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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第48話:バージンロードの先と、愛する場所への恩返し


挙式が終わり、退場するやいなや、私はドレスの裾を翻してすぐに調理員さんたちの元へと駆け寄った。


女チーフ「披露宴には出られないんだけど、でもやっぱり、どうしてもみんなで直接お祝いしてあげたくて来ちゃった!」

調理員①「ちょっと〜、旦那さん入場した時からすでに号泣してたじゃないの〜! すっごく良い式だったよ、本当におめでとう!」

調理員②「こんな形になってしまいましたけど、ちゃんとお祝い出来て本当に良かったですー!」


聞けば、あの最強のサブチーフは、運悪くコロナワクチンの副反応による高熱を出してしまってどうしても来られなかったらしい。けれど、お祝いのプレゼントとお手紙をしっかりとチーフに託してくれていた。


前のクソチーフがいた学校では天地がひっくり返っても考えられなかった、「会社の人たちを自分の家族に紹介したい」という温かい気持ち。

私はその場で自分の母親の手を引っ張って連れてきて、みんなのことを誇らしく紹介した。


水口「お母さん、こちらの皆さんが、いつも職場で本当にお世話になっている……私の大好きな調理員さんたちだよ」


私が前の学校のチーフに理不尽にいじめられ、心も身体もボロボロにされて、一時期は抜け殻のようになっていた姿を一番近くで見ていた母親。その苦しみを誰よりも忘れられずにいた母に、今の私はこんなに素敵な人たちに囲まれて幸せなんだよと、どうしても見せて安心させてあげたかった。

みんな、すっっっごく私のことを娘のように可愛がってくれて、仕事でもプライベートでもいつも助けてくれる最高の仲間なのだと。


ドレスアップした調理員さんたちの温かい笑顔を見て、母親も張り詰めていたものが解けたように、ようやく心から安心した表情を浮かべた。


母親「娘がいつも本当にお世話になっております。本日は娘のために、このような状況の中でわざわざ足を運んでくださり、本当にありがとうございます。皆さんのおかげで、娘にようやく元気が戻りました。本当に、本当にありがとうございます……」


私の大好きな家族と、大好きな職場の仲間たちしかいない、優しさに満ち溢れた空間。

嬉しさと感動がキャパシティを超えてしまい、やっぱり私は涙が止まらなくなってしまった。



感動の結婚式も無事に終わり、式休暇が明けて次に私が出勤したその日から、給食室での私の「呼び方」がガラリと変わった。


結婚して苗字が変わったから、みんなで「結婚式の次の日からは、絶対に新しい苗字で呼ぼうね!」と事前に話し合って決めてくれていたらしい。

けれど、さすがに4年近くもずっと旧姓の「野崎さん」で呼ばれていたため、最初のうちはみんな、息をするように間違えて旧姓を呼んでは「あっ、違った違った!! 水口さんだった!!」と言い合う、微笑ましいやり取りがしばらくの間続いた。


それにしても、女性って苗字が変わるたびに本当に手続きが大変。

保険証やら、銀行の通帳やら、運転免許証やら、ぜーんぶ裏書きや名義変更をしに回らなきゃいけないの、マジでつらいむ。

それに、今までずーっと呼ばれ慣れていて愛着のあった旧姓が、もうこれからの人生で二度と呼ばれなくなるんだなと思うと、なんだか少しだけ心寂しい気持ちにもなった。



それからさらに数年の月日が流れた。

私が27歳になってこの仕事を辞めることになるまで、給食室ではたくさんの「別れ」があった。

学校給食の宿命として、1年ごとに数人ずつどうしても異動者が出てしまう。そのたびに、私が大好きだった初期メンバーの調理員さんたちが、一人、また一人と別の学校へ去っていってしまった。


私も給食の世界に足を踏み入れてから、気づけば通算で7年間、この過酷な仕事を勤め上げていた。

27歳になり、そろそろ私たち夫婦も子どものことを本格的に考え始めようか、という時期に差し掛かっていた。まずは一度、婦人科に通ってみようかと迷う日々。


仕事を続けながらでも病院に通うことはできる。けれど、検査やタイミングに合わせてその都度急にお休みを頂くことになれば、現場のみんなに多大な迷惑がかかってしまうのは目に見えていた。

