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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第36話:半日だけのシンデレラと、消えた上靴


女チーフ「えぇっと……本当はそのまま校長室に行こうと思ってたけど……。先に制服に着替えてもらってから、校長先生に挨拶しに行こうかな……?」


チーフも相当、肝を冷やしたのだと思う。

当然、スーツかそれに準ずる綺麗な私服で来ると思っていた新人さんが、まさかのボロボロジャージ。チーフのファインプレー(?)で、ひとまず純白の調理服に着替えてもらい、無事に校長先生への挨拶を済ませることができた。


給食室に戻ってきた彼女を囲み、朝のミーティングが始まる。


女チーフ「それじゃあ、新人さんの紹介をしますね! 〇〇さんです! これでようやく8人揃いましたので、これから皆で美味しい給食を作りましょう!」

新人「よろしく……お願いします……」


どんなに現場が修羅場でも、この給食室の人たちは温かい。みんな新人さんへのフォローを決して忘れず、必死に手を動かしながらも「どこから来たの?」などと積極的にたくさん話しかけていた。

教えながらの作業とはいえ、やはりマイナス1からプラス1になるだけで、物理的に人手があるというのは本当に、もの凄く助かった。


怒涛の午前作業が終わり、待ちに待ったお昼休憩。

チーフから「ちょっと皆、集合してください」と声がかかった。


何事だろうと、私たちは給食室の中でぐるりと輪になり、チーフの言葉を待った。


女チーフ「えぇっと……調理終了、お疲れ様でした。……実はね、新人さん、今日で退職することになりました……」


隣に立つ新人さんは、無表情のまま沈黙している。


女チーフ「急なことでしたが、〇〇さん、お疲れ様でした……」

新人「……ハイ」


彼女は蚊の鳴くような声で軽く頭を下げると、弾かれたようにダッシュで休憩室へと向かっていった。


残された私たちは、一瞬にして凍りつき、次の瞬間には一斉にザワついた。


――え? 半日で辞めることなんて、ある!?


何がダメだったの? どこが無理だと思ったの?

少なくとも、午前中に野菜の下処理を一緒にしている時は、普通に世間話をしていたはずだ。新人さんだから、まだ体力を酷使するような難しい作業は一切任せていない。


なんで!?


みんなが驚きと困惑で動けなくなっている最中、信じられない早さで私服に着替え終えた新人さんが、給食室の前を猛スピードで走り去っていった。

最後の挨拶すらまともに出来ないまま、私たちはただただポカーンとその後ろ姿を見送るしかなかった。


恐る恐る休憩室に戻ると、そこにはさらに凄惨な光景が広がっていた。


ロッカーの中はまるで泥棒に荒らされたかのようにぐっちゃぐちゃにされ、さっきまで着ていたはずの制服(調理服)は、床に脱ぎ散らかされて床に丸まっていた。


全員、絶句。

あまりの惨状に、言葉が出なかった。世の中に、こんなに酷い大人がいるのだろうか……。


女チーフ「なんか……ね。私が休憩室で一人で指示書を確認している時に、彼女が入ってきて、泣きながら訴えてきたのよ……。『私、こんな仕事したくなかったんです。夫に無理やり面接に入れられて、逆らえなかったんです。本当は私、ゴルフのキャディーさんがしたいんです! だから辞めさせてください!』って……」

サブチーフ「なんですかそれ……。『こんな仕事』って……毎日誇りを持って働いている私達に対して、あまりにも失礼じゃないですか……!」

女チーフ「そうなのよね……。でも、本人がこれ以上辞めたいって言っている以上、引き留めることもできないしさ……。はぁ、なんか……疲れたね……」


サブチーフは、新しい新人さんのためにロッカーにネームプレートを貼ったり、下駄箱を用意したりと、午前中も人一倍忙しく動き回っていたのに、そのすべてが一瞬にして無駄になってしまい、本当にしょんぼりと肩を落としていた。


その姿を見て、私は前の学校のあの意地悪なチーフが言っていた言葉を、ふと思い出していた。

『どうせすぐ辞めるかもしれないし』

あの時はなんて酷いことを言うんだと憤慨したけれど、こういう「信じられない突発的な辞め方」をする人が、この業界には本当に一定数存在するのだ。

用意されたエプロン、靴、制服……すべてに彼女の名前が書かれたけれど、そのどれもが、もう二度と使えなくなってしまった。



帰り際、みんなでどんよりとした空気のまま玄関へと歩いていた時のこと。


サブチーフ「そういえば、上靴(室内用の調理靴)はちゃんと下駄箱にあるのかな。ロッカーの中をぜーんぶぐっちゃぐちゃにされていたから、下駄箱もどうなっていることやら……」


嫌な予感がして、みんなで新人さん用に用意した下駄箱を覗き込んだ。


え……?


上靴が、ない。


サブチーフ「上靴……なくない?」

野崎「……ないですね」

調理員「どこかに脱ぎ捨てて行ったんですかね?」

調理員「生徒用の下駄箱も含めて、念のため玄関の周りを探してみましょうか」


それから10分ほど、みんなで手分けして学校の玄関周りを探し回った。けれど、新品の真っ白な上靴は、どこを探しても見つからなかった。


サブチーフ「え、上靴……持ち帰ったってこと……? 会社から支給された備品なのに……?」

野崎「上靴……そんなに欲しかったんですかね……」


ボロボロのジャージで出勤。

わずか半日で電撃退職。

制服を床に投げ捨て、ロッカーをぐっちゃぐちゃに荒らす。

そして極め付けは――会社支給の上靴を盗む(持ち帰る)。


これこそが、我が給食室を震撼させた【激ヤバ新人①】の全貌だった。


……そう。お気づきだろうか。

①とついているということは、この後に、さらなる混沌を巻き起こす【激ヤバ新人②】が控えているのである。

給食室の不運は、まだ始まったばかりだった。


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