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【一章は毎日更新】記憶を失った魔法少女、世界の違和感に気づく  作者: mr.iwasi
第一章「破壊編」

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変身

それは、唐突に訪れた。


 


『コード:イエロー。悪魔反応を確認』


 


 館内に響く警報。


 


 さっきまでの静けさが、嘘みたいに崩れていく。


 


「……もう来たの?」


 


 高宮が小さく舌打ちする。


 


「アカネ、今回は近場だし——」


 


 一瞬だけ迷うような間。


 


「……ついてきて」


 


「え……?」


 


「見るだけでいい。絶対、前に出ないで」


 


 強い口調。


 


「……うん」


 


 頷くしかなかった。


 


 


 ◇


 


 現場は、住宅街だった。


 


 夕方の空。


 どこにでもあるはずの景色が——


 


 歪んでいた。


 


 空間が、揺れている。


 


 まるで、現実そのものがねじ曲がっているみたいに。


 


 


「……いる」


 


 


 高宮が低く呟く。


 


 


 視線の先。


 


 


 そこにいたのは——


 


 


「……これ……」


 


 


 “悪魔”。


 


 


 だが、さっき見たものとは違う。


 


 


 形が、より“具体的”だった。


 


 


 巨大な影。


 


 不自然に長い腕。


 


 そして——


 


 


 ぐちゃぐちゃに歪んだ“顔”。


 


 


 泣いているような、笑っているような。


 


 子供の落書きを無理やり現実にしたような、不気味さ。


 


 


「……今回は、ちょっと面倒そうね」


 


 


 高宮は淡々とそう言って、腕の装置に手をかける。


 


 


「アカネ、下がって」


 


 


 その一言で、身体が動く。


 


 


 距離を取る。


 


 


 次の瞬間。


 


 


「装備、展開——ファイヤー」


 


 


 炎が弾ける。


 


 


 高宮が、戦闘形態へと変わる。


 


 


「——行くよ」


 


 


 迷いはない。


 


 


 一瞬で距離を詰める。


 


 


 炎の拳が、悪魔に叩き込まれる。


 


 


 衝撃。


 


 だが——


 


 


「……っ、硬い……!」


 


 


 手応えが違う。


 


 


 悪魔はびくともしない。


 


 


『■■■■■■■■■■■』


 


 


 低い、重い音。


 


 


 次の瞬間。


 


 


 腕が振り下ろされる。


 


 


 空気が裂ける。


 


 


「——ッ!」


 


 


 高宮は回避するが、余波だけで地面が抉れる。


 


 


「……強い……」


 


 


 自然と、声が漏れる。


 


 


 あれは——


 


 


 さっきのとは、別格だ。


 


 


「チッ……!」


 


 


 高宮が距離を取る。


 


 


 炎を集める。


 


 


 だが——


 


 


 悪魔が先に動いた。


 


 


 地面から、黒い“何か”が噴き出す。


 


 


 影の杭。


 


 


 無数に伸びるそれが、高宮を包囲する。


 


 


「っ……!」


 


 


 避けきれない。


 


 


 一瞬。


 


 


 ほんの一瞬だけ。


 


 


 “危ない”と思った。


 


 


 そのとき。


 


 


 胸の奥が、熱くなる。


 


 


 ドクン、と脈打つ。


 


 


「……え……?」


 


 


 視界が、歪む。


 


 


 音が、遠くなる。


 


 


 代わりに——


 


 


 “声”がする。


 


 


 ——壊せ。


 


 


「……なに……」


 


 


 心臓が、強く打つ。


 


 


 身体の奥から、何かが溢れてくる。


 


 


 熱い。


 


 


 でも、炎とは違う。


 


 


 もっと——


 


 


 重くて、黒い。


 


 


「……やめて……」


 


 


 なのに。


 


 


 それは止まらない。


 


 


 腕が、勝手に動く。


 


 


 指先から、黒い光が滲み出る。


 


 


 空気が、歪む。


 


 


 周囲の温度が、一気に下がる。


 


 


 ——壊せ。


 


 


「……ちが……」


 


 


 視線の先には——


 


 


 高宮。


 


 


 追い詰められている。


 


 


 助けなきゃ。


 


 


 そう思う。


 


 


 なのに。


 


 


 頭の奥では、別の声が響く。


 


 


 ——全部、壊せばいい。


 


 


「……っ!!」


 


 


 その瞬間。


 


 


 “何か”が弾けた。


 


 


 黒い光が、身体を包み込む。


 


 


 変わる。


 


 


 皮膚の感覚が、変質する。


 


 骨が軋む。


 


 


 ——これが、“変身”。


 


 


 理屈なんて分からない。


 


 


 ただ、本能で理解する。


 


 


 これは——


 


 


 “武装”じゃない。


 


 


 自分そのものが、変わっている。


 


 


「……アカネ!?」


 


 


 高宮の声。


 


 


 だが、遠い。


 


 


 視界が赤く染まる。


 


 


 全部が、遅く見える。


 


 


 悪魔も。


 


 攻撃も。


 


 


 全部——


 


 


 “壊せる”。


 


 


 そう、分かってしまう。


 


 


 腕を振り上げる。


 


 


 それだけで——


 


 


 終わる。


 


 


 確信があった。


 


 


 だが。


 


 


「……やめろ!!」


 


 


 その声で。


 


 


 動きが、止まった。


 


 


 高宮だ。


 


 


 血を流しながら、それでも叫んでいる。


 


 


「それ……使うな!!」


 


 


 必死な声。


 


 


 初めて見る顔だった。


 


 


 恐怖。


 


 


 あの高宮が、明確に“恐れている”。


 


 


「……え……?」


 


 


 その瞬間。


 


 


 意識が、戻る。


 


 


 黒い光が、揺らぐ。


 


 


「……あ……」


 


 


 何をしようとしていたのか。


 


 


 一気に理解する。


 


 


「……やだ……」


 


 


 腕が、震える。


 


 


「……こんなの……」


 


 


 嫌だ。


 


 


 こんな力。


 


 


 使いたくない。


 


 


 ——壊せ。


 


 


「……いやぁあああ!!」


 


 


 叫びと同時に。


 


 


 黒い光が、弾けて消えた。


 


 


 身体が、元に戻る。


 


 


 膝から崩れ落ちる。


 


 


 息が、荒い。


 


 


 心臓が、痛いほど鳴っている。


 


 


「……アカネ……」


 


 


 高宮が、ゆっくりと近づいてくる。


 


 


 その目には——


 


 


 明らかな、“警戒”があった。


 


 


「……今の……なに……?」


 


 


 震える声で、問いかける。


 


 


 だが、高宮はすぐには答えなかった。


 


 


 代わりに——


 


 


「……とりあえず、下がって」


 


 


 そう言って、再び悪魔の方を向く。


 


 


 戦いは、まだ終わっていない。


 


 


 けれど。


 


 


 さっきまでとは、何かが違っていた。


 


 


 空気が、変わっている。


 


 


 悪魔が、動かない。


 


 


 いや——


 


 


 “動けない”。


 


 


 さっきの一瞬で。


 


 


 何かが、完全に変わってしまった。


 


 


「……今の……」


 


 


 高宮が、小さく呟く。


 


 


「……最悪だ……」


 


 


 その言葉の意味を。


 


 


 アカネは、まだ知らない。


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