給食の仕事というのは、これまでの事件でも身を以て知っている通り、たった一人が欠けるだけで、残されたメンバーの業務がめちゃくちゃに忙しくなる、シビアな現場だ。


もしも婦人科での検査結果次第では、そのまま本格的な不妊治療に進むことも視野に入れていた。そうなれば、何回もお休みをいただくことになってしまい、大好きなみんなに迷惑をかけすぎてしまう。

そう悩み抜いた末、私はチーフの元へ行き、「子どもを授かるための準備に専念したいので、仕事を辞めようと思っています」と正直な気持ちを伝えた。


女チーフ「……本当は、まだまだずーっと水口さんと一緒に働いていたいけれど……。でも、水口さんのこれからの未来のためだもんね。笑顔で送り出すね」


チーフは寂しそうな顔をしながらも、私の人生を一番に考えて優しく背中を押してくれた。

こうして、7月末の給食終了をもって現場での調理を一度区切り、8月は学校の夏休み期間、そして9月はまるまる残っていた有給休暇を消化して、そのまま退職するという綺麗な流れでスケジュールを組んでもらった。


計画では、8月の夏休みが明けて新学期が始まる数日間だけ、現場の立ち上げと引き継ぎのために調理に入り、そのまま私は去る予定だったのだが――。


ここで、給食室特有の「最大の事件」が発生した。


なんと、現役の調理員さんの一人が、突然の病気で緊急手術と入院が決まってしまったのだ。

このまま私が予定通り9月で辞めてしまうと、給食室は一気に「2人欠員」という、文字通りの壊滅状態に陥ってしまう。

私の退職分の欠員(補充)は、元々事務所から新しい人が派遣される予定だったため、その人を差し引いても、現場は常に「常時1人欠員」の状態で二学期を回さなければならなくなる。


9月から始まる秋冬のメニュー表をみんなで絶望的な目で見つめた。

ただでさえ手の込んだシチューや揚げ物が増える時期。今の人数から一人でも欠員が出たら、物理的に絶対に回せない、鬼メニューが多すぎた。

チーフも「どうしよう……」と、頭を抱えて困り果てている。


みんなが困っている姿を、私はどうしても黙って見ていられなかった。


水口「チーフ……私、もしよければ、辞める日にちを数ヶ月後ろに延ばしましょうか……?」

女チーフ「えっ……!? 大丈夫なの……? そうしてくれたら、現場としては本当に神様みたいに助かるけれど……。でも、水口さんの未来のためにも、病院に行くのが遅れちゃうのは良くないんじゃない……?」

水口「数ヶ月くらい遅れたって全然大丈夫です! それよりも、大好きなみんながここで困って、ボロボロになっていく姿を見る方が、私にとってはよっぽど嫌ですから」


本来なら、9月中に有給を全消化して優雅に退職しているはずだった。けれど私は自分の意志で、雪の降る12月の半ばまで、契約を延長してそのまま現場で働き続けることを決めた。


入院することになってしまった調理員さんからは、「私のせいで本当にごめんなさい、ごめんなさい……っ!」と死ぬほど謝られたけれど、私は全く気にしていなかった。

それよりも、前の学校であんなに「お前なんか要らない」と存在を否定され、ゴミのように扱われた私が、今、この大好きな場所で「私の存在が誰かのためになり、誰かの絶対的な助けになれている」という事実が、何よりも誇らしく、心の底から嬉しかった。


そして、私が最終的に辞めることが確定したため、私の「本当の枠」として、現場に新しい新人さんが入ってくることになった。


本来のスケジュールであれば、

【私が辞める】→【入れ替わりで新人さんが入る】

という流れだったため、私と新しい新人さんは、本来なら職場で一生顔を合わせるはずのない関係だった。


けれど、私が退職を数ヶ月延ばしたことによって、

「私が現役で現場に残り、入ってきた新しい新人さんを一から完璧に育て上げてから、バトンを渡して辞める」という、給食室の未来にとってこれ以上ない、完璧な形で最後の花道を飾ることになった。


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