真の力
胸騒ぎが、消えなかった。
理由は、分からない。
でも。
ずっと、嫌な感じがする。
「……遅い……」
時計を見る。
もう、とっくに帰ってきているはずの時間だった。
「……高宮さん……」
小さく、名前を呼ぶ。
返事は、ない。
当たり前なのに。
それが、妙に怖かった。
ドクン。
心臓が、強く鳴る。
考えたくない。
でも。
考えてしまう。
「……行かなきゃ」
気づけば、立ち上がっていた。
理由なんてない。
ただ——
確かめないといけない気がした。
◇
夜の街。
静まり返っている。
いつもなら、もう少し人がいるはずなのに。
「……ここ……」
足が、止まる。
現場。
空気が、違う。
重い。
息が詰まりそうになる。
「……高宮さん?」
一歩、踏み出す。
足音が、やけに響く。
そして。
見つけた。
「……あ……」
そこに——
倒れている人影。
近づく。
分かってしまう。
でも、認めたくない。
「……ねえ……」
声をかける。
返事は、ない。
「……起きてよ……」
手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
「……え……」
頭が、真っ白になる。
「……嘘……」
もう一度、揺らす。
「……ねえ……起きてよ……」
何度も。
何度も。
でも。
動かない。
「……やだ……」
声が、震える。
「……やだ……」
現実が、押し寄せてくる。
これは。
もう。
戻らない。
「……なんで……」
ぽつりと、呟く。
そのとき。
「——遅かったわね」
声。
振り向く。
そこにいたのは——
ボルト。
街灯の下で、退屈そうに立っている。
「……あんた……」
その瞬間。
感情が、ぐちゃぐちゃになる。
怒り。
悲しみ。
理解できない衝動。
「……あなたがやったの?」
震える声で、問う。
ボルトは、あっさりと頷いた。
「ええ」
あまりにも、軽く。
「……っ……!」
息が詰まる。
視界が揺れる。
「……なんで……」
それしか言えない。
「……邪魔だったから」
即答。
迷いも、後悔もない。
「……そんな……」
言葉が、出てこない。
「ねえ」
ボルトが、一歩近づく。
「まだ分からない?」
静かな声。
「これが、“現実”よ」
その言葉が。
胸に、刺さる。
「……違う……」
否定する。
でも。
何も、否定できない。
「あなたたちの“正義”なんて、その程度」
冷たく言い放つ。
「守る?救う?」
くすっと笑う。
「守れてないじゃない」
「……っ……!」
言い返せない。
何も。
何も。
「……やめて……」
小さく呟く。
これ以上、聞きたくない。
「……弱いのよ」
ボルトの声が、重くなる。
「あなたも」
その視線が、刺さる。
「その力も」
ドクン。
胸が、脈打つ。
「……だから——壊れる」
その瞬間。
何かが、切れた。
音がした気がした。
頭の中で。
「……うるさい」
ぽつりと、呟く。
「……え?」
ボルトが、わずかに目を細める。
「……うるさい……」
ゆっくりと、立ち上がる。
涙は、止まっていた。
代わりに。
別のものが、そこにある。
「……黙れ」
その一言と同時に。
黒い光が、溢れた。
空気が、歪む。
地面が、軋む。
「……ああ」
ボルトが、笑う。
本当に、楽しそうに。
「それよ」
雷が、弾ける。
「やっと出た」
アカネの目が、ゆっくりと上がる。
その視線は——
もう、さっきまでのものじゃなかった。
「……殺す」
静かに、言う。
その言葉に。
ボルトは、満足そうに笑った。
「いいわ」
構える。
「来なさい、後輩」
その瞬間。
世界が、ぶつかる。




