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【一章は毎日更新】記憶を失った魔法少女、世界の違和感に気づく  作者: mr.iwasi
第一章「破壊編」

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000 

 白い廊下は、どこまでも続いているように見えた。


 


 足音だけが、やけに響く。


 


「……さっきの人、すごかったね」


 


 前を歩く高宮に声をかける。


 


「ん? ああ、さっきのは私だけど」


 


「……あ」


 


 少しだけ、気まずい沈黙。


 


 高宮はくすっと笑う。


 


「まあ、ああいうのが仕事だから」


 


 軽い言い方。


 けれど、その裏にあるものは軽くない。


 


「……ねえ」


 


 思い切って聞く。


 


「さっきの、“正しいこと”って……」


 


 言いかけたところで。


 


 足が止まった。


 


 


 目の前に、大きな扉がある。


 


 


 無機質な金属製。


 取っ手も、鍵穴もない。


 


 


 代わりに——中央に、小さなパネルが埋め込まれていた。


 


 


「……ここ」


 


 


 高宮が短く言う。


 


 


「この先にいるのが、“司令官”000(トリプルゼロ)」


 


 


 空気が、変わる。


 


 


 無意識に、背筋が伸びた。


 


 


 高宮がパネルに手をかざす。


 


 


 電子音。


 


 


 扉が、ゆっくりと開いていく。


 


 


 中は——暗かった。


 


 


 光は、ほとんどない。


 


 広い空間の奥に、ひとつだけ。


 


 椅子がある。


 


 


 そして。


 


 


 そこに、“誰か”が座っていた。


 


 


「……来たか」


 


 


 低い声。


 


 感情の揺れが、一切感じられない。


 


 


 顔は見えない。


 


 逆光で、影になっている。


 


 


「報告は受けている。対象は排除済みだな」


 


 


「はい、問題ありません」


 


 


 高宮の声が、少しだけ固くなる。


 


 


 さっきまでとは違う。


 


 


 完全に、“部下”の声だった。


 


 


「……で、その子が?」


 


 


 視線が、こちらに向く。


 


 


 それだけで。


 


 


 身体が、動かなくなる。


 


 


 見られている。


 


 ただそれだけなのに、逃げ場がない感覚。


 


 


「はい。身元不明、記憶喪失。ただ——」


 


 


 高宮が、一瞬だけ言葉を止める。


 


 


「……通常とは、少し違う反応がありました」


 


 


 その言葉に。


 


 


 空気が、わずかに揺れた気がした。


 


 


「……ほう」


 


 


 椅子に座る“それ”が、ゆっくりと身を乗り出す。


 


 


「名前は?」


 


 


「……アカネ、です」


 


 


 その名前を聞いた瞬間。


 


 


 一瞬だけ、間があった。


 


 


 ほんの、わずかな沈黙。


 


 


 けれど、それは見逃せるものじゃなかった。


 


 


「……そうか」


 


 


 それだけ言う。


 


 


 だが、その一言に。


 


 


 “何かを知っている”気配が、確かにあった。


 


 


「アカネ」


 


 


 呼ばれる。


 


 


「前へ」


 


 


 命令。


 


 


 気づけば、足が動いていた。


 


 


 近づくほどに、その存在がはっきりしてくる。


 


 


 黒いスーツ。


 整った姿勢。


 


 


 そして——


 


 


 顔。


 


 


 無表情。


 


 


 まるで、人形みたいに整っているのに。


 


 


 “人間らしさ”が、どこにもない。


 


 


「……君は、自分が何者か分かるか?」


 


 


 静かに問われる。


 


 


「……わかりません」


 


 


 正直に答えるしかない。


 


 


「記憶は?」


 


 


「……ありません」


 


 


「そうか」


 


 


 短い返事。


 


 


 興味があるのか、ないのかも分からない。


 


 


「では、教えてやろう」


 


 


 その言葉に、わずかに緊張が走る。


 


 


「この世界には、“悪魔”が存在する」


 


 


 淡々とした説明。


 


 


「それは人の深層心理——特に、子供の想像から生まれる歪みだ」


 


 


 さっき高宮が言っていた内容と、同じ。


 


 


「そして、それを排除するために我々は存在する」


 


 


「……我々……?」


 


 


「国際防衛機関——Cicada」


 


 


 その名前が、やけに重く響く。


 


 


「君のような適性を持つ者は、“魔法少女”として戦ってもらう」


 


 


 当然のように言う。


 


 


 まるで、選択肢など最初からないかのように。


 


 


「……戦う……?」


 


 


 思わず、聞き返す。


 


 


 あの光景が、頭をよぎる。


 


 崩れる街。


 黒い影。


 


 


「できない理由は?」


 


 


 即答。


 


 


 言葉が、詰まる。


 


 


「……わからない……」


 


 


「なら問題ない」


 


 


 そう言い切る。


 


 


 何もかもが、一方的だった。


 


 


「高宮」


 


 


「はい」


 


 


「その個体の管理を任せる」


 


 


 個体。


 


 


 その言葉に、引っかかりを覚える。


 


 


「戦闘適性の確認も含め、段階的に実戦投入しろ」


 


 


「了解しました」


 


 


 高宮は迷いなく答える。


 


 


 それが、当たり前のことのように。


 


 


「……ひとつ、いいですか」


 


 


 気づけば、口を開いていた。


 


 


 高宮が、少し驚いたようにこちらを見る。


 


 


「……なんだ」


 


 


 000の視線が、再びこちらに向く。


 


 


「……さっきの戦いって……」


 


 


 言葉を選ぶ。


 


 


「……正しいこと、なんですか」


 


 


 静寂。


 


 


 数秒の沈黙。


 


 


 そのあと。


 


 


「——当然だ」


 


 


 即答だった。


 


 


「悪魔は人類にとっての脅威であり、排除すべき対象だ」


 


 


 感情のない声。


 


 


「そこに、善悪の議論は必要ない」


 


 


 言い切る。


 


 


「我々は秩序を守る。そのために存在している」


 


 


 それは、あまりにも正しい答え。


 


 


 正しすぎて——


 


 


 どこか、冷たかった。


 


 


「……以上だ。下がれ」


 


 


 それで、会話は終わりだった。


 


 


 高宮が軽く会釈し、こちらに目配せする。


 


 


 従うしかなかった。


 


 


 部屋を出る。


 


 


 扉が閉まる。


 


 


 その瞬間。


 


 


 張り詰めていた空気が、一気にほどけた。


 


 


「……どうだった?」


 


 


 高宮が、少し苦笑しながら聞いてくる。


 


 


「……なんか……」


 


 


 うまく言葉にできない。


 


 


「……怖い人……」


 


 


 正直な感想だった。


 


 


 高宮は、少しだけ目を伏せる。


 


 


「まあ、否定はしない」


 


 


 小さく呟く。


 


 


「でも、あの人がいなきゃ、この世界はとっくに終わってる」


 


 


 それもまた、事実のように聞こえた。


 


 


 だから余計に——


 


 


 分からなくなる。


 


 


 何が正しくて、何が間違っているのか。


 


 


 ただひとつ。


 


 


 確かなのは——


 


 


 ここに来てからずっと。


 


 


 “何かがズレている”という感覚だけだった。


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