真実
空気が、張り詰めていた。
雷が、静かに空間を走る。
ボルトは、ゆっくりとアカネを見つめている。
逃げ場は、ない。
「……教えてあげるって、何を……」
震える声で、問いかける。
ボルトは、少しだけ笑った。
「全部よ」
その一言が、やけに重かった。
「……悪魔って、何だと思う?」
問い。
答えは、もう聞いている。
「……人の心から生まれる、歪み……」
そう教えられた。
高宮から。
組織から。
「……半分正解」
ボルトは、あっさりと言う。
「でも、それ“だけ”じゃない」
ゆっくりと、空を指差す。
「ねえ、空……見たことある?」
「……え……?」
意味が分からない。
「“本物の空”よ」
その言葉に。
高宮の表情が、わずかに変わる。
「……やめろ、ボルト」
低い声。
警告。
でも、ボルトは止まらない。
「この世界の空って、綺麗すぎると思わない?」
夕焼けを見上げる。
「雲も、光も、全部——“作られてる”みたいに」
「……何言って……」
理解できない。
けれど。
胸の奥が、ざわつく。
「……ねえ、アカネ」
名前を呼ばれる。
「どうして“悪魔”がいると思う?」
「……それは……」
人の心。
そう答えようとして——
言葉が、止まる。
「……じゃあ聞くけど」
ボルトの声が、少しだけ低くなる。
「どうして“昔の記録”が、ほとんど残ってないの?」
「……え……」
「どうして、文明の発展が“途中で途切れてる”の?」
次々と投げられる疑問。
「どうして、この世界は——こんなに“都合よく”できてるの?」
その全部が。
今まで、考えたこともなかった。
「……答え、教えてあげる」
ボルトは、静かに言う。
「一度、終わってるのよ。この世界」
その言葉で。
時間が、止まった気がした。
「……は……?」
理解が、追いつかない。
「文明は、一度滅びてる」
淡々と続ける。
「悪魔によってね」
「……嘘……」
思わず、否定する。
そんなの。
聞いたことがない。
「嘘じゃない」
即答。
「私たちは、その“残りカス”の上で生きてる」
その言葉は——
あまりにも重すぎた。
「……だったら……なんで……」
声が震える。
「なんで、そんなこと……」
隠してるのか。
その問いの続きを——
ボルトは、笑って受け取る。
「簡単よ」
あっさりと。
「“知られたら困る”から」
「……誰が……」
その答えは、もう分かっていた。
でも。
言ってほしくなかった。
「——あんたたちの“組織”よ」
静かに、断言する。
Cicada。
その名前が、頭に浮かぶ。
「……違う!!」
高宮が、強く否定する。
「そんなわけない!」
即答。
迷いのない否定。
「……へぇ」
ボルトは、面白そうに笑う。
「じゃあ聞くけど」
一歩、近づく。
「あなた、“どこまで知ってるの?”」
「……っ……」
言葉が詰まる。
「司令官000の正体は?」
「……」
「魔法少女システムの“元になったもの”は?」
「……やめろ……」
高宮の声が、揺れる。
「悪魔が“どこから来てるのか”は?」
次々と、突きつけられる。
「答えられる?」
沈黙。
それが、すべてだった。
「……ほらね」
ボルトは肩をすくめる。
「何も知らされてない」
その事実が。
何よりも残酷だった。
「……じゃあ……なんで戦ってるの……」
アカネの声が、震える。
正義だと思っていた。
守るためだと信じていた。
でも。
「……理由なんて、後付けでいいのよ」
ボルトは言う。
「大事なのは、“使えるかどうか”」
その視線が、鋭くなる。
「あなたみたいなのは、特にね」
ドクン。
胸が、脈打つ。
「……あなた」
まっすぐに見られる。
「“悪魔”でしょ?」
その一言で。
すべてが、止まった。
「……え……」
思考が、追いつかない。
でも。
否定できない。
心の奥で、何かが——
“そうだ”と囁く。
「……やめろぉ!!」
高宮が、叫ぶ。
炎を纏い、飛び出す。
「それ以上、喋るな!!」
本気の攻撃。
だが。
「……図星、か」
ボルトは、軽く受け流す。
その動きに、余裕しかない。
「……まあいいわ」
興味を失ったように言う。
「今日はここまで」
くるりと背を向ける。
「……待て!!」
高宮が叫ぶ。
だが。
「——またね、後輩」
ボルトは、軽く手を振った。
次の瞬間。
雷が弾ける。
視界が、白く染まる。
そして——
消えた。
静寂。
何もかもが、元に戻ったように見える。
でも。
もう、元には戻らない。
「……ねえ……」
アカネが、小さく呟く。
「……どっちが、本当なの……」
高宮は、答えない。
答えられない。
ただ。
拳を、強く握りしめていた。
——信じていたものが、揺らいでいる。
その事実だけが、残った。




