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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第25話:チーフの怒りと、○じゃない名前


野崎「あ……書いて……いいんですね……。ありがとうございます、ズビッ」


泣く寸前、思わず鼻水をすすってしまった私を、チーフは腕を組んでじっと見つめていた。

「船越英一郎」にそっくりなその顔が、どこか険しく怖そうな表情に変わったので、私は一瞬ビビって身を硬くした。しかし、チーフの口から飛び出したのは、私への怒りではなかった。


チーフ「マネージャーさぁ。あの学校どうなってんの? 前からあの人の良い噂聞かないけどさぁ。ウチの業界、常に人手不足じゃない。貴重な新人さん、なんでこんな目にあってんの?」

マネージャー「いやぁ……正直僕も手を焼いていて……。僕より調理年数長いのと、周りに派閥みたいに出来ちゃってるから、中々上の方の人間も口出ししづらいみたいで……」

チーフ「それさぁ。新人さんに、関係ないよね?」

マネージャー「そう……ですねぇ……」

チーフ「はぁ……まぁアンタに言っても仕方ないんだけどさぁ。あー。今日俺、○○さん(事務所の偉い人)にちょっと話してくるわぁ。ちょっとあまりにも酷すぎ。これじゃあ新人さんなんて育たねぇって」

マネージャー「はい……申し訳ない限りです……」


「全部の新人さん」に向けて言った言葉だったのかもしれない。

それでも、目の前のチーフが私のために怒ってくれて、私のために行動しようとしてくれているのが痛いほど伝わってきて、流石に鼻水が止まらなくなった。


まいちゃん「よしよし、よく頑張ったなぁ!!」


31歳の調理員・まいちゃんが、私の頭を優しく撫でてくれた。

ダメだった。ここで完全に私の涙腺は決壊し、涙がちょちょ切れた。


まいちゃん「大丈夫大丈夫! ウチはゆるーくやる職場だから!! 誰も怖い人いないよ!! チーフも適当だけど優しいし! 皆若くて働き者だし!! ここでゆっくり新人さん頑張ろ! すぐ慣れるよ!」

チーフ「まいちゃん……適当て……まぁそうなんだけどなぁ」


ボロボロと大粒の涙を流す私の背中を、みんなが代わる代わる撫でてくれて、頭をポンポンと叩いてくれる人もいた。

私、朝から一体どれだけ泣いているんだろう。なのに、不思議と涙って枯れないものなのだ。


優しくされればされるほど、胸の奥からどんどん溢れてくる。

今までの辛かった気持ち。ここに来るまでの、怖くて、怖くて、気持ち悪くて、いっそ死んでしまいたくなってしまったあの暗い気持ちも、みんなの温かさに触れて、すべてが綺麗に吹き飛んでいくようだった。


チーフ「どれどれ、俺が名前書いてやるからな〜」


チーフがマジックを手に取り、私の新しいエプロンと靴に、サラサラと文字を書き込んでいく。


まいちゃん「うっわ、チーフ! 字きったねぇ!」

チーフ「えぇぇ……そう? 悪い悪い」


差し出された靴とエプロンを見て、私は息を呑んだ。

わぁ……私の名前がある。


「〇」じゃない。私の名前だ――。


野崎「『〇』じゃなくて、私の名前だぁ……」


チーフが書いてくれたエプロンと靴を両手で抱きしめながら、私はうっとりとその文字を見つめた。


チーフ「はぁ……名前だけでこんなに喜ぶなんてなぁ……。どんな扱い受けたか、わざわざ聞かなくても分かるわなぁ」

まいちゃん「いやぁぁあ。まっじっで。前のチーフクソババアっすね!!」

チーフ「とにかく……まぁ……ウチはね。こんな感じの職場なんでね。俺とサブチーフだけ年上だけど、それ以外は皆野崎さんと歳近いからさぁ。なんか困ったりしたら皆教えてくれっからよぉ。俺も答えれる範囲で教えっから」

野崎「ありがとうございます!!」


ただただ、嬉しかった。

今日、この場所にたった今出会ったばかりなのに、こんなに優しくしてもらえるなんて。まるで都合の良い夢でも見ているんじゃないかと思った。

同じ給食室でも、学校が違うだけで、ここまでムードが180度変わるものなのだ。


チーフ「んじゃあ……朝のミーティングの前に……。今日からね、野崎さん含めて7人で調理やってくから。サブチーフと入れ違いで新人さんがきたけど……忙しくなると思う。でも、皆も困ったらすぐ俺に言ってくれぇ。だから皆、新人さん助けてやってくれ。無理にわちゃわちゃする必要ないけどよぉ。皆歳近いんだから、適度にお喋りしながら作業してくれー」

調理員一同「「「はーい!!」」」


全員の元気な返事が、給食室に気持ちよく響き渡った。


マネージャー「野崎さん、頑張ってくださいね。何かあったらすぐ連絡ください」

野崎「ありがとうございます」


私は深く頭を下げた。胸のバクバクは、もう恐怖のそれではなくなっていた。

この温かい仲間たちとなら、きっとやっていける。新しい私の戦いが、今度こそ本当に始まろうとしていた。


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