第31話:託されたノートと、2人目の超絶美人
私も、衝撃が強すぎて言葉を失っていた。
え、いなくなっちゃうの……?
異動初日、絶望していた私を真っ先に救ってくれて、今日までずっと一番近くで見守ってくれていた、あのまいちゃんが……。
私があまりにも血の気の引いた顔をしていたからか、まいちゃんは「ほれほれ、まだ1週間あるんだからそんな顔するんじゃないよ」と言って、私の頭を拳でグリグリと小突いてきた。
野崎「まいちゃんが……この給食室にいないっていうイメージが全然つかなくて……。寂しいです……」
まいちゃん「ごめんなぁ。たまに遊びにくるから! 他の調理員さんも皆見守ってくれているからね」
家に帰ってからも頭がぼーっとして、何回もこれが悪い夢なんじゃないかって思っていた。
そこからの1週間は、1日1日を噛み締めるように大切に過ごした。まいちゃんとたくさんお話をしながら、たくさんのことを教えてもらった。
そして迎えた、まいちゃん最終日の帰り際。
チーフ「皆着替えたかー? じゃあな、まいちゃん。今日で最後だから。これ、皆からのプレゼントな」
まいちゃんが着替えている隙を狙って、サブチーフがみんなから500円ずつを集め、こっそりプレゼントを買いに走ってくれていたのだ。
まいちゃん「えー!? いやー……なんすか……やめてくださいよぉ、ズズッ。プレゼントとか、なしにしましょうよー……」
いつも豪快に笑っていたまいちゃんの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
まいちゃん「自分、まじでこの学校で良かったっす! チーフとサブチーフとは長く過ごしてきましたし、他の調理員さんも仲良くしてくれて本当に感謝しかないっすわ。あと、野崎さん。一緒に過ごした時間は短かったけど、本当に頑張り屋で、毎日一生懸命だったね。これからは傍にはいられないけど、ずっと応援してるからね」
周りの調理員さんも、みんな静かに泣いていた。
――なのに、私はなぜか、この瞬間だけは涙が出なかった。ここで泣いたら、本当にまいちゃんがいなくなってしまうことを認めるような気がして、必死に堪えていたのかもしれない。
サブチーフ「まいちゃん、嫌なことあったらいつでも戻ってきていいんだからね!! 次のお仕事も応援してるからね!!」
チーフ「まいちゃんなら大丈夫だぁ」
最後は、みんなで2列に並んで両手を合わせ、即席の「手のトンネル」を作ってまいちゃんを送り出すことになった。
まいちゃん「ぶふww 手のトンネル初めてっすw んじゃ、通りまーす!」
私は出口の側でトンネルを作って待っていた。
トンネルをくぐり抜けた最後、まいちゃんは私の前に立つと、いつものように優しく頭を撫でてくれた。
まいちゃん「頑張れよぉー!」
……無理だった。耐えていたものが一決壊し、私は猛烈に号泣した。
認めたくなかったけれど、本当にまいちゃんはいなくなっちゃうんだ。年は少し離れていたけれど、私にとってはまるでお姉さんのような、いや、最高に格好いい「姉御」のような存在だった。本当に、本当にお世話になった。
まいちゃん「揚げ物とかの時間書いてるノート、野崎さんに託すね。サラダの配食量とかも全部載ってるから。これ見て頑張れ!」
私の手に握らされたのは、現場のノウハウがぎっしり詰まった一冊のノートだった。私はそれを受け取り、子供のように声を上げて泣いた。
◇
次の日から、当たり前だけれど給食室にまいちゃんの姿はなかった。
みんなもしんみりとしていて、どこか寂しさが漂っていたけれど、1人欠員になった現場は殺人的な忙しさで、皮肉にもその忙しさのおかげで寂しさを紛らわせることができた。
それから季節は進み、7月中旬。
チーフ「皆に報告なんだけどな〜。あと1週間ちょいで夏休み始まるけど……明日から新人さん来ます」
サブチーフ「え!? 明日!? 随分急ですね……」
チーフ「〇〇(事務所のお偉いさん)がよぉ、急に連絡してきて『明日からそっちに新人入れるから』ってさぁ」
サブチーフ「じゃあロッカーの名前とか下駄箱とか、すぐ用意してきますね!!」
相変わらず仕事の早いサブチーフが、足早に下駄箱の準備へと向かっていく。
チーフ「野崎さん、もう先輩になっちまうなぁ。頑張ってくれぇ」
野崎「私、ステップ(研修)が終わったばかりですよ!? まだまだ新人でいたいのですが!!」
チーフ「野崎さんならもう十分頑張って覚えてくれてるから、安心して任せられるわぁ。新人さんのサポートもよろしくなぁ」
まさか、たった2ヶ月半で次の新人さんがやってくるなんて。
私は自分自身がまだ覚えたての仕事を、今度は人に教えなければいけないという、とんでもなく緊張する立ち位置になってしまった。「間違えて教えてしまったらどうしよう」と不安で胸がいっぱいだった。
そして次の日、ついに新しい新人さんがやってきた。
私は思わず、その顔を2度見した。
――美人すぎる。
北川景子似の栄養士の先生に続き、今度の新人も、同じ女である私が思わず見惚れてしまうほどの超絶美人だった。




