炎の魔法少女
『戦闘区域:第七ブロック。悪魔反応、急速拡大中』
無機質な声が、空間全体に響き渡る。
「アカネ、ここで待ってて」
炎の装備を纏った高宮が、振り返る。
「絶対、動かないで」
その声は、さっきまでとは違っていた。
優しさの奥に、はっきりとした“命令”の色がある。
「……う、うん」
頷くことしかできない。
次の瞬間。
高宮の姿が、消えた。
「……え……?」
遅れて、風が吹き抜ける。
速い。
目で追えないほどのスピード。
モニターに視線を向ける。
そこに映し出されていたのは——
“戦場”だった。
街の一角。
道路はひび割れ、建物の窓ガラスは砕け散っている。
そして、その中心にいたのは——
「……あれが……悪魔……」
黒い塊。
いや、“塊”と呼ぶにはあまりにも不安定だった。
輪郭が揺らぎ、伸び、崩れ、また別の形になる。
人の顔のようなものが浮かんでは消え、子供の落書きのような歪な手足が伸びる。
見ているだけで、気分が悪くなる。
——その前に。
赤い閃光が走る。
高宮だ。
「はぁッ!!」
炎を纏った拳が、悪魔の中心を撃ち抜く。
爆ぜるような衝撃。
黒い身体が大きく歪み、悲鳴のようなノイズが響く。
『——■■■■■■■ッ!!』
言葉にならない声。
それだけで、空気が震える。
だが、高宮は止まらない。
「逃がさない——!」
地面を蹴る。
炎の軌跡が、一直線に伸びる。
次の瞬間。
回し蹴り。
炎が渦を巻き、悪魔の身体を吹き飛ばす。
「……すごい……」
思わず、声が漏れる。
速い。
強い。
迷いがない。
まるで、戦うために生まれてきたみたいに。
——でも。
違和感があった。
完璧すぎる。
動きに無駄がない分、どこか“機械的”に見える。
感情が、見えない。
「……なんで……」
あんなに強いのに。
どうして、少しだけ——怖く見えるんだろう。
そのとき。
悪魔の身体が、大きく膨れ上がる。
「っ——来る!」
高宮が距離を取る。
次の瞬間。
黒い腕のようなものが、無数に伸びた。
地面を叩き、建物を貫き、空間そのものを裂くような攻撃。
「ちっ……!」
高宮は紙一重でそれを回避する。
だが——
一本が、肩をかすめた。
「っ……!」
火花が散る。
装備の一部が、削れる。
『■■■■■■■■■■!!』
悪魔が、さらに暴れ出す。
さっきまでとは明らかに違う。
力が、増している。
「……成長、してる……?」
その言葉に、背筋が冷たくなる。
高宮は一瞬だけ息を整え——
「……なら、出し惜しみしてる暇ないか」
そう呟いた。
両手に、炎が集まる。
さっきよりも濃く、重く、熱い。
空気が、歪む。
「これで——終わり」
静かに言い放つ。
「——フレア・ブレイカー」
放たれた炎は、“柱”だった。
一直線に伸びる、圧倒的な熱量。
それが、悪魔を真正面から貫く。
閃光。
爆発。
そして——
黒い影が、音もなく崩れ落ちる。
静寂。
戦いは、終わった。
「……すごい……」
もう一度、同じ言葉がこぼれる。
完全勝利。
誰が見ても、そう言える結果だった。
なのに——
胸の奥の“何か”が、ざわついている。
——違う。
——それじゃ、足りない。
「……え……?」
自分の中から聞こえたその声に、思わず息を呑む。
足りない?
何が?
あれだけの力で、十分じゃないのか?
分からない。
分からないのに——
もっと、“壊せる”気がした。
もっと、“簡単に終わらせられる”気がした。
「……なんで……」
自分の考えとは思えない。
なのに。
その感覚だけは、やけにリアルだった。
そのとき。
通信が入る。
『対象の排除を確認。戦闘員は帰還せよ』
機械的な声。
それを聞いた瞬間。
高宮は、何も言わずにその場を離れた。
まるで。
最初から“終わりが決まっていた”みたいに。




