマニュアルねぇ(苦笑)。あれを最初から全部完璧に覚えている人なんて、中々いないと思いますよ」

野崎「そうなんですね……。ただ、先輩調理員さんの動きをそのまま真似して動いても、なぜかチーフにだけダメ出しをされてしまって……。今、どう動けばいいのか分からなくなっている状態なんです」

マネージャー「あー……なるほど。分かりました、僕からもそれとなくチーフに伝えてみますね! 先輩の動きを真似する方が圧倒的に覚えやすいのは当然ですし、野崎さんはそのままで大丈夫ですよ!」


話を親身に聞いてもらえただけで、胸の奥の重荷がすうっと軽くなった気がした。

(これで、少しでも環境が改善されればいいな……)

まだ頑張れる、もう少しここで踏ん張れるかもしれない。マネージャーの言葉を胸に、野崎は小さな希望を抱いた。


――だが、その希望は翌日、最悪の形で打ち砕かれることになる。


     *


翌日のお昼休憩前、案の定、野崎はチーフによって休憩室へと連行された。

扉が閉まった瞬間、チーフの怒気に満ちた声が降ってくる。


チーフ「マネージャーから聞いたんだけどさぁ。あなた、マニュアルが理解できないって……意味が分からないんだけど?」


頭に血が上るのを感じながらも、野崎は必死に声を震わせないよう弁明した。


野崎「文章で見るよりも、実際に職人の先輩たちがやっている現場の動きを見て覚える方が、私にとっては分かりやすくて……」

チーフ「見て覚えるってさぁ。他の人なんて間違ってるやり方が多いんだから、あなたはマニュアル100%で覚えてくれる!?」


マニュアルが100%正義なのは理解できる。学校給食なのだから、当たり前だ。

けれど、文章だけでは実際のイメージがつかないからこそ、先輩から教えられた通りに行動しているのだ。それなのに、なぜ「私だけ」が怒られなければならないのか。


他のベテランおばさんたちは、マニュアルと違う行動をしていてもお咎めなし。

新人の私だけが、一寸の狂いもない「マニュアル100%」の完璧な動きをしないとヒステリックに糾弾される。

これのどこが平等だというのか。あまりにも理不尽なダブルスタンダードだった。


チーフ「だいたいさぁ、相変わらずお昼休憩も全然会話に入ってこないしさー」


(……こっちだって言いたいわ!!)

相変わらず、おばさんたちの会話の引き出しは「昨年辞めた人の悪口」か「主婦の身内ネタ」ばかり。

新人の私から歩み寄ることも大切かもしれない。けれど、大人なんだから、少しは会話の糸口としてチーフから話を振ってくれたっていいはずだ。

普段は野崎を空気のように冷遇して透明人間扱いしてくるくせに、「会話に入ってこい」などと無理難題ばかりを押し付けてくる。


その時、お昼休憩のために他の調理員たちがガチャリと休憩室に入ってきた。

するとチーフは、不自然なほどピタッと説教を終了し、何事もなかったかのように営業スマイルを浮かべた。


(……自分でもモラハラをしてる自覚、ちゃんとあるんでしょう?)


ずるいやつ。

せこいやつ。


マネージャーに勇気を出して相談した結果は、ただの「告げ口」としてチーフに筒抜けになり、状況は良くなるどころか、さらに風当たりが強くなるという最悪の結末を迎えた。


休憩の終わり際、チーフが全体に向けて声をかける。

チーフ「28日は子学校しか給食がないから、3人有給でお休みしていいよ〜」


給食業界には、自分の学校の分だけを作る「単独校」と、施設のない他校の分まで合わせて作る「親子校」の2種類がある。

単独校は調理人数が5人ほどと少なくて現場は大変だが、学校行事で給食がない日は丸々公休になる。

対して、野崎のいる親子校は、2つの学校の給食なし(行事)の日が完全に重ならない限り、公休にはならない。その代わり、片方の学校がお休みの日は、こうして数人が有給を取って休める仕組みになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