第37話:タメ口の新人②と、厳禁の副業
激ヤバ新人①が嵐のように去っていってから2週間後、ついに次の新人②がやってきた。
第一印象は……いたって普通の女性。
奇抜なボロボロジャージ姿でもなく、身なりもきちんとしていたため、私たちは「よかった、今回は普通の人だ……」と心の底から安堵した。
ところが。話し始めてからわずか数十秒で、一同の脳裏に「あ、この人ちょっとダメかもしれない……」という不穏な空気が流れ始める。
サブチーフ「チーフが今、栄養士の先生とミーティング中なので、先に調理員の紹介をしますね! まず、私はここでサブチーフをやっています。分からないことがあったら気軽に何でも聞いてくださいね!」
新人②「分かったー! よろしくー! サブチーフ何歳?」
サブチーフ「え……えっと……40です」
新人②「タメじゃーん! いいねー!」
全員が引きつった苦笑いを浮かべた。
この新人②、初対面の上司に対して平然とタメ口。どうやら、一切の敬語を使えないタイプの人だったのだ。
それから2週間ほど、彼女には【野菜の下処理→野菜の裁断→洗い物】という基本の流れを繰り返し経験してもらった。
しかし――これが驚くほど、ぜんっっぜん仕事を覚えない。
それどころか、野菜の皮むきをしている最中も、ずーーっとお喋りをしてくる。
新人②「野崎さんはなんでこの仕事してんのー? 若いのにー」
野崎「えぇっと。知り合いに勧められて……」
新人②「変わってんねー!」
しかも、彼女はお喋りをする時に、完全に「手を止めて」喋るのだ。本当なら先輩である私がその場でビシッと注意するべきなのだろう。いくら私の方が年下とはいえ、一応は先に現場に入っているのだから。だけど、あの怒涛のタメ口の迫力に押され、なかなか言い出せずにいた。
見かねたサブチーフが、作業の合間に声をかける。
サブチーフ「お喋りしててもいいけど、手は動かしてくださいねー!」
新人②「えー、厳しいー!」
サブチーフ「……頑張って手を動かしましょう!」
新人②「真面目だねーw」
どこまでもタメ口。私の胸のモヤモヤは日に日に大きくなっていった。
百歩譲って、私に対してタメ口なのはまだ理解できる。先輩とはいえ私は彼女より年下なのだから。だけど、チーフに対しても、学校の先生に対しても、当たり前のような顔をしてタメ口で話し続ける新人②に、私はずっと激しい違和感を抱いていた。
2週間つきっきりで下処理メインの仕事を教えても全く覚える気配がなかったため、チーフの判断で、今度は「外回り(調味料の計量や配膳など)」の仕事を教えてみることになった。
その初日、私が教育担当として彼女につくことになった。
野崎「今日から外回りの仕事を覚えてもらうことになるので、頑張りましょうね! 外回りの仕事はすごく覚えることが多いですが、調理室の外での作業なので、メモとペンを使っても大丈夫ですよ!」
新人②「あ、そうなんだ〜」
返事は気の抜けたような生返事。興味なさそうに、帽子からわざわざ前髪を引っ張り出しては指先でイジイジと触り始めた。給食室では絶対にNGな行動だ。
野崎「……調理作業中は、髪の毛に触れた後はすぐに手洗いをお願いします! あと、帽子から髪の毛が出るのはダメなので、中にしまっていただけますか?」
新人②「えー。髪の毛ちょっと出てるくらい、いいじゃーん。それに外回りでしょ? 髪の毛触っても別に構わなくなーい?」
野崎「外回りは、調味料の計量だけじゃなくて、生徒たちが使う食器にも直接触れますから……!」
新人②「ちぇー」
渋々と、本当に嫌そうな顔をして手を洗いに行く新人②。私は早くも胃が痛くなってきた。
野崎「それでは、調味料の計量からスタートしますね! 調味料を出す順番があるので、今日のお当番さんに『何をどの順番で欲しいか』を事前に確認しておきます。指示書に色を分けてマーカーをつけておくと分かりやすいですよ!」
新人②「へ〜」
野崎「じゃあ、まずこれを計量してみていただけますか?」
新人②「いや、今日は見てるわ!」
……全然、私の言うことを聞く耳を持たない。
外回り初日だから、緊張して見ていたいだけなのかな……とは思いつつも、モヤモヤは募る。
野崎「次は食器の積み込みです! 廊下に出て、食器保管庫に行きます。今日は私がやるのを一通り見ていてくださいね」
新人②「分かった〜」
そう言って廊下に出た瞬間、目を疑う行動に出た。
私が台車に重い食器を次々と積み込んでいる間、なんと新人②は、冷たい廊下の床にダイレクトに「体育座り」をして寛ぎ始めたのだ。
野崎「あの……制服が汚れちゃうので……立って見ていた方がいいんじゃないかな、と……」
新人②「えー? こっちの方が楽だし、大丈夫、大丈夫!」
野崎「汚れたままだと、このあと調理室にも入れなくなっちゃいますよ……」
新人②「ほんとさー。給食って、厳しすぎじゃなーい?」
野崎「……口に入る飲食を扱っている業界なら、どこも当たり前じゃないかなと思いますけど……」
新人②「えー? 私、今、焼肉屋と居酒屋副業してるけど、そんなこと言われたことないよ?」
――え?
私は作業する手を止め、完全にフリーズした。
今、なんて言った……?
焼肉屋と、居酒屋を、副業してる……?
凄まじい衝撃が頭を突き抜けた。
何を隠そう、ウチの会社は「副業は全面禁止」が絶対の鉄のルールだったのだ。
驚愕する私を余所に、彼女は床に座ったまま、退屈そうにつま先をトントンと揺らしていた。
激ヤバ新人②。この人もまた、とんでもない爆弾を抱えた人物だった。




