覚醒
空気が、軋んでいた。
黒と、紫。
相反する力が、空間を歪ませる。
「……殺す」
アカネは、静かに言った。
感情は、ほとんど消えている。
残っているのは——
ただひとつ。
殺意。
「いい顔ね」
ボルトは笑う。
「やっと“それ”を出した」
雷が、弾ける。
バチッ!!
「来なさい」
その瞬間。
アカネの姿が、消えた。
——アクセル。
視界から消える速度。
次の瞬間。
懐。
「っ!!」
拳を叩き込む。
——パワー。
ドンッ!!
衝撃が爆ぜる。
だが——
「……いいわね」
ボルトは、受け止めていた。
片手で。
「でも——浅い」
バチンッ!!
雷撃。
至近距離で炸裂する。
「っ……!!」
アカネの身体が吹き飛ぶ。
地面を滑る。
だが。
すぐに立ち上がる。
「……まだ……」
呼吸が荒い。
でも止まらない。
止まれない。
「……壊す……」
再び踏み込む。
今度は——
水。
——ウォーター。
刃のように鋭い流れが、ボルトを切り裂く。
「……っ」
わずかに、当たる。
初めて。
「……へぇ」
ボルトの目が、細くなる。
「今のは良かった」
だが。
次の瞬間。
消える。
「……え」
背後。
「遅い」
バチッ!!
雷が、直撃する。
「がっ……!」
膝が崩れる。
神経が焼かれるような痛み。
「……ねえ」
ボルトの声が、すぐ近くにある。
「それ、本気?」
冷たい問い。
「……全部……出してる……!」
叫ぶ。
だが。
「嘘ね」
即答。
「まだ、“奥”がある」
ドクン。
胸が、脈打つ。
分かる。
確かに、ある。
もっと深いところに。
もっと、黒い何かが。
「……出しなさい」
ボルトが囁く。
「じゃないと——勝てない」
「……っ……!」
歯を食いしばる。
怖い。
あれは。
あの力は。
使ったら——
戻れない気がする。
「……それでも?」
ボルトが、静かに言う。
「そのまま、終わる?」
視線の先。
高宮の姿が、目に入る。
動かない。
もう、戻らない。
「……っ……」
感情が、揺れる。
壊れかけていたものが——
完全に、崩れる。
「……もう……」
声が、震える。
「……どうでもいい……」
その瞬間。
黒が、溢れた。
今までとは、違う。
重さが、違う。
空間が、悲鳴を上げる。
「……ああ」
ボルトが、笑う。
心底、嬉しそうに。
「それよ」
アカネの姿が、変わる。
黒い装束が、さらに深く染まる。
目の光が、変質する。
——デビルアカネ。
「……消えろ」
低い声。
次の瞬間。
消える。
いや——
“歪む”。
空間ごと。
「……っ!?」
ボルトの表情が、初めて変わる。
完全には、見えていない。
次の瞬間。
衝撃。
ドンッ!!
ボルトの身体が、吹き飛ぶ。
地面を抉る。
「……なるほど」
立ち上がる。
口元に、血。
初めてのダメージ。
「それが、“本体”」
楽しそうに笑う。
「いいじゃない」
雷が、さらに強まる。
「これなら——戦える」
構える。
完全に、本気。
だが。
次の瞬間。
空気が、変わった。
「……そこまでだ」
低い声。
重い圧。
その場の全てを支配するような存在感。
振り向く。
そこにいたのは——
司令官000。
いつの間にか、そこに立っていた。
「……ちっ」
ボルトが、舌打ちする。
「邪魔ね」
「その個体は、こちらの管理下にある」
感情のない声。
アカネを見る。
「回収する」
その言葉に。
黒い力が、わずかに揺れる。
「……触るな」
アカネが、低く言う。
だが。
000は、気にしない。
「抵抗は無意味だ」
その瞬間。
見えない“何か”が、空間を押さえつけた。
「……っ!?」
動けない。
力が、抑えられる。
「……なに……これ……」
初めての感覚。
支配される。
「……やっぱり、あんたか」
ボルトが、睨む。
「全部の元凶は」
000は答えない。
ただ。
「撤退しろ」
それだけを言う。
ボルトは、しばらく見つめてから——
「……まあいい」
肩をすくめる。
「今日はここまでにしてあげる」
アカネを見る。
「またね、後輩」
その一言を残して。
雷とともに消えた。
静寂。
残ったのは。
崩れた街と。
動けないアカネ。
そして——
すべてを見下ろす、000。
「……回収する」
その言葉が。
次の絶望の始まりだった。




