第30話:サブチーフ登場、突然の別れ
その後も何事もなく、私は毎日楽しく仕事を続けることができていた。
5月末のある日、骨折していたサブチーフが、片足にギプスをはめ、松葉杖をつきながら給食室へとやってきた。
事前に聞いていたサブチーフの情報はこうだ。
・元自衛隊
・背が高い
・ガチャピンに似てる
ちょっと情報が強すぎて全然イメージが湧いていなかったけれど、いざ本人を見て、私は激しく納得した。
目がくりっと大きくて、給食室に入ってきた第一声が凄まじかった。
サブチーフ「お疲れ様です!! 〇〇、皆に差し入れ持ってきました!!」
敬礼こそ口にしていないものの、めちゃくちゃ背筋がピンとしていて、給食室の端っこまで響き渡るような大声だった。丁度お昼休憩に入る頃だったため、みんなで休憩室に集合することになった。
サブチーフ「お疲れ様ですー!! 皆さん申し訳ないです……私が骨折したばかりに……。早く骨くっつけてバリバリ働きますので、もう暫くお休みすみません!! これ、皆さんで飲んでください!!」
見ると、サブチーフは片足しか使えず松葉杖をついている状態なのに、2リットルのペットボトル6本が入った重いケースを引っ提げてきていた。
チーフ「え、サブチーフこれどうやって持ってきたの?」
サブチーフ「え?? 松葉杖つきながら片手で持ってきました!!」
チーフ「え……凄いネ……」
怪我人が重い荷物を楽々と持ち込んできた姿に、船越英一郎似のチーフも思わず苦笑いしている。
サブチーフ「あ、野崎さんだよね? 私サブチーフやってます、〇〇って言います!! 新人さんが続けてくれていて嬉しいよ!! 私戻ってきたら沢山お話してね!! もう少し迷惑かけちゃうけどよろしくね!!」
野崎「よろしくお願いします! まだまだ戦力にはなっていませんが、少しずつ皆さんの力になれればと思ってます。サブチーフが戻ってくるのを楽しみにしています!!」
会話の最後にがっしりと握手を交わしたのだが、めちゃくちゃ握力が強かった。
第一印象は、とにかく明るくて、仕事ができそうなオーラが半端ない人、だった。
そして6月半ば頃、ついにサブチーフが現場に本格復帰した。
まだ絶対に無理をしちゃいけない段階のはずなのに、この人はとにかく働く、働く。
復帰初日だというのに、自分の調理の合間を縫って、備品の在庫チェックや食器の枚数確認などをテキパキとこなしていく。こんなに笑顔で、生き生きと働く大人を見たのは初めてかもしれないと、私はひどく感動した。
昼休憩の時、サブチーフの「元自衛隊」の経歴の話題になった。
まいちゃん「サブチーフ、元自衛隊ならほふく前進出来るんすか??」
サブチーフ「できるよ!!」
そう言うや否や、サブチーフは休憩室の床に文字通り身を投げ出し、綺麗なほふく前進を披露してくれた。
初めて生で見るほふく前進。……思ったよりめちゃくちゃ早い。
というか、まだ足を安静にしていなきゃいけない時期なのに、床を這っているサブチーフは元気の塊すぎた。
サブチーフが復帰して、これでようやくメンバーが8人全員揃った。「やったー! これからだね!」と、給食室が歓喜の空気に包まれた、まさにその一変だった。
復帰から3日ほど経った、ある日の帰り際。
チーフ「あんなぁ。ちょっと皆いいか? 皆に話あるんだわ」
チーフが、今までに見たこともないような暗い顔でポツリと話し始めた。
チーフ「まいちゃんな、来月いっぱいで退職する事になったんだわ。今月いっぱい働いて貰って、来月は有給消化で退職な。まぁ……止めたい気持ちが大きいけど、まいちゃんの夢のために、な。皆、笑顔で送り出してやってくれ」
突然の宣告に、室内の空気が凍りついた。
まいちゃん「皆さん……サブチーフも戻ってきて、これからだ!って時にこんな話になってしまって、マジで申し訳ないです……。前々から退職を考えていたんですけど、最初の新人さんが辞めてしまったり、サブチーフが骨折していなくなったりで、どんどん延び延びになってしまっていて……」
サブチーフ「まいちゃん……辞めちゃうん……だね……」
さっきまであんなに元気だったサブチーフの目から、大粒の涙が溢れ出した。
チーフ、サブチーフ、そしてまいちゃんの3人は、この学校で5年ほど一緒に苦楽を共にしてきたらしい。他の調理員よりも、ずっと深い絆で結ばれていたのだ。
けれど、それは他の調理員にとっても同じだった。全員がハンマーで殴られたような衝撃を受け、誰も言葉が出ない。
静まり返る休憩室で、まいちゃんはいつもの底抜けに明るい笑顔を作って、みんなを見回した。
まいちゃん「でも、まだ1週間はいるんで!! その間も、たっくさんお喋りしましょ!!」




