第4回
「アンタ。またやらかしたね。裸だったんでしょ?しかも、ビキニラインを… 間違いなく寝たんだよ。願い事されなかった?」
「私は神社じゃないの。裸にされた挙句、“お参り”されても困るわ。それに願い事をしたければ、お賽銭をくれなきゃ」
「アタシだって、ビキニラインは処理してるのに。いいなぁ。アタシも“お参り”されたい!」
ここぞとばかりに欲求をぶちまける有美。相変わらず、タルタルソースは口元についたまま。
中学3年生からグラビアアイドルとして活躍している有美は、季節を問わずボディコンのワンピースを着ている。胸元のざっくり開いた挑発的な衣装だ。そして、ソバージュの髪をなびかせ、ロリコン顔でオトコを惑わす。
しかし、いざ事を起こすとなるとそう簡単にはいかない。グラビアアイドルという立場から、有美のオトコ関係は事務所に厳しく管理されている。彼女は売れっ子ではないにしろ、それなりに仕事はある。ゆえに、週刊誌の動きにも警戒を張る必要がある。
口では何とでも言うが、そうした事情から経験人数は私よりも少ない。だから結果的に、周りの大人たちからは身持ちの堅いアイドルとして信頼されている。もちろん、有美にそんなつもりは一切ない。むしろ、最近の彼女は欲求が爆発寸前で危険な状態。
「なんかさ、オトコに抱かれない人生って、肉抜きの牛丼と一緒よね。何の価値もないんだわ」
「あなた。どこに価値を見出しているの?」
有美はワンナイトラブを好み、特定のオトコと付き合うことを良しとしない。飽きっぽい性格の彼女らしいところ。但し、相手は誰でもいいという訳ではない。彼女には彼女なりのルールがある。
まず、独身はNG。独身はグラビアアイドルと過ごした一夜を黙っていられない。いくら念押ししても、必ず口を滑らせてしまう。ベッドで撮った写真を添えて。
次に、社会的地位のある富裕層もNGだ。一度切りと言っているのに、また逢おうとしつこく誘う。メアドだけでは飽き足らず、電話番号を交換したがるし、法人のゴールドカードを手渡して「何でも好きな物を買いなさい」なんて言うからタチが悪い。
「一番いいのは既婚者だよ。そこそこ稼ぎ、そこそこ出世してるヤツ。家庭は壊したくないけど、ちょっと冒険してみたい。そういうオトコは口が堅いんだ」
「モラルも何もあったもんじゃないわね」
そういった出会いの場をつくる秘匿性の高いサイトがあるとか。ないとか。とにかく、飢えるオオカミよろしく、有美は常に“獲物”を漁っている。
話は再び、昨夜の私の失敗について。いや、話を戻さなくてもいいのに。
「昨日のことは全然覚えてないの。朝になって起きたら、彼は仕事でいないし。私は二日酔いで、頭がガンガンしてたし」
「その間にすっかり弄ばれたんだね。きっと、いつもより興奮してさ。オトコがアンタに何をしたか想像できるよ。 …生々しい話、聞きたい?」
にやつきながら、左右すべての指をいやらしそうに動かす有美。昼間から変態ぶりをさらけ出すなんて。
「いえ。結構です。飲み過ぎた私が悪かったんだよ」
一応、いつものように反省してみる。
それにしても、先生は観音崎公園で何をしていたのか。何故、あんなところから姿を現したのか。昨日の彼はトレンチコートを着ていたし、革靴を履いていた。そんな格好で茂みの中に入るだろうか。
「あのときの彼の靴。泥だらけだったのよ」
「アンタと同じで酔ってたんじゃないの?さもなきゃ、不倫相手との密会とか。逢瀬を楽しんでたんだよ。誰もいない森の中で」
私には、先生の行動がどうしても解せなかった。あの唐突な出会い。特にヴェルニー公園での彼は、何か警戒しているように見えた。
「ともかく、毎度のことながら感心するよ。アンタ。よく平気で知らないオトコの部屋に泊まれるね。いくら酔っ払っても、アタシは無理だわ。」
「好きで泊まってるんじゃないよ。結果的にそうなっちゃうの。少しは心配してよ」
私がふてくされると、有美は笑いながら手を振る。
「いざとなったら、アンタは何処でも生きていけるタイプだから。心配無用なんだよ。そのオトコが犯罪でもやらかしてたら、話は別だけどね」
「犯罪かどうかはともかく。あの人。なんか影があるような気がして… 一度しか会ってないけど、笑顔を見なかった。何かに怯えているような感じがしたの」
「今度、また会ってみれば?スマホの番号は分からないにしても、住所は知ってるんでしょ。合鍵を返すって言えば、会う口実になるじゃん」
「そうね。そうするよ」
夕方。有美はグラビアの撮影があるらしく、私たちは駅で分かれた。




