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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第34話:くそお世話になりました!!!


朝から、私の心はしんみりとした雨模様だった。


朝のミーティング。

チーフ「んじゃ、今日でな。皆で作る給食は最終日ですけど。最終日だからこそ気を抜かず、頑張りましょ」


チーフはどこまでも相変わらずで、飄々としている。「寂しいのは私だけなの!?」と思ってしまう、まるでめんどくさい彼女のような感情が胸の中でぐるぐると渦巻いていた。


「チーフ! 刃の確認お願いします!」

「チーフ! 髪の毛チェックお願いします!」

「チーフ! 味見お願いします!」

「包丁まな板、使用後異常ありませんでした!」


毎日、当たり前のように給食室に響かせていた報告の声掛け。その一つ一つを行うたびに、「これが最後なんだ」という寂しさが胸を締め付けた。


時間は無情にも、あっという間に過ぎていく。午後の片付け作業までがすべて終わり、ついに帰り支度をする時間になってしまった。


サブチーフ「チーフ。お世話になりました。これ、皆からです。それと、〇〇(もう一人の異動する調理員)さんにもこれね。次の学校でも頑張ってね!」


サブチーフがみんなを代表して、チーフともう一人の調理員さんにプレゼントの袋を渡す。手渡された調理員さんの目から、涙がこぼれ落ちた。

この調理員さんのことも大好きだった。たくさんアニメの話や趣味の話をして、いつも楽しかった。


でも。でも……本当に申し訳ないけれど。

私には、チーフがいなくなってしまうことの絶望が大きすぎた。そして、次に来る新しいチーフが「女性」だという事実が、前の学校のあのトラウマを呼び起こして、怖くて怖くてたまらなかったのだ。


私はまるで、母親に縋り付く幼子のように、チーフの事務机にしがみついていた。


野崎「チーフ……やっぱり無理です……。私も一緒に、その学校に行ぎだい……っ!」


鼻水を流し、グスグスと子供のように泣きじゃくる私を見て、チーフは「やれやれ」といったお馴染みの表情を浮かべた。


チーフ「次のチーフはなぁ、俺が行く学校のチーフなんだよ。要するに、俺とトレード(交換)なんだわ。で、その人は昔、俺がチーフをやってた学校で調理員として働いてた人でなぁ。理不尽なことは絶対に言わないし、本当に良いチーフだぞぉ。だからな、あんまり不安になるなぁ」

野崎「私はヂーフがいいぃぃーーー!!」

チーフ「ワッハッハ! ほんとな、野崎さんには感謝してるぞぉ。沢山頑張ってくれてありがとなぁ。次の学校へ行っても、俺は野崎さんのこと応援している。大丈夫だぁ。野崎さんなら、大丈夫、大丈夫」


本当に、たくさん、たくさんお世話になった。

良いところはたくさん褒めてくれた。間違えていたら、ちゃんと叱ってくれた。

いつも大きな背中で、優しく温かく見守ってくれた。


他の調理員さんは、たまに「チーフのあの適当なところがさぁ(笑)」なんて言っていたけれど、私はチーフのすべてが大好きだった。

学校を卒業し、外の世界に出て出会った大人の中で、初めて心から「尊敬する」と思えた人だった。100%の気持ちで信頼していた。


気づけばもう完全な退勤時間になっており、他の調理員さんたちはあっという間に着替えて帰っていった。


チーフ「ほらほら、野崎さんも早く帰れー。遅くなるぞー」

野崎「チーフ、本当に……本当にありがとうございました……っ!」

チーフ「おう。気を付けてなぁ。頑張れよぉ」

野崎「チーフから教えてもらったこと、絶対に全部忘れません……! 私、チーフがいたからこの仕事を頑張れました。もしあの異動のとき、違う学校に行ってたら、私絶対に仕事辞めてました……。本当に、本当にお世話になりました……!!」


脳裏を過ったのは、大好きな漫画『ワンピース』の、あのサンジが旅立つ有名な名シーンだった。

今なら、あの時のサンジの気持ちが痛いほどよく分かる。


――オーナーゼフ……!!!

くそお世話になりました!!!


心の中でそう叫びながら、私は泣き顔のまま、無理やり笑顔を作って「さよなら」を告げた。


休憩室を出てからも、何度も、何度も振り返った。チーフの姿を少しでも長く、この目に焼き付けるように。

私は4月からも同じ学校に残り、給食室の景色だって何一つ変わらないのに、がらんとした給食室を眺めてはチーフとの思い出を噛み締めていた。これじゃあ、まるで私の方が辞めていく人みたいだ。


曲がり角を曲がるまで、私は何回も振り返っては、チーフに向かって「バイバイ! バイバイ!」と手を振り続けた。我ながら小学生かよ、と思う。


帰り道の地下鉄の中でも、涙が止まらなくてずっと泣きながら帰った。

すれ違う第三者から見たら、私は完全にただの不審者だったに違いない。



1年前の4月。

辛くて、苦しくて、生きることすらもしんどくなるほど、存在のすべてを否定されていた私。


チーフと出会って、この給食室で過ごしたから、私はまたたくさん笑えるようになったよ。

社会人としても、ほんの少しだけど成長できたよ。


チーフ。これは、あの春から10年が経ち、30歳になった私からの、時を超えたラブレターです。


今でも私は、チーフのことを本当に尊敬していて、大、大、大好きです。

あの時、チーフが私を救ってくれたから、私は今もこうして生きています。

大好きな人と結婚して、新しい家族も、愛しい宝物もできました。


今の私が笑顔でいられるのは、間違いなく、あの時あの給食室で私の頭をポンポンと叩いてくれた、チーフのおかげです。

本当に、ありがとうございました。


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