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【一章は毎日更新】記憶を失った魔法少女、世界の違和感に気づく  作者: mr.iwasi
第一章「破壊編」

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武装

 病院を出たとき、外の空気はやけに冷たく感じた。


 昼間のはずなのに、人通りは少ない。

 どこか、世界が静かすぎる気がする。


 


「歩ける?」


 


 隣を歩く高宮が、ちらりとこちらを見る。


 


「……うん」


 


 短く答える。


 身体に問題はない。むしろ、不自然なくらい軽い。


 


 ——本当に、普通じゃないのかもしれない。


 


「じゃあ、行こっか」


 


 高宮はそう言って、迷いなく歩き出した。


 


「……どこに?」


 


「さっき言ったでしょ。“来てほしい場所”」


 


 振り返りもせずに答えるその背中は、妙に頼もしく見えた。


 


 しばらく無言で歩く。


 


 街は、やっぱり普通だった。


 人がいて、車が走って、店が開いている。


 


 ——なのに。


 


 どこか“ズレている”。


 


 言葉にできない違和感が、ずっとつきまとっていた。


 


「……ねえ、高宮さん」


 


「なに?」


 


「さっきの……“普通じゃない”って……」


 


 言いかけて、言葉を選ぶ。


 


「どういう意味……?」


 


 高宮は少しだけ考えるように黙り込んだあと、ぽつりと答えた。


 


「見た方が早いよ」


 


 それだけだった。


 


 それ以上、何も教えてくれない。


 


 やがて、高宮の足が止まる。


 


「ここ」


 


 目の前にあったのは——


 


 どこにでもありそうな、古びた雑居ビルだった。


 


「……ここが?」


 


「うん」


 


 高宮は迷いなく中に入っていく。


 


 ついていくしかなかった。


 


 


 中は、外観とはまるで別物だった。


 


 エレベーターの扉が閉まり、ボタンを押す。


 だが、表示されている階数は途中で消えた。


 


 代わりに——見たことのない記号が並ぶ。


 


「……なに、これ……」


 


「気にしなくていい」


 


 淡々とした声。


 


 やがて、エレベーターが止まる。


 


 扉が開いた瞬間。


 


 そこに広がっていたのは——


 


 “別世界”だった。


 


 白い空間。


 無機質な床と壁。


 行き交う人々は、全員同じような黒いスーツを着ている。


 


 そして。


 


 壁一面に並ぶ、大型モニター。


 


 そこに映っていたのは——


 


「……なに、これ……」


 


 思わず、息が止まる。


 


 画面の中で、“何か”が暴れていた。


 


 黒く歪んだ影。

 形は定まらず、見るたびに変わる。


 


 それが、街の一角を破壊している。


 


 人が逃げ惑っている。


 


「……あれが、“悪魔”」


 


 高宮の声が、やけに静かに響いた。


 


「子供の想像が歪んで生まれた、“悪夢”」


 


「……悪夢……?」


 


 理解が追いつかない。


 


「で、あれを倒すのが——」


 


 高宮は一瞬だけこちらを見る。


 


「私たち、“魔法少女”の仕事」


 


 


 その瞬間。


 


 別のモニターに、映像が切り替わる。


 


 そこには、一人の少女がいた。


 


 腕に装置を装着し——


 


「……装備、展開」


 


 無機質な声と共に、光が弾ける。


 


 次の瞬間、その身体は“武装”に包まれていた。


 


 機械的で、洗練された戦闘装備。


 


 そして——


 


 悪魔に向かって突撃する。


 


 


「……あれが、魔法少女……?」


 


「そう。“武装型”だけどね」


 


 高宮は軽く言う。


 


「……武装型……?」


 


「外付けの力。誰でも扱える、安全なタイプ」


 


 さらっと言うその言葉に、違和感が引っかかる。


 


「……じゃあ、“安全じゃない”のもあるの?」


 


 


 一瞬だけ。


 


 高宮の足が止まった。


 


 


「……あるよ」


 


 振り返らずに、そう答える。


 


 


「でも——それは、あんまり知らない方がいい」


 


 


 その言い方は、まるで。


 


 “触れてはいけないもの”を示すみたいだった。


 


 


 そのとき。


 


 警報が鳴り響く。


 


 甲高いアラート音。


 


『コード:レッド。悪魔反応増大。戦闘員は至急配置へ』


 


 機械音声が、空間全体に響く。


 


 


「……来たね」


 


 高宮は、わずかに息を吐く。


 


 


「アカネ」


 


 


 その名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。


 


 


「ちょっとだけ——見てて」


 


 


 そう言って。


 


 高宮は、自分の腕に何かを装着した。


 


 


「……え……」


 


 


 赤い光が、弾ける。


 


 


「装備、展開——ファイヤー」


 


 


 炎のようなエフェクトが、身体を包み込む。


 


 


 次の瞬間。


 


 高宮の姿は、“戦うための存在”へと変わっていた。


 


 


 ——これが、魔法少女。


 


 


 けれど。


 


 


 それを見た瞬間。


 


 アカネの胸の奥で、“何か”がざわついた。


 


 


 ——違う。


 


 ——それじゃない。


 


 


 理由は分からない。


 


 でも、本能が理解していた。


 


 


 これは、“自分のものじゃない”。


 


 


 もっと、別の——


 


 “内側から溢れる力”があるはずだと。


 


 


「……なに、これ……」


 


 


 無意識に、手を握る。


 


 


 その瞬間。


 


 黒いノイズのようなものが、視界の端をかすめた。


 


 


 ——壊せ。


 


 


「……っ!?」


 


 


 思わず顔を上げる。


 


 


 だが、もうそこには何もない。


 


 


 ただひとつ確かなのは——


 自分の中に、“何か”がいるということだけだった。




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