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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第5話:孤独な40分


お昼休憩は、13時から13時40分までの40分間。

給食を食べ終わると、休憩室にはおばさんたちの賑やかなお喋りが響き渡る。

――私以外の、全員で。


話の内容は、主に子育ての愚痴や、昔の俳優、昔のドラマの話ばかり。

子育てなんて経験していないから話題に入れないし、その俳優の名前も聞いたことがなければ、そんな昔のドラマのタイトルだって知りもしない。


(本当は、スマホをいじってゲームでもしてたいな……)


けれど、新人の身でそんなことができるわけもない。野崎は40分間、狭い休憩室でひたすら正座をし、全く分からない会話に対して、引き攣った笑顔で相槌を打ち続けるしかなかった。


労働基準法では本来60分あるはずの休憩時間だが、この業界は40分取れれば良い方で、メニュー次第では20分に縮まることすらある。

けれど、野崎にとってこの針のむしろのような休憩時間は、40分でも気が遠くなるほど長かった。


そんな時に考えるのは、決まって家族のことだ。

(早く家に帰りたいな。あの安心できる場所に、今すぐ逃げ込みたい……)

時計の針をじっと見つめながら、ようやく地獄のお昼休憩が終わる。


     *


午後の業務は、食器、食具、食缶の洗浄作業だ。

学校給食の食器には、大皿、小皿、茶碗、カップ、どんぶりの5種類があり、その中からメニューに合わせて毎日3種類が使用される。


野崎が配属された学校は、自校(親学校)だけでなく、給食施設のない他校(子学校)の分も合わせて、毎日約1200人分の給食を作っていた。

つまり、1200人×3種類で、合計『3600枚』の食器を、人力で一気に洗わなければならない。とてつもない重労働だ。


本来なら、この過酷な食器洗浄は毎日全員で交代しながら回す決まりになっている。

それなのに――なぜか毎日、野崎が担当させられていた。


「野崎さんは若いからねぇ」

「私たちはもう腰が痛くて無理だからさぁ」


そんな時だけ、おばさんたちは自分たちを弱々しく見せる。

(面の皮が厚いおばさん達……。その分厚い面の皮、この食器と一緒に洗剤で丸洗いしてやろうか)

山積みの食器を前に、野崎は何度も心の中で毒づいた。


給食の食器はすべて瀬戸物でできているため、ほんの少しの衝撃で簡単に欠けてしまう。

3600枚すべてに汚れが残っていないか、ヒビや欠けがないかを、野崎が1人でチェックしながら猛スピードで洗わなければならない。だが、どう考えても3600枚すべてを完璧に見切るなど不可能だった。


だから、次の日に「食器に汚れがある」「欠けている」と見つかれば、すべて野崎の責任にされた。

洗った次の工程で食洗機に通す人も、それを受け取る人もいるはずなのに。


新人で、一番立場の弱い生贄だから、すべての罪を擦り付けられる。

理不尽な泥を泥水ですすぐような食器洗浄が終わり、施設の清掃をして、ようやく一日の業務が終了する。


その帰り際、チーフがすっと野崎に近づいてきた。

――またか。心臓が嫌な音を立てる。


チーフ「野崎さん、ちょっと」


誰もいない休憩室へ連行されると、チーフは不満げに腕を組んで切り出した。


チーフ「野崎さんさぁ。休憩中、全然喋らないけど。なんで?」

野崎「すみません……喋ろうとは思っているんですけど、分からない話題が多くて……相槌を打つので精一杯で……」

チーフ「普通さぁ? 分からないなりに、グイグイ話に入ってくるよねぇ?」

野崎「……すみません」


(――20歳になったばかりの私が、自分より20歳も30歳も年上の集団に、グイグイ話しかけられるわけないだろ)

そりゃあ、世渡り上手でコミュニケーション能力が化け物級に高い人ならできるのかもしれない。


でも、私はあなたたちが話している「子育ての苦労」の、まさに子ども側の年齢なのだ。

つい5年前まで中学生だった私に、親の苦労なんてまだ分かるわけがない。

昔の俳優だって、両親がたまたま好きな人しか知らない。一体どこまで予習してくれば満足するのだろう。テストなら範囲があるけれど、おばさんたちの雑談の範囲なんて無限大だ。


少しくらい、私の方に話を振ってくれたっていいじゃないか。

「最近はどんな俳優が好きなの?」とか「趣味は何?」とか、そんな簡単な質問でいいから、聞いてほしかった。


新人の私がいきなり「私はこの俳優が好きで、趣味はこうで!」なんて自分から語り出したら、それこそ空気の読めない奴だと叩くくせに。


会話のキャッチボールという言葉を知っているのだろうか。

野崎は、誰もいないマウンドで、ずっと一人でグローブを握り締めている。


(誰か、ボールを投げてよ。一回でいいんだよ。そこから頑張って広げるから……。お願いだから、誰か私の存在を認めてよ……!)


声を大にして叫びたい胸の内の悲鳴を、野崎は必死に喉の奥へと飲み込んだ。


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