静寂
基地の中は、静かすぎた。
いつもと同じはずの白い廊下。
でも——
全部が、違って見える。
「……滅びた……世界……」
ぽつりと呟く。
頭の中で、言葉がぐるぐる回る。
悪魔。
文明の崩壊。
そして——
自分。
「……悪魔……」
その言葉が、胸に刺さる。
「……違う……」
否定する。
でも。
思い出してしまう。
あの黒い力。
あの声。
——壊せ。
「……っ……!」
頭を抱える。
信じたくない。
でも。
“知ってしまった”。
もう、戻れない。
そのとき。
『緊急警報。特異反応を確認』
無機質な声が、響く。
ビクッと身体が揺れる。
「……また……」
足が、動かない。
怖い。
戦うのがじゃない。
“自分”が。
『現場:市街地南区』
その瞬間。
ドアが、開いた。
「……アカネ」
高宮。
戦闘装備のまま、立っている。
「……行く」
短く言う。
その目は、迷っていない。
「……私も……」
思わず言いかける。
でも。
高宮は、首を振った。
「来なくていい」
「……え……」
「今回は、ダメ」
はっきりと、拒絶。
「……なんで……」
分かっている。
でも、聞かずにはいられない。
「……今のあんた、危ない」
静かな声。
でも、その言葉は重かった。
「……っ……」
言い返せない。
「……大丈夫」
高宮は、少しだけ笑う。
「すぐ終わらせてくる」
いつも通りの言葉。
でも。
どこか、違う。
「……待ってる」
それしか、言えなかった。
「……うん」
短く頷いて。
高宮は、出ていった。
その背中が——
やけに遠く見えた。
◇
夜の街。
静まり返った空間。
「……来たか」
そこにいたのは——
ボルト。
街灯の下で、退屈そうに立っている。
「……やっぱり、あなただったか」
高宮が構える。
「アカネは?」
ボルトが聞く。
「……来ない」
即答。
「へぇ」
少しだけ、つまらなそうにする。
「賢いじゃない」
「……何が目的だ」
高宮の声が低くなる。
「言ったでしょ」
肩をすくめる。
「見に来ただけ」
「……なら、帰れ」
「それは無理」
即答。
「だって——」
にやりと笑う。
「あなたが邪魔だもの」
その瞬間。
空気が弾けた。
バチッ!!
雷が走る。
「っ!!」
高宮は即座に回避。
「装備展開——ファイヤー!」
炎が弾ける。
突撃。
迷いのない一撃。
だが——
「……遅い」
ボルトは、軽く避ける。
動きが見えない。
「くっ……!」
連撃。
炎が空間を焼く。
だが。
当たらない。
「……そんなもの?」
背後から、声。
「っ!?」
振り向く。
遅い。
バチンッ!!
雷撃。
直撃。
「がっ……!」
身体が吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
息が、詰まる。
——強い。
分かっていた。
でも。
ここまでとは思っていなかった。
「……ねえ」
ボルトが、ゆっくりと歩いてくる。
「なんで戦うの?」
問い。
シンプルな。
「……守るためだ……」
息を整えながら、答える。
「誰を?」
「……人を……」
「へぇ」
ボルトは笑う。
「じゃあ、その人たちが“何も知らないまま死ぬ世界”でも?」
「……っ……」
言葉が詰まる。
「騙されてるって分かっても、戦うの?」
追い打ち。
「……それでも……」
絞り出す。
「今、目の前にいる命は——本物だ」
その言葉に。
ボルトは、少しだけ目を細めた。
「……なるほどね」
小さく呟く。
「嫌いじゃないわ」
でも。
次の瞬間。
「——だからこそ、邪魔」
雷が、炸裂した。
避けられない。
直撃。
「……っ……!!」
膝が崩れる。
立てない。
「……終わりにしましょうか」
ボルトが手を上げる。
雷が、収束する。
圧倒的なエネルギー。
「……アカネ……」
小さく、名前を呟く。
あの子は、来なくてよかった。
これでいい。
そう思えた。
「……悪くない人生だった?」
ボルトが、軽く言う。
その言葉に。
少しだけ、笑う。
「……まだ……終わってない……」
最後の力を振り絞る。
炎を、集める。
「……はああああ!!」
全力の一撃。
だが——
「……うん、弱い」
あっさりと、消される。
そして。
雷が、落ちる。
直撃。
音が、消えた。
静寂。
煙が、晴れる。
そこに——
高宮は、動かなくなっていた。
「……終わり」
ボルトは、興味なさそうに言う。
少しだけ、空を見上げて——
「……じゃあね、先輩」
誰に向けたのかも分からない言葉を残し。
雷とともに、消えた。
◇
その頃。
基地で。
アカネは、膝を抱えていた。
嫌な予感が、消えない。
胸が、ずっとざわついている。
ドクン。
ドクン。
「……やだ……」
理由は分からない。
でも。
分かってしまう。
“何かが壊れた”。
その感覚だけが、はっきりとあった。
「……高宮さん……?」
呼んでも、返事はない。
ただ。
静寂だけが、広がっていた。




