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【一章は毎日更新】記憶を失った魔法少女、世界の違和感に気づく  作者: mr.iwasi
第一章「破壊編」

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はじまり

街が、壊れていた。


 いや、“壊されていた”と言うべきかもしれない。


 ビルは根元からへし折れ、アスファルトは波打つようにひび割れ、信号機は無残にねじ曲がっている。まるで、見えない何かが街そのものを握り潰したかのようだった。


 空気が重い。焦げた匂いと、鉄の味が混ざっている。


 誰もいない。


 悲鳴すら、もう残っていなかった。


 ただ一人を除いて。


 


 ——それは、“少女”だった。


 


 瓦礫の中心に、ひとつの影が立っている。


 長い髪は風もないのに揺れ、身体を覆うのは、禍々しく歪んだ装束。ドレスのようでいて、どこか生物的に脈打っている。


 その姿は、もはや「魔法少女」などという言葉では片付けられない。


 異形。


 あるいは——悪魔。


 


 少女はゆっくりと顔を上げた。


 瞳は赤く濁り、どこにも焦点が合っていない。


 


「……まだ、足りない」


 


 感情のない声。


 けれどその奥に、底の見えない“何か”が渦巻いていた。


 


 次の瞬間。


 


 地面が、沈んだ。


 


 音は遅れてやってくる。


 轟音。


 衝撃。


 爆ぜるように空気が裂け、残っていた建物が一斉に崩れ落ちる。


 


 少女は、ただ右手を軽く振り下ろしただけだった。


 


 それだけで、街の一角が消えた。


 


 粉塵の中で、少女はぼんやりと呟く。


 


「……壊す」


「全部……壊す」


 


 その言葉は、誰に向けたものでもない。


 ただ、自分自身に言い聞かせるように。


 


 だが——そのとき。


 


「……やめろ」


 


 微かな声が、瓦礫の向こうから聞こえた。


 


 少女の動きが、止まる。


 


 ゆっくりと、そちらを見る。


 


 崩れた壁の影に、一人の人影があった。


 制服は破れ、血に濡れ、それでも立ち上がろうとしている。


 


「……アカネ」


 


 その名前を呼ぶ声は、震えていた。


 


 少女——アカネの瞳が、わずかに揺れる。


 


「……たか、みや……?」


 


 かすれた声。


 ほんの一瞬だけ、“人間”の色が戻る。


 


 だが、それも長くは続かなかった。


 


 頭の奥で、何かが囁く。


 


 ——壊せ。


 ——それも敵だ。


 ——全部、終わらせろ。


 


「……ちが……う……」


 


 アカネは頭を押さえる。


 痛み。


 いや、それ以上に——“意思”が侵食されていく感覚。


 


「……やめて……」


 


 だが、声は届かない。


 


 ゆっくりと、アカネの腕が持ち上がる。


 


 向けられる先は——高宮。


 


「……来るな……」


 


 高宮は一歩も引かなかった。


 


「お前は……そんなやつじゃ……」


 


 言い切る前に。


 


 世界が、白く染まった。


 ——その日、街は消えた。




 目を覚ましたとき、世界はやけに静かだった。


 白い天井。規則的に鳴る電子音。窓の外には、何事もなかったかのような青空が広がっている。


 あの崩壊が、まるで嘘みたいに。


 


「……ここ、どこ……」


 


 声に出してみるが、やはりどこか現実感がない。


 記憶が——ない。


 自分が誰なのか、何をしていたのか、どうしてここにいるのか。


 何一つ、思い出せなかった。


 


 ただひとつ。


 


 胸の奥に、黒い“何か”が残っている。


 


 焦げついたような感情。


 怒りなのか、悲しみなのか、それすら分からない。


 


「……気がついた?」


 


 不意に、ドアが開く音。


 


 振り向くと、そこに立っていたのは——


 


 一人の少女だった。


 


 少し長めの黒髪を後ろで束ねている。制服姿からして、高校生くらいだろうか。


 落ち着いた目つき。けれどどこか、こちらを値踏みするような視線。


 


「……だれ……?」


 


 自然と口からこぼれた言葉に、少女は一瞬だけ目を細めた。


 


「そっか。やっぱり、何も覚えてないんだ」


 


 ため息まじりにそう言って、彼女はベッドの横まで歩いてくる。


 


「ここは病院。あなた、倒れてたの」


「大きな怪我はなかったけど……ちょっと、普通じゃない状態でね」


 


 普通じゃない——その言葉に、心がわずかにざわつく。


 


「……わたし……」


 


 言葉が続かない。


 名前すら、出てこない。


 


 少女はしばらくこちらを見つめたあと、ぽつりと呟いた。


 


「……名前、ないの?」


 


 その問いに、答えられない。


 沈黙が、何よりの答えだった。


 


「……そっか」


 


 少女は少し考えるように視線を逸らし、やがてこちらに向き直る。


 


「じゃあ、仮でいい?」


 


「……え?」


 


「あなたの名前。ないと不便でしょ」


 


 そう言って、彼女はわずかに口元を緩めた。


 


「“アカネ”ってどう?」


 


「……アカネ……」


 


 その音を、ゆっくりと口の中で転がす。


 


 なぜか、少しだけ——しっくりきた。


 


「……うん」


 


 小さく頷く。


 それが、自分の名前になる。


 


「よし、決まり」


 


 少女は満足そうに頷いた。


 


「私は高宮。高宮ユウナ」


 


 そう言って、手を差し出してくる。


 


 一瞬、ためらう。


 


 ——この人を、信じていいのか?


 


 理由はない。


 けれど、胸の奥の“何か”が、微かに警鐘を鳴らしていた。


 


 それでも。


 


 ここで手を取らなければ、自分はどこにも行けない気がした。


 


 ゆっくりと、その手を握る。


 


 温かい。


 


「よろしく、アカネ」


 


 その言葉に、ほんの少しだけ安心する。


 


 


 ——だが、その瞬間。


 


 頭の奥に、ノイズのような映像が走った。


 


 崩れる街。


 赤く染まる空。


 


 そして——


 


 誰かが、倒れている。


 


「……っ!」


 


 思わず頭を押さえる。


 


「どうしたの!?」


 


 高宮の声が遠くに聞こえる。


 


「……いま……」


 


 見えた。


 確かに、何かを見た。


 


 けれど——思い出せない。


 


「……なんでも、ない……」


 


 そう言うしかなかった。


 


 高宮は少しだけ不安そうな顔をしたが、それ以上は追及してこなかった。


 


「無理しなくていい。どうせ、これから嫌でも分かるから」


 


「……え?」


 


 その言葉の意味を聞き返す前に。


 


 高宮は、少しだけ真面目な表情になる。


 


「アカネ」


 


「あなた、“普通の人間じゃない”可能性がある」


 


 静かに告げられたその言葉は——


 


 やけに、すんなりと胸に落ちた。


 


 


「だから、来てほしい場所があるの」


 


 


 まだこの時は——


 


 何もわかってなかった。


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― 新着の感想 ―
導入から空気が重くて、一気に引き込まれました。魔法少女ものなのに、きらびやかさよりも不穏さと違和感が前に出ていて、そこがすごく好きです。高宮の強さもかっこいいのに、どこか機械みたいで怖い。その一方で、…
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